「さーてと、待ちに待ったお餅つき!楽しみだわ・・・
 あのもち米を片っ端から叩きつぶしてゆく快感!ストレス発散に最高!」
「お前ひとつひとつ言い方怖いんだよ」
「さーいっくわよー!」
とリコーダーは杵を振り上げる。
どうやらそこはフルートの血筋、重いものを持ち上げるのには適しているらしい。
まあ、ハーメルもバイオリンをラケットにオーボウを殴っていたが・・・
「わぁ、ちょっと待て!」
ヴァルヴが慌ててしゃがみこんでよける。
回りにもち米が飛び散った。
「あれ?」
「最初から叩いてどうするー!最初は杵使ってこねて、
 ある程度の固まりにしてからつかないと飛び散るの当たり前だろーが!」
「あははは、そうなの!ヴァルヴって物知りね」
「ったくお前には任せられないな・・・」
ヴァルヴはリコーダーの手から杵をとると、もち米を軽くつぶし始めた。
「何だかんだ言って二人お似合いよね、クラビさん」
「まあな・・・案外ヴァルヴはリコーダーをうまく扱ってる」
ヴィオリーネとクラビがそんなことを言いながら呑気に話している。

しばらくして。
「ほら、これくらいになれば大丈夫だろ」
「わー、ありがとヴァルヴ〜」
「じゃオレは水つけるから、オレの手を殴らないようにしろよ」
「わかってるわよー」
リコーダーとヴァルヴは、ようやく餅つきを始めた。
息はぴったり合っている。
「わあ、本当・・・二人って仲良しなのね」
カノンが感動したように言った。
(・・・本当は本能的にリコーダーの攻撃をかわしてるだけなんだけどな)
ヴァルヴが心の中で呟いた。
やはり彼も恐妻家には違いないようであった。

「さーてと、餅もたくさんつけたし、アリア!
 お汁粉の鍋とお雑煮の鍋は用意できた?」
「オッケーやで!」
アリアがサスフォーと一緒に鍋を部屋の外に運ぶ。
そして、大きな焚き火で加熱を開始した。
「わー、楽しみー」
皆、外を見る。
ちょうど雪もやんで、調理にはぴったりであった。
「薪が足りるかなぁ」
ディオンが不安そうに言う。
人数が増えたので鍋を大きくしたところ、薪が足りなくなる心配が出たらしい。
「いいじゃない、ワープ魔法が使えるクラーリィさんなら雪山でも大丈夫だし
 力も強いって聞いてるけど・・・拾いに行ってもらえば?
 それを魔法で乾燥させて使えば・・・」
ディオンの妻が言った。
「いや、あの人は・・・方向音痴だから、遭難すると思うよ」
ディオンが答える。
クラーリィが向こうでクシャミをした。

その時。
「遅くなりましたー!」
聞き覚えのある声がして、ハーメルたちはそっちを向いた。
そこには、見るからに派手な金髪一家。
いや、派手なのは金髪のせいではなく・・・黄金のピアノのせいだろう。
ライエル一家の到着であった。
「ああっ、ライエルさん」
「丁度いいところに!!」
「へ?」
いきなり歓迎されて、ライエルは驚く。
するとエリとアリアが言った。
「「火の鳥くん、貸して!」」
こうしてライエルの召還した火の鳥くんのおかげで、
薪の心配はなくなったのである。
「火の鳥くん、今度は弱火だー!」
「コケェー!」
「頑張れ、ライエル!」
サイザーが傍でエールをおくっている。
一方、鍋から離れた場所では、
「わーい、ライエル叔父さんが来たー!お年玉がもらえるー」
「やったー」
リコーダーとクラベスが喜んでいた。

新年早々登場するなりガスコンロ代わりにされ、
あの大人数のハーメル・フルートの子供達に
お年玉を払わなければいけないライエル・・・
もしかしたら彼が一番大変なのかもしれない、と皆思うのだった。


出来上がったお雑煮は、みんなの手に回された。
公民館の中も空気は冷たいが、みんなで食べる雑煮やお汁粉はあったかい。
「うぉ〜!めっちゃうめぇ〜〜!!」
「アリアさん最高にうまいっす!!」
ハーフルの子どもたち、とりわけ年上の兄弟は食べ盛りなせいか、
何度も何度もお代りしていた。
「せやろ〜♪もっと食べな〜!まだまだ残ってるでー!」
アリアは威勢よく声をあげると、四方八方から「おかわり!」の声が飛んできた。
見た目はあまりふけてないアリアだが、大阪の肝っ玉オバチャンを
『自称』するだけある。

フォルはその様子を見て、記者としての腕がうずうずと唸っていた。
「シ・・・シンフォニーくん!!」
「フォルっ!気持ちはわかるっ!」
「ダメ・・・やっぱり記者の血が騒ぐわっ!!
 こんな勇者パーティたちと二世代がみんな集って
 お雑煮とお汁粉食べるシーンなんて滅多にないわよっ!
 というわけで、シンフォニーくん、カメラ用意!」
「だから、今日くらいは記者魂は置いておいて
 お雑煮食べようよ〜〜〜」
「いいえっ!こんなシーンは滅多にないんだから
 勿体ぶっちゃダメよ!はい!三脚用意!」

フォルとシンフォニーがワーワーと言い合っている間、
一方ではリズムとコルヌが再びケンカを始めていた。
「ねぇっ!!私のおもち返してよっ!」
「やーなこった。返してほしけりゃ、取り返してみろよ〜〜」
「くぅぅ〜〜〜にくったらしい!!」

リズムは釜戸の火よりも顔を熱く燃えだぎらせなが
ら、食べかけのお雑煮を床に置いて立ち上がった。
それを見て、メロディの表情が恐怖におののく。
「うわぁぁ〜〜リズー!ダメよっ早まっちゃ!!」
「メロ。こういう脳みそすっからかんの馬鹿にはね、
 一度痛みというものを思い知らせなきゃダメなのよ」
「でも、ママが暴力はダメだって」
「これは、正当防衛っていうのよ!」
「でもダメよっダメぇ〜〜〜!!」

コルヌの前に仁王立ちするリズム。
当然、彼よりも身長が低い。ただでさえ
学校内でも背の順では一番前で、みんな「前へ倣え」のポーズをする中、
自分ひとりだけはいつも両手を腰に当てるポーズなのだ。

「なんだよ、ピンク」
コルヌが意地悪そうな笑みを浮かべる。
すると、リズムはドガッとコルヌの弁慶の泣き所をキックした。
「いっ!痛えええええええええええ!!!」
「フンだっ!!私を甘くみると怖いわよっ。
 山椒は小粒でもケロロと辛いって言うんだから!」
「姉さん・・・それを言うなら『ピリリ』だよ」
ノエルが隣で冷静に修正を入れていた。

「この野郎〜〜〜!」
ひざを抱えて呻いていたコルヌは、眉をつり上げると
一気にリズムに飛び掛ってきた。
「甘い!!」
しかし、リズムはそう言って身を翻すと、
宙に舞い上がり、とび蹴りをかました。
「オディール天舞脚!!!」
ガツーンッ!!と今度はコルヌの顎下にストレートキックをかました。
もはや、公民館は戦場と化しつつあった。

異常な光景に、ネッド夫妻を始め、親世代全員が息を飲んだ。
「コラッ!!リズム!!何やってるんだ!!」
クラーリィの一喝にも関わらず、
リズムはコルヌに攻撃をかまし続ける。
コルヌも反撃を繰り出していて、双方とも取っ組み合いのケンカと化していた。

するとその時、リズムの足が雑煮のおわんに引っかかり、
おわんがコト・・・と音を立てて倒れた。
それがなんと、カノンの約数億するという着物にかかってしまったのだ。

「あ・・・お着物が・・・」
カノンは小さく声をあげたが後の祭り。
雑煮の汁はべっちょりと着物についてしまった。
リズムとコルヌもその事態に気づくと、
「あっ・・・」と声を揃えて、戦闘態勢のまま固まった。
その様子を見て、エリは「あっちゃぁ〜」と額に手を当てる。

「・・・私のためにお父様が用意して下さったお着物が・・・・」
カノンの目には、みるみると涙がたまり、
それはポタン・・・と着物の上にしみこんだ。
リズムとコルヌも、決まり悪そうにその場で立ち竦んでいる。
嵐の前の静けさならぬ、嵐の後の静けさである。




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