「いてぇなー!フルート!!」
殴られたハーメルはフルートにつっかかる。
「アンタはどこからどこまで自己中なのよっ!」
「ああ!?早くモチを食いたいのに、
クラーリィんとこのへなちょこがトロトロしてるのが悪ぃんだろ!!」
「なんですって!?ノエルくんに謝りなさいっ!」
そこへ、クラーリィが「爆!!」と魔法をハーメルに破撃した。
顔にはメラメラと怒りの炎が燃えたぎっている。
「貴様!!それ以上オレの息子のことを悪くいってみろ!!」
「だって本当じゃねーか!モチが早く出来上がったんだ、ありがたいと思え!!」
「何だと貴様!!」
今、まさに魔法使いVS魔曲使いの乱闘が始まろうとしている。
パニック状態に陥る公民館。
すると、「パンパン!!」と手を叩く音が聞こえた。
「ハーイハイハイハイ。そこまでや!!」
やってきたのは、もち米の入ったタライを持ったアリアだった。
「アンタらわぁ、ほんま大人げないわっ!!
今年でいったいいくつなると思てん?情けないわまったく!!」
アリアは大きく溜め息をつきながら、うすの中から
魔曲によって早めに完成されたモチを引き上げた。
「はい。このもち米は第二弾用やで。
今度はみんなに順番が回ってこれるようにせなアカンよ!!」
そう言うと、アリアを始め周りにいた女性陣が
出来上がったモチを台所へと持っていってしまった。
「フゥ。じゃあ、早いけど第二弾へといきますか」
フルートはため息をつくと、リコーダーが
「待ってました!!」と言わんばかりに翼をはためかせながらやってきた。
「さぁーっ!!今度はパパに邪魔されないわよっ!」
そう言って、ガシッと杵を持つ手に力を入れた。
「次はリコーダー姫の番ね…どうなるかある意味楽しみだわ〜!」
「フォル…完璧にこの場を何か勘違いしてるんじゃないか…」
そんなシンフォニーの突っ込みも馬の耳に念仏なフォル。
彼女もまた、クラミュ夫妻と同じように十数年前の記者魂が復活しつつある模様だ。
シンフォニーは直感でもうこうなってしまった彼女は邪魔できないと思っていた。
邪魔しようものなら鉄拳が飛んでくること間違いなしだと思ったからだ。
「そうか…君もかなり苦労してるんだな…」
そういってシンフォニーの肩をぽんとたたいてくれたのは
まだ幼い息子を抱いたエリの夫であった。
「ええ…昔っからあんな調子で城に取材しに行くときも
いつも囮役ばっかやらされて…」
「そうか…俺もあいつにはいつもいつも負かされて…
俺が家事できることをいいことにあいつは俺を完璧主夫にしてやがるしよお…」
なんかこちらも相方に尻にしかれているということで気が合ってしまったのか
二人はすっかり意気投合してしまった。
「ううっ…もうこんな生活こりごりだ…」
「たまには俺達もいいとこみせたいんだよお〜!!」
そういって二人はいつの間にか傍にあった新年会用の酒樽から
がばがばと自棄酒を始めてしまった。
「あはは…俺は負け犬さ負け犬!!」
「嫁に尻尾ふる犬さ〜!!あはは!!」
いつの間にか人格まで変わってしまったのか二人は出来上がってしまった。
エリの夫に抱かれている息子もこれには目が点。
酒臭いのが嫌なのか心底嫌そうなな顔をしていた。
「シンフォニーさん達、すっかり出来上がってる…
でも普段あんなに唯一と言っていいほどまともな人たちがどうして…」
ハーメルのマリオネットから開放されたノエルが
さり気に周囲にひどいこといいつつもその状態に驚きを隠せない。
「ノエル…それには重大な理由があるんだよ…」
驚きを隠せないノエルにクラベスが言う。
「えっ?何、どういうこと…」
「この音楽…聞こえてこないか…」
そういってクラベスが指を指すとまたしても
バイオリンを手に持って小さい音ながら自棄酒している二人の前で
美しい演奏を繰り広げているハーメルの姿が。
そしてこれはかなり有名なあのメロディー…
「まっまさか…」
「そういうこと、親父の『ドナドナ』って聞いただけで気持ちが後ろ向きになって
果てまた自殺衝動に駆られるんだよな…
特にあの二人、相当苦労してるみたいだから
尚更感受性が強まってるんだと思われる…でもまだ自殺しないだけましだな…」
と冷静にあくまで第三者として二人の行動を分析するクラベス。
そして小声でノエルに「死にたくなかったら耳を傾けるな」と忠告した。
一方そんな様子にようやく気がついたフォル&エリの二人はというと…
「しっ、シンフォニーくん…あんたどうしたのよ!?」
「あはははは…もう俺のことはほっといてくれよ〜!!」
「馬鹿いってんじゃないわよ!!ほら起きんかい!!」
と酔っ払ったシンフォニーにビンタを食らわせるフォル。
しかし、魔曲の力は彼はどうしようもなく問答無用で酒を飲み続けていた。
「仕方ない…フォルちゃん、この子お願い!!それと急いで向こうへ行って!」
「はっはい!!」
エリはそういうと自分の息子を旦那からフォルに預けて
あの十字架のステッキを取り出した。
ビッシャ〜ン!!!
たちまち三人の頭上に小さな雷雲が立ち込め(って屋内だけど)
3人はお約束どおり雷にあたった。
「まっ今回はうちの旦那とシンフォニーくんっていう一般人がいたから
ショック程度にしておいたわ」
得意げに笑うエリ。
そういうエリの前には気絶したエリの旦那とシンフォニーの姿と
多少焼け焦げたハーメルの姿があった。
どうやらハーメルに対しては少々強化した模様・・・
「ってえエリ!なんてことしやがるんだ!!」
元・勇者ということもあって打たれづよいハーメルが真っ先に起き上がって
抗議しようとした途端、
「ハーメル!!あんたってひとは何度も何度も…!!」
騒ぎを聞きつけてフルートが台所から戻ってきて、天罰の十字架ならぬ
天罰の酒樽をハーメルの脳天に食らわせた。
「へん、俺様はなあ、この物語で何の才能もなくってちーっとも目立たない
こいつらを哀れに思ってやったんだよ!!」
そんなハーメルの言葉に気絶しているにもかかわらず二人は涙を流していた。
そして改めて自分達のポジションの低さに嘆かずにはいられなかった。
「エリさん、本当にありがとうございます」
「いえいえ…フォルちゃんもうちの子供みていてくれてありがとう。
ったくお互い苦労するわねえ?」
「ええ…でも改めて面白いですね〜あの夫婦喧嘩。
もう早速三面記事に出したいくらいですよ!」
とフォルが目がやる先はハーメルとフルートの凄まじい夫婦喧嘩風景である。
「私も結婚する前はかなり見慣れてたからねえ…
スタカットにいればこんなの日常茶飯事よ」
「そうそう、私もすっかり慣れちゃったわ」
頷くのはディオンの妻。
ハーメルが来るよりも後にスタカット村に嫁に来た彼女だが、
どうやら環境には適応できているようだ。
「そうなんですか!早速ご近所の人に知らせよ〜っと」
と相方の二人はというとすっかり彼らを蚊帳の外にして会話を始めていた。
そんな周りの様子を準備しながら見ていたヴァルヴは
薄ら寒いものを感じた。
「どしたの、ヴァルヴ。せっかく楽しいもちつきなのに
そんな顔してちゃだめじゃない!はやくお餅私もつきたいんだから…」
杵をぶんぶん振り回しながらリコーダーは言う。
「あっああ…そうだな…」
ヴァルヴはぐっと握りこぶしをして、思った。
いくら自分は苦労人でリコーダーに尻に敷かれようとああなりたくはない、と。
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