「フルートはん〜!!こっちは準備できたで〜!!」
公民館の入り口からひょっこりとアリアが顔を出して
新年会の準備が整ったことを伝えた。
「じゃあ、皆で行きましょうか。みんな〜!
公民館で新年会やるから中に入りましょう!!」
フルートの言葉で、皆公民館へと足を運んだ。
「うわ〜い、もちつきだって!!」
「もちつきもちつき!!」
「私も楽しみだなあ…」
「そんなに騒がないでも餅は逃げないっつーの。全く、小賢しい奴等…」
メインイベントであるもちつきに思いを馳せる
リズメロコンビやサスティンに呆れ顔のコルヌ。
「特にアリアさん特製のおしるこが美味しいんだぜノエル」
「へえ…おしるこかあ楽しみだな…」
同い年で仲の良いクラベスとおしるこ談義をするノエル。
「カノンちゃん気をつけてね、雪道って結構危ないから…」
「はい……わわっ!!」
「俺とリコーダーが支えるから大丈夫だよ」
そう言って慣れない晴れ着姿で歩くカノンを
ヴァルヴとリコーダーは支えながら公民館へと入っていった。


公民館に入ると、中でスタカット村の若者と子供達が
待ちきれずに集まってきていた。
・・・まあ、その大半はハーメルとフルートの子供なのだが・・・
中には若い男も居ることは居るので、明らかに不機嫌そうなクラーリィ。
カノンを支えてあげているヴァルヴは、どんどん不安そうな顔に。
「お、オレ殺されないかな・・・」
「大丈夫よー、ヴァルヴは私ひとすじだって
 クラーリィさんも本編第22話で気づいてるんだからさぁ」
「まぁ、二人とも仲良しなのね」
カノンは呑気に二人の関係を微笑ましく思っているようだが、
自分の命を心配するヴァルヴの方がある意味では正しいだろう。
しかし恐妻ミュゼットに睨まれているクラーリィは何も言えず、
ヴァルヴはリコーダーが好きなのだから・・・と必死に自分に言い聞かせていた。
だが、他の若い男達が晴れ着のカノンを見て
「誰だ、あの可愛い子」
「色白で綺麗だー」
などと噂するのを聞き、ついに怒り爆発。
「お前らぁ!!カノンたんを変な目で見たら許さないからなぁあああ・・・ぐぁっ」
しかし、叫び声が途中でいきなり途切れた。

「まったく、祭りの場を乱さないでくれるかしら?」
赤毛の女性に魔法を食らわされたゆえに、クラーリィは黙ったらしい。
遠くから見ても分かる、その赤毛で髪の長い細い女性の正体。
「え、エリ・・・お前か・・・」
「あけましておめでとうございます、クラーリィさん」
にこりとエリは笑う。
今回婿と娘、そして息子を連れて、里帰りしているようだ。
「お久しぶりです、エリさん」
「お久しぶりです、ミュゼットちゃん」
にこにこと話す二人。
「ごめんなさいねエリさん、うちの人が『カノンたん』なんて呼び方するから
 エリさんの娘さんも困っているでしょう?」
「いいのいいの、同じ名前の人くらいこの世に居るのは当たり前・・・
 とくにハーメルン世界は音楽関係に絞られるから被るのは当たり前よ」
エリ本人は全く音楽関係でない名前がついているのだが、
そんなことは潔く無視してミュゼットと談笑している。
ちなみにエリの娘もカノンという名前だ。
・・・ややこしいので、今回は『エリの娘』表記になるであろうが。
向こうでは二人のカノンが再会を喜んで抱き合っていた。

「エリ、帰ってきてくれてほんま助かったわ!エリも和風行事は得意分野やろ?」
「ええ、もちろん!料理は洋食より和食の方が得意だし」
アリアに言われて、エリも餅つき準備に加わった。


「やっぱりエリさんはすごいわぁー、かっこいい」
フォルが呟く。
クラーリィすら簡単に手玉に取って言い負かしてしまうエリの姿は
どうやら新聞記者時代、クラーリィに叱られ続けたフォルにとって
エリは相当輝いて見えるらしく・・・
「フォル、目が輝いてるよ・・・」
「だってほら、エリさんって隙を逃さないじゃない!!
 あの隙を逃さずに追究し言い負かすあの論述!観察眼!
 元新聞記者としてエリさんって本当憧れなのよ・・・」
そういうものなのか、とシンフォニーは溜息をついた。


さて、公民館に人も集まったところで、
本日のメインイベント「もちつき大会」が開催された。
うすの中には、まだ練られていない真新しいもち米の塊がある。
今からそれに大きな杵をもってみんなで突くのだ。

「それではっ!今から新年会のメインイベントでもある
『もちつき大会』を行いたいと思います!!皆様、奮ってご参加願います〜!
 では、まず小さい子から順番にどうぞ〜!」

子どもたちは、もちつき大会ということで大はしゃぎをした。
周りも大いに盛り上がってきている。
もちつきは順番に回り、やがてノエルの番になった。
ノエルは、ほっそりとした白い手で重い杵を持つと、
思わず顔を引きつらせた。
「お・・・重い(汗)」
持ち上げようとも、なかなか力が入らない。
懸命に杵を振り上げようとするノエルに、
周りはハラハラと見守っていた。

「なぁ・・・ノエルってあんなに力ないのか?」
サイザー似のハーメルとフルートの子ドルビーが唖然とした声をあげる。
それに答えるのはノエルと仲良しのクラベス。
「ああ。でも、ノエルの運動音痴と力のなさには
 定評はあるけど、まさかここまで力がないとは・・・」
そのうち街の子たちも口を挟む。
「男としてもっと鍛えた方がいいなアレ」
「いや、ノエルは男というよりも美少女だからかよわくて当然だぜ!?」
「・・・それにしても、懸命なノエルの表情って色っぽいな・・・。
 そこらの娘よりも色気があるんじゃねーか??」
いろいろと言われているが、ノエルはその声も耳に届かず、
汗を滲ませながら必死に杵を握る手に力を入れる。

「大丈夫かしら・・・」
ミュゼットが心配そうにわが子を見守る。
一方、リズメロやサスティン、その他大勢の女の子は
ノエルに大きな声援を送っていた。

が、一人しびれをきらしている男もいた。
「ああ〜〜〜早くしねーかあのガキはぁ!!」
ハーメルは、バイオリンの弦を弄びながらジリジリとノエルの様子を眺めていた。
しかし、一向にノエルが杵を持ち上げる気配がない。
ハーメルはついにバイオリンを構えた。
「ええいっ!!はよ、もちつかんかい!!」

そう言うと、ハーメルはズチャズチャズチャズチャ!!
と激しいメロディを奏で出した。
それを聞く町の人々はみな声を上げる。
「ああっ!!この曲はぁっ!(汗)」
「A.ハチャトゥリアン作曲の組曲『ガイーヌ』より『剣の舞』!!!!」
すると、ノエルの身に異変が起こった。
なんとノエルの持つ杵が暴走を始めたのだ。
「へっ・・・!?うあっうあああああ!!!(汗)」

杵は猛スピードでもちをつきはじめた。
ノエルの手から杵は離れることなく、
杵がピストンを繰り返すごとに、ノエルも振り回されていた。
「ああっ!杵が暴走起こしてるぞっ!!」
「なるほど!ボリジョイサーカスを彷彿させるような
 この曲は、まさに運動会のリレーでも使われる強烈な曲!!」

もちを突くノエルの手は止まることを知らない。
機械の如くフルスピードでもちを突く様は、
周りを唖然とさせていた。
もちろん、ネッド夫妻も目が点になっている。
「え・・・ノエル?」

暴走は止まることなく、どんどんスピードが
増していった。ノエルの杵を握る両手も、
もはや電光石火と化していた。
「ハアアアアアアアめるうううううううううう!!!(大激怒)」
すると、ハーメルの後頭部に謎の丸太が飛んできた。
ガコーン!!という巨大な音とともに、
ハーメルの持っていたバイオリンが床へ転げ落ちた。
それと同時に、杵の暴走も止まった。




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