見ると、後ろのほうでリズムと男の子が
互いに雪を投げながらケンカをしていた。
「やーいっ!!お前の髪の毛ピンク〜!」
「ピンクで何が悪いのよっ!この巻き髪っっ!!」
「巻き髪って言ったなぁ〜!!?お前なんかもちつきに入れてやんねーっ!」
「なんですってぇー!?」
「バーカっ!小賢しいんだよっ!!」
リズムにケンカをけしかけた少年は若干リズムよりも年上なのだろうか。
それにしてもお互いに激しい剣幕だった。
「何をしているんだ・・・リズは・・・」
クラーリィは呆気に取られながらその様子を眺めていた。
自分の頭に当たった雪玉は、どうやら二人のケンカによるものらしい。
ちなみに、双子の片割れのメロディは、
その二人のやり取りを見ながらオロオロとしていた。
「今日という今日はぜーったい許さないんだから!」
眉をつりあげて怒り狂うリズムは、
雪玉を思いっきり硬く作ると、それを勢いよく少年に向かって投げようとした。
しかし、それを制する手に遮られる。
「はい。そこまで」
見上げると、そこには大好きな母親の顔があった。
リズムは真っ赤だった顔を途端にしぼませると、
「だってぇ〜」と甘え声で駄々をこねた。
「リズ、まだご挨拶がすんでないでしょう?遊ぶのはそれからにしましょうね」
「うー・・・」
リズムはミュゼットに優しく諭されながらも、
口先を尖らせて作った雪玉を手の中で弄んでいた。
「あ・・・リズムの母さん」
少年も、ミュゼットの登場に少しだけバツが悪そうに両手を後ろに組む。
「久しぶりね、コルヌくん。あけましておめでとうございます」
ミュゼットは、リズムとメロディの肩に手を置きながら
ふんわりとした微笑みで挨拶をする。
「あ、あけましておめでとうございますっ。
今年もよろしくお願いしますっっ」
かつての大魔王ケストラーに容姿が似たコルヌは、そう言って深々と頭を下げた。
そう。コルヌはハーメルとフルートの子どもの一人である。
「とても大きくなったわね・・。久しぶりに会えて嬉しいわ・・・。
さ、リズムとメロディもご挨拶なさい」
「「あけおめ〜〜〜」」
声を揃えて簡単な挨拶をするリズムとメロディ。
そんな彼女たちに、コルヌやミュゼットを始め、
周りにいたみんなも一斉に吹き出した。
「さっすが双子だね!」
「言うことも揃っちゃうなんて!」
やがてコルヌの他の兄弟たちも集ってきた。
みんな互いに明るい表情で新年の挨拶を交わす。
「あけましておめでとう〜!」
「スタカット村へようこそ!!」
そして、スタカット村一のおてんば娘リコーダーと
ヴァルヴもその輪を見つけ、急ぎ足で飛び込んできた。
「あけましておめでとう、リコーダーちゃん、ヴァルヴくん」
晴れ着姿で前へ出てきたのはカノンだった。
リコーダーとカノンは同い年ゆえに仲がいい。
「カノンちゃんお久しぶり〜!ってうわ〜…これが着物…」
「晴れ着って写真でしか見たことなかったけど、
こんなに綺麗なんだなあ…でもよく手に入ったね。
着物って西国陵王国くらいでしか着られないものなんだろ?」
山奥のスタカットに住んでいる二人にとっては
和の象徴である着物はやっぱり珍しいものらしい。
そんなヴァルヴの質問にカノンはにこやかに、
「お父様がわざわざ西国陵王国の大臣さんにまで掛け合って手に入れた
最高級品らしいんですよ…ここだけのお話、
なんでも時価数億は下らないとかなんとか。
フォルさん達に着付けを頼む時も、混乱させないよう、
このことは伏せておきましたから…」
そのカノンの言葉に振袖に手を触れそうになった
リコーダーとヴァルヴは同時に硬直した。
一般人のヴァルヴはともかく、仮にもスフォルツェンドの王女様である
リコーダーですらその金額に汗をたらすほかなかった。
そしてカノンに聞こえないよう小声で、
「きっ聞いたかリコーダー…あの着物が数億って…
クラーリィさん一体どうやって掛け合ったんだ!!」
「たったぶん『譲ってくれなきゃお宅の国に天輪ぶちこみますよ』って
言ったんじゃないかしら…」
「なんつー強行外交…」
「『すべてはカノンたんのために』ってことかしら…
クラーリィさんの親馬鹿、カノンちゃんが成長するたびに
どんどん酷くなってるのは確かよ…」
リコーダーはそう言うと、雪の中でのほほんと
村の人々に挨拶をしているクラミュ夫妻と
二人の会話に首をかしげているカノンを見た。
「そっそう言えば…これ、似合ってるかな…」
少々頬を赤らめてカノンが二人に尋ねる。
そのカノンの言葉に我に返った二人は
改めて彼女の着物姿をまじまじと見つめる。
「勿論!凄くカノンちゃんに似合ってるよ〜とってもかわいい!
私も羽根がなければ着たかったな着物…」
リコーダーはカノンのそんな晴れ着姿が少々羨ましそうだった。
彼女の背中には天使の羽根がついているので
着物を着るとなると帯を巻く際に、締め上げられないのだ。
「でも着物って結構動きづらいんだろ?
毎回毎回無駄にはしゃぎまわって飛び回ってるお前だったら
着物がボロボロになっておしまいだよ…
それに、着物って清楚なイメージがあるから煩いお前には似合わな…」
そう言いかけたヴァルヴの口をリコーダーが笑顔で掴み上げた。
「あら、ヴァルヴ…悪かったわね私が煩くって、可愛げのない女だって…」
「だっだりぇもしょこまではいってにゃいって…」
ヴァルヴは苦しそうな声を上げて必死に抵抗していた。
ちょっとだけ被害妄想があるのは祖母の血筋か。
そんな二人の状態にカノンは目を点にしていた。
「ほらほら、リコーダー!カノンちゃんを早く公民館まで
案内しなさい、ただでさえカノンちゃん着物で寒いし、動きづらいんだから…」
そう言って手を叩いて外へ出てきたのはフルートだった。
「フルート叔母様…お久しぶりです」
「あらー、カノンちゃん!あけましておめでとう!
本当に綺麗ねえ…似合ってるわよv」
「あっありがとうございます…」
フルートが出てきたのに気づいたのか
クラミュ夫妻やシンフォニーやフォルも挨拶に向かう。
「あけましておめでとうございます、フルートさん」
「ミュゼットも久しぶりね〜!元気そうでなによりよ!」
「ええ、おかげさまで…」
そう言ってミュゼットはクラーリィの腕にしがみついて笑顔になっていた。
雪のせいで夫婦になる前の恋人同士の状態に戻っているらしい。
ただ一つだけ昔と変わっているのはそんな状態にも関わらず、
照れ顔一つ見せずにラブラブさをアピールしているクラーリィくらいか。
「クラーリィさんも随分変わったね…」
「ホント、『ひだまり』時代と比べて随分とまあ積極的になったことで…」
二人のラブラブな夫婦風景を見慣れているフォルとシンフォニーは
そんな余計なことばっかりつっこみを入れていた。
「あはは…クラーリィさんも相変わらず元気そうね〜、で、そこの二人は…」
「あっフルート王女、お久しぶりですって言ったらいいんでしょうかね…」
そう言って頭をかいているのはフォル。
一般人故に、流石に普通の格好をしているとはいえ王族の前に出ると
少々緊張するものらしい。
「そう言えば貴方達は昔、城へ来ていた…」
「ええ、フォル・クローレと相棒のカメラマンの…」
「シンフォニー・トリアーデです…今は引退して写真屋やってます。
本当に今日はお招きありがとうございます…」
そういってシンフォニーも照れながらもフルートに挨拶をした。
「いいっていいって、そんな固くならなくって…
今日は村を上げての新年会だから人数が多いほうが楽しく盛り上がれるわ」
フルートは二人の肩をぽんと叩いた。
そんな彼女の姿に二人は少し緊張感が解けた顔をした。
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