その頃スタカット村の公民館で、リコーダーが餅つきの準備をしていた。
田舎の村というものは、パーティというのはほとんど村をあげてのお祭りと化す。
スタカット村も例外ではなく、今回村の皆が新年会に参加することになっていた。

「これで餅つきの準備はばっちりね!」
といってもリコーダーはほとんど何もしておらず、
杵と臼を運ばされているのは案の定ヴァルヴである。
まあ、重い槍を持ちなれている彼にとっては大して苦ではないようだが。
「お餅っておいしいわよねー、きなこもいそべもあんこもおろしも全部好きっ」
「アリアさんがお雑煮作ってくれるってさ」
「わー、楽しみー!アリアさんって他の国の
 変わった料理いっぱい知ってるよねー」
北ヨーロッパ山間部スタカット村に住んでいるくせに和風好みな二人であった。
「準備できたら私達でお餅をつこうよ、阿吽の呼吸の見せ所よ!」
「あ、ああ、そうだな・・・」
リコーダーに言われ、ヴァルヴは何だか照れる。
しかし。
「ストレス発散に良さそうよね!
 あの巨大ハンマーのような杵をドカッと餅に叩きつけるの!!」
「お前が杵の方か!!ていうかお前が持つと杵が凶器と化すからやめろ!!」
リコーダーは相変わらずであった。

「リコーダー姉さん、飾りが出来たわ」
綺麗な輪飾りをダンボールに入れて、サスティンがやってきた。
「うん、わかった!飾り付けとく」
飛べるリコーダーは、こういう仕事にぴったりだ。
「クラビ兄さん遅いわね・・・」
「そうね、でもヴィオリーネと一緒にクラーリィさん一家呼んでくるらしいし、
 そのクラーリィさん一家はカノンちゃんが晴れ着の撮影するって言ってたから
 けっこう長くかかるんじゃない?」
「リズムちゃんとメロディちゃんも来るかな」
サスティンはリズメロコンビと同い年である。
「来るわよー、久しぶりに遊べるんじゃない?」
「うん、楽しみにしてるー」
リコーダーは公民館の天井あたりを飛び回りながら、飾りつけをしていた。

「リコーダー、それが終わったらこっち手伝ってね」
ごちそう作り担当の、フルートたち村の主婦がやってきた。
ディオンの妻(何気にちゃんと結婚している)とか・・・
昔フルートと一緒にバニーガールやらされてた村の女性たちとか・・・
そんな人たちが料理を分担して作っているのだ。
フルートは普段から16人分の料理を作っているので(オーボウ含めると17人分)
少々作る人数分が増えようが全く大変とは思わないようである。
「ママー、それなーに?」
「クラッカーよ、前菜になるかなって作ったの」
「わー、おいしそー!何かのせて食べる?」
「牧場主のおじさんがクリームチーズを持って来てくれるのよ」
「わー、素敵ー」
リコーダーは無邪気に喜んでいる。
そこへハーメルがやってきた。
「おいフルート、食器持って来たぞ」
ハーメルは適当に机の上に皿の山を置くと、そのクラッカーをつまみ食い。
「こらハーメル!子供の悪い見本になるようなことするなっ!」
フルートに殴られて、ハーメルは吹っ飛んだ。
ちなみに・・・フルートが手にしたのはいつもの天罰の十字架ではなく、
手元にあった杵だった。
「ママすっごーい」
「ていうか杵で人を殴らないでくださいよ!」
ヴァルヴがツッコミを入れる。
村の人たちは慣れているのか、誰もツッコミを入れないが。
「そうだね、また洗いなおさなきゃいけないもんね」
「問題はそこじゃないだろう!!」
常識人のヴァルヴは、なんだか頭痛がしてきたのだった。



そして、クラビとクラーリィのワープ魔法で、一行はスタカット村に到着していた。
「わー、雪だぁ!」
「きれいー!」
リズムとメロディは雪に感激している。
「素敵・・・私も雪で遊んでみたいです」
カノンが言う。
「そうだな」
クラーリィが答えた。
「「ええっ!?」」
フォルとシンフォニーが声を揃えて驚く。
「ど、どうした」
「だ、だってクラーリィさんのことだから、
 『ダメだダメだ!そんなことをしたらカノンたんの綺麗な白い手が
  霜焼けで腫れてしまう!そんなことになったらパパは生きていけない〜!!』
 くらい言うんじゃないかなって思ってました」
「『カノンたんはどこかの馬鹿と違うのだから風邪をひいたらいけない!』とか
 いかにも言いそうだなーって思ってたわ」
どういうイメージだ・・・と、クラビとヴィオリーネは苦笑いする。
すると、クラーリィは呟いた。
「いや・・・その、雪遊びはな、少し特別でな」
「ふふっ」
クラーリィの後ろでミュゼットが微笑む。
それは恐妻ミュゼットの悪魔の微笑みではなく、
優しいママミュゼットの慈愛に満ちた笑みだった。


ミュゼットは、スタカット村を覆う雪の欠片をそっと手ですくうと、
その雪を懐かしそうに、そして愛しげに見つめた。
「なんだか懐かしいわね。
 雪にはいろいろと思い出があるけど、やっぱりきれいね・・・」
「そうだな・・・雪はまさにオレ達の出会いを飾る運命のライスシャワーだからな」

ライスシャワー・・・!?
思わず顔を引きつらせるフォル達一同。
「相変わらずクラーリィさんはキザねぇー」
「あんな恥ずかしい言葉をよく口に出来ますね!!」
「「・・・・・・・(汗)」」
クラビとヴィオリーネは苦笑したまま表情を固める。
しかし、そんな彼女たちに気づかずに、
クラミュ夫妻は二人の世界へと入っていた。

「たしか、お前がスフォルツェンドに来た時も雪が降ってたな・・・」
「あら、覚えてるの・・・?」
「当たり前じゃないか。初めてお前を見た時には
 雪の天使が舞い降りたかと思ったんだぞ?」
「やだ・・・パパったら」
頬を赤く染めるミュゼット。
そんなミュゼットに、クラーリィは思わず口調が情熱的に変貌する。
「そうだ!あの時まさにオレは運命を感じたんだ!」
ミュゼットの両手をとると、クラーリィは吐く息を白くさせながら熱烈に語り出した。

「・・・・なんか、『雪』が二人をテレポーションしちゃったみたいねぇ・・・」
「どうでもいいですが、クラーリィさん、随分と
 『ひだまりのうた』の初期部分を脚色してません?」
「どういうこと?シンフォニーくん」
「実際はクラーリィさんの言うようなロマンチックな出会いじゃなくて、
 警察と犯人の珍問答コントだったらしいですよ」
「く・・・詳しいのね、シンフォニーくん」
フォルは思わず苦笑した。
クラビとヴィオリーネも汗を垂らしながら苦笑する。
「しかもクラーリィさん。それが初めての出会いとかおっしゃってますが、
 本当はたしかもっと前に」
「ちょっと待った!シンフォニーくん!!!!」
フォルがそう叫ぶとともに、スバコーンッ!!と
シンフォニーの後頭部へ鉄挙を喰らわした。
「いっ痛いよっ!!フォルっっ!!」
「シンフォニー君ダメじゃない!!それ以上言ったらネタばれになるわよっっ!!」
「あっ!!そうだった!!!でもだからって叩くことないじゃないかー!(泣)」

そんなこんなで、フォルたちも別の場所でコントを繰り広げていた。

「お前は今でもスノードロップの花が好きか?」
「ええ・・・」
ゆっくりと頷くミュゼット。
相変わらずクラミュ夫妻は二人の世界に浸っていた。
「今年もその花が咲くんだな・・・。あれからもう何年経つんだろうな」
「そうですね・・・」
「舞い降りる雪の結晶に、その中に咲く純白の花。
 そして、オレたちの物語が紡がれ・・・」

ポシャッ!
その時、白い雪玉がクラーリィの後頭部に直撃した。
しかし、クラーリィはそれでも尚語り続ける。

「あの頃はオレたちは幼かった。
 一人前の大人だと思っていたが、やはり中身はまだ未熟な・・」

ポシャッ!

「そうだ。ミュゼットに出会うことで、
オレの心に小さな花が咲いたんだ。それで・・・」

ポシャッ!

「そう。それはまるで冷たい雪に色を分けてくれた
優しいスノードロップの花のようだった・・・」

ポシャッ!!!

「って・・・えええええい!!!
 誰だ!!オレのエクセレントな語りを
 邪魔する奴わああああああああああああ!!!!」
危うく両手には天輪が出来始めていた。




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