結局ミュゼットの助け舟(?)のお蔭で無事撮影は終了し、
シンフォニーとフォルは後片付けに入った。
「シンフォニーさん、色々ありがとうございました…」
晴れ着姿のままのカノンが丁寧にお辞儀をする。
このままスタカット村の新年会に繰り出すためである。
「いえいえ、でもいい写真が出来てよかったね。僕も現像するのが楽しみだよ」
そう言ってシンフォニーはカメラから撮影した
小さなフィルムを取り出して丁寧に箱の中にしまった。
「本当、久々にいい被写体にめぐり会えたわね、シンフォニーくん。」
後片付けを手伝っていたフォルがシンフォニーの肩をぽんと叩いた。
「そうだね…これほど美しい写真が撮れたのは久々だよ」
「当たり前だ!この俺の娘・カノンたんが被写体となっている
グレートな写真が美しくない訳なかろう!!」
そう言っていきなり二人の会話にずいと割り込んできたのはクラーリィである。
さっきまでの暴走はミュゼットによって多少止められていたが、
徐々に戻ってきているらしい。
が、すぐ後ろでミュゼットが何かを含んだような笑顔をして
クラーリィをじっと見つめていることをフォルとシンフォニーは知らない。
それにすぐさま気が付いたクラーリィは汗だくになりながら、
「まっまあ…お前のお蔭でカノンたんの
壮麗な写真が取れたのだからな…一応礼は言っておく。
それと出来るだけその写真は早く現像してまたこちらに送ってくれ…
早くこの『カノンたんメモリアル』の一ページにその写真を加えたいからな…」
また不気味にもまた瞳がキラキラと輝いているクラーリィは
何時の間にか手元に『カノンたんメモリアル〜愛の奇蹟〜』と
仰々しく大きな文字で書かれたアルバムを手に持ちながら二人に言った。
「はっはあ…」
「出来るだけ早く現像してお渡ししますね…」
そう言うシンフォニーとフォルの顔は引きつっていた。
「撮影終わりましたか〜!!」
そう言って入ってきたのはクラビとヴィオリーネ、そして
リズメロコンビとノエルの5人である。
撮影が終わる今までクラビとヴィオリーネはこの3人の遊び相手になっていたのだ。
「ああ、時間がかかってすまなかったな…」
「クラビくんもヴィオリーネちゃんもうちの子の面倒を見てくれて、本当にありがとう」
ミュゼットがそう言ってお辞儀をする。
「いえ…でもさっき水晶でスタカットの方と通信したら、
リコーダーとうちの親父が待ちきれないみたいで…
『餅つきが早くしたい』ってどうも駄々こねてるみたいなんですよ。」
「餅つきがしたいって、全く幾つのガキだあいつは…
仮にも子供達の親だというのに…」
そう言ってクラーリィは頭を抱える。
「クラーリィさんも似たようなもんだけどね…」
「フォル、そういうことはあんまり口にして言うもんじゃないと思うんだけどって…」
シンフォニーが忠告したときにはもう既に遅し。
フォルの頭には鋼鉄製の拳のげん骨が振るわれていた。
「いった〜!!ほっんとに、昔っから容赦ないわね〜!!この親馬鹿大神官!!」
まるで子供のように顔を赤くしながら怒るフォル。
自分自身も子供っぽいところがあることに気が付いていないのだろうか。
「昔っから俺の周りを引っ掻き回してるのもお前だろう、この薮蛇女!!」
「なっ何ですってぇ〜!!!」
「ふっ二人とも落ち着いて…」
危うくまた喧嘩になりそうな状況をシンフォニーが必死でなだめる。
「カノンちゃん…」
「はい?」
「あのフォルさんとクラーリィさん…顔をあわせるといつもああなのかい?」
あまりこういう場面に遭遇したことがないクラビがカノンに尋ねる。
「ええ…お母様の話ですと、何でもフォルさんは新聞記者として働いていらした時に
随分とお父様のことを『ネタになる』と言って追っかけまわしていたそうで…
その縁がこんな形で続いてるみたいです。」
「へぇ…」
「ある意味『喧嘩するほど仲がいい』っていう関係ね…」
ヴィオリーネがリズメロコンビの手を握りながら呟く。
「まあお互いそう言う意味での関係じゃなさそうだけどな」
そう言ってクラビが見つめる先にはシンフォニーとミュゼットが
お互いのパートナーをなだめる姿が目に入った。
「あなた…少し熱くなりすぎでは…今度頭を冷やすために、
この極寒の冬に氷水でも頭からかぶってもらいましょうか?」
「はっはい…」
と聖母のような笑顔で結構怖いことを言うミュゼットと
「落ち着いてくださいよ〜!!どうどう!!」
「あっ…そっ、そうよね…なに熱くなってんのかしら私…」
じたばたしながらまるで騎手のようにフォルをなだめるシンフォニー。
こちらもある意味個性的といえば個性的か…
「じゃあ喧嘩が治まったんでそろそろ行きましょうか!」
ヴィオリーネの先導で子供たちが準備を始めた。
「うわ〜いもちつき、もちつき!楽しみだね〜!!」
「おしるこでるかな〜!!」
子供らしく無邪気に喜ぶリズムとメロディ。
「あっ、そうだ…スタカットへ行くんだったら
クラベスに借りてたこの本返さなくっちゃ…」
そう言って自分の家の本棚から借りていた本を取り出すノエル。
クラーリィ&ミュゼットの夫婦やシンフォニー&フォルのコンビも仕事を再開し始めた。
「一応晴れ着には草履でしょ!でもクラビ王子、スタカットは雪なんですって?」
草履を準備したフォルがノエルの準備を手伝っているクラビに尋ねる。
「ええ…結構降ってるみたいですから一応注意しておいたほうがいいですね」
彼は水晶でスタカットの天候を確認してくれたみたいだ。
「雪道で草履は結構厳しいから…替えの足袋や靴もじゃあ持っていくわね。
あとは…上着も必要かも。」
「ミュゼットさん、替えの洋服も準備して置いてください」
「分かったわ、シンちゃん…」
「ってお前達もスタカットに行くのか!?」
今更な質問をクラーリィはミュゼットとともに準備に追われているフォルに尋ねた。
「だって、カノンちゃんの晴れ着の管理をするには
私とシンフォニー君がいなくちゃ…
それに記者は引退したけど、一度スタカットへ行ってみたいのよね〜vv
勇者ハーメル様とフルート王女のあま〜い私生活とか
二代目勇者のリコーダー姫のお姿も拝見できるなんて見ものだわ〜!!」
一般人のフォルやシンフォニーにとっては
勇者と姫であるハーメルとフルートの一家は結構程遠い存在であり
その二人の生活というだけで得ダネスクープそのものだったのである。
その思いは新聞記者を引退した今でも変わらないらしい。
「しかし…俺でもこんな大人数をワープ魔法で一気に連れて行くのは…
もし重量オーバーでカノンたんに何があったりでもしたら…」
「大丈夫ですよ、クラーリィさん。
俺もワープ魔法は心得てるんで二人いれば何とかなるでしょう」
クラビがウィンクして言った。
「ありがとうございます、クラビ王子…」
「それに大人数で行った方が楽しいと思いますし、リコーダー達も喜ぶと思いますよ」
ヴィオリーネがクラビの後ろからひょいと顔を出して言う。
「というわけでお邪魔させていただきます〜
名づけて『突撃!隣(?)のスタカット!!』」
引退してもジャーナリスト魂が抜けきってないフォルが拳を突き上げて言った。
「それはどっかのただ飯食らってるレポーターの台詞のパクリだろうが…」
「まあまあお父様…」
何だかんだいいつつ、全員の準備が済んで
クラーリィとクラビの合体ワープ魔法で一同はスタカット村へとワープしていった。
|