「ライエル、私たち今まで出番がかなり少なかったから
今度こそ立派に目立てるといいな」
くじを引き終わったサイザーがライエルに言った。
「さっサイザー…そんな大人の事情をいつから君は…」
「でもお父さん、確かに今までのリレーで私達全然めだってないもん!
コカリナなんかほら、存在は明かされてるけど私以上に出番ないし…」
娘のオカリナも自分達の出番が今までなかったことに不服そうだった。
その弟のコカリナも顔には出さないが退屈そうな様子であった。
「そっそうか…父さんはダメな父さんだったね…
よし、僕たちもそんな大人の事情に負けないように
このくじ引きで一等の海外旅行を当てて家族旅行にして
ライエル家が大いに目立つぞ〜!!」
「頑張れ、おとうさ〜ん!!」
一家の応援を受けて、涙を流しながらライエルはくじ引きボックスに
勢い良く手を突っ込んだ。
「おお、ライエルさん張り切ってるなあ…」
サスフォーがそんな燃え滾ってるライエルに少々たじろいでいる。
「そりゃライエルはんたち、今の今まで張り切る出番なかったから
ここで一気に目立って存在感アピールしたいって気持ちにもなるわあ」
皆が飲み食いした食器類を片付けながらアリアがそれに答える。
「そういえば、アリアお前はくじ引かないのか?」
「ああ、うちみたいに準備に携わってる人たちは皆ひいとらんよ。
ほらフルートはんとかも引いてあらへんやろ?」
そう言ってアリアは子供たちの食器を片付けてながら、
まだ小さいティビアに代わりのミルクや離乳食をあげて
忙しそうに振舞っているフルートの姿を指差した。
一応年上の兄弟たちが手伝っている模様だがとてもくじなんて
引いてる状況ではなかったのである。
「それにここだけの話、フォルはんの言うようにこの村に海外旅行
ご家族分プレゼントってありえへんと思わんか?」
「まっまあ…たしかに…」
「実はなここの財産の都合上、あの海外旅行ってお二人様ペアのみなんや…」
そのアリアの言葉に暑苦しくくじを引こうとしたライエルの身体が固まった。
「らっライエル!?」
「「お父さん!?」」
いきなり固まった彼を心配するサイザー&オカリナ&コカリナの3人。
「そっそんな…お二人様ペアだと…
当っても最低二人しか目立てないじゃないか…
それに家族で久しぶりに楽しい旅行にいけると思っていたのに…」
まさに砂の如く風化しそうになるライエル。
「っていうかまだ当りって確定してるわけじゃないし」
と冷静にツッコミ入れたのはアリアと同じく後片付けに回っていた
ディオンの妻であった。
「でっ…でもお父さん!もし当ったら…お母さんと二人で行って来てよ!!
私とコカリナはおばあちゃんたちとお留守番してるから…
たまにはお母さんと二人っきりで領主の仕事お休みして羽伸ばしてきてよ」
しょんぼりしているライエルを元気付けようとオカリナが言った。
「オカリナ…」
「でも二人で旅行なんかしたらお前の場合あいつら以上に昔に立ち戻って
愛しのサイザーちゃんとラブラブいちゃいちゃしそうだもんな〜!!」
とライエルの隣に何時の間にか来ていたハーメルが昔に立ち戻っている
クラミュ夫妻やシンフォニー&フォルコンビを指差してライエルをおちょくる。
「むっ昔って…ハーちゃん……そんなこといったら…ぐはぁ!!」
「らっライエルどうしたんだ!!」
まるで噴水のごとく久しぶりに鼻血のシャワーを噴出するライエルに
思わずサイザーがかけよる。
「どうやらサイザーさんとラブラブいちゃいちゃって単語で
あらぬことまで妄想しきったって感じね…」
エリが久々のライエルの鼻血シャワーをあっさり受け流した。
隣ではそんな光景を見たことがほとんど無いエリの旦那が少々おびえていた。
「あらあら…確かカデさんのお話だと
人体の血液の4分の3以上が体から抜けると危険な状態になる・・・
という話だったわね。早く治療してあげないと大変なことになりますよ。」
「ミュゼット、曲がりなりにもお前元・看護女官だろう…
なんとかこの状況をしなければ後々の展開に響くぞ。」
クラミュ夫妻もライエルのそんな姿を見慣れているのか
かなり落ち着いて対処していた。
「後々の展開に響くって…それ以前に早くしないと
ライエルさんが死んじゃうじゃないですか!!」
一般人代表のシンフォニーが瀕死のライエルを見てクラーリィに言った。
「大丈夫だ、シンフォニー。
お前もさっき雷に当たって分かっただろう…
ハーメルンキャラはただでは死なないと言うことを!」
クラーリィは握りこぶしを作って力説する。
「なんか凄い説得力ありますね、そう言われると…」
そういうとフォルがまだ鼻血が出ているライエルを気味悪そうに見た。
ライエルの隣ではサイザーやオカリナ&コカリナが
「お父さんしっかりして〜!!」
と叫びながらわさびの葉を彼の鼻に必死で詰め込んでいた。
ある意味強引な治療法である。
とりあえずまあある意味ライエル一家はこの事件でかなり
この新年会で目立った存在にはなった。
「さーて皆さん全員、くじを引かれたようですね…
それではくじを開いて番号が書かれている方がいらっしゃったら
手をお挙げください!その方たちが当たりです〜!!」
司会者の言葉の通りに、人々はいっせいに
自分の手元にあるくじをあけた。
「当たったのはどなたですか〜?」
司会者が尋ねると・・・おそるおそる挙げられる、白い手。
「私です・・・」
それは、なんとカノンだった。
「ええっ、カノンちゃん当たったの!?」
「いいなぁー、カノンさん!」
リコーダーとヴィオリーネが駆け寄る。
「あ、あの」
カノンは恥ずかしそうに、オロオロしている。
「では賞品を渡しますので、ステージにどうぞ!!
おめでとうございます、カノン・シルフィール=ネッドさん!
スラー国周辺都市国家郡観光名所巡りの旅、ペアでご招待!」
「は、はい・・・!」
拍手の中、カノンは公民館のステージに上がり、
旅行券が包まれた綺麗なプレゼントの袋を受け取った。
「はー、まさかカノンちゃんが当てるとは」
フォルが言うと、エリが口を挟んだ。
「無欲の勝利、ってやつね・・・でも誰と行くのかしら?」
それを聞いて、皆がはっとした表情でネッド一家の方を見た。
「あ・・・えーと、その」
クラーリィは娘と二人親馬鹿旅行、というのを考えていた。
しかしそれを言う寸前、周辺の軽蔑の眼差しを感じ、思いとどまった。
そう、皆の目線は言っていた。
『それを言っちゃオシマイだろう!!』と。
ミュゼットも、『他の子供達を置いてはいけない』という顔をしている。
なら誰と行かせるのか。
このカノンに、一緒に行く男など居るはずもなかろうし・・・
「カノン、エチュードちゃんと行ってきたらどうかしら」
ミュゼットが言った。
カノンの顔がぱっと輝く。
エチュードは、カノンの学校の先輩で、
幼稚園時代からカノンのよきお姉さんのような存在なのだ。
「お、おい、ミュゼット」
カノンを旅行に行かせることを心配したクラーリィが文句を言おうとしたが、
「いいですわよね、パパ?」
ミュゼットがキラーン、と綺麗なペーパーナイフを取り出して見せた。
「う、うわー!お、お前どこでこんなもんを」
「クジの4等で当たったのです」
そう、クジは特等だけではない。
二等に携帯テレビ、三等に電動歯ブラシ、四等にペーパーナイフ、
五等にちょっと豪華なボールペン、六等にお菓子・・・となっていた。
「わー、ヴァルヴお菓子当たったんだー・・・いいなー」
「一緒に食うか?」
リコーダーとヴァルヴは、お菓子を一緒に食べている。
「やったー、携帯テレビが当たった!」
ライエル一家は携帯テレビを当てたようで、一家揃って大喜びだ。
火の鳥くんも一緒になってバンザイをしている。
「五等か・・・でも私にぴったりね!」
フォルは記者時代のように、胸ポケットにボールペンを入れる。
その姿を見てシンフォニーは溜息をついたが、笑顔だった。
「ちぇっ、もっと当たりクジ増やせよな、しけてるぜ」
「馬鹿ね、田舎の村のイベントでそんな大それた景品が出せると思ってるの?」
「・・・」
ちなみにハーメルははずれたらしい・・・
やはり無欲の勝利、という言葉は確かだなと思う一同だった。
皆、商品を手にして喜んでる人もあれば、がっくり来てる人など様々だった。
こういう催しものは必ずといっていいほど盛り上がる。
ビンゴゲームなどいい例だろう。
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