「さてとー!あっ!ねぇねぇみんな!!」
リコーダーが外の景色に目をうつすと、
翼をぱたぱたとはためかせながら頬を紅潮させた。
「どうしたの?リコーダー」
「みんなで、思いっきり外で雪合戦しない?」
それを聞いた子ども達は、皆一斉に目を輝かせた。
「やりたい!やろうよっ!!」
「やっぱり新年会のシメには雪合戦よね〜!!」
そういうと、ハーフルの子ども達を始め、
リズメロやノエル(クラベスに引っ張られて)
そして、エリの娘の方のカノンも、仲良しのアリアの娘パドヴァーナや
ディオンの娘ヴァリアシオンと息子フィドルを誘って
嬉しそうに外へと出て行った。
「ええな〜若いっていうのはぁー・・・
うちもうオバハンやから、冬はあったかいとこから出られんわ」
アリアが遠くを見つめながら眩しそうに呟く。
「何言ってるのよ。私たちだってまだまだ全然いけるでしょう?
伊達に昔鍛えてたわけじゃないんだからさ」
エリは自信に溢れた笑みでそう答える。
確かにエリは露出の多い聖女のドレスを纏っても無理はないくらいだし、
ガリガリに痩せているわりに体力はあるのだが・・・
「エリ・・・それはさすがにキツ・・」
エリの夫がそう言いかけた時にはすでに遅し、
鬼嫁から笑顔の鉄挙を喰らっていた。
旦那はこんな役柄ばかりだしエリがいつもふらっと出かけてばかりのようで
本当に仲がいいのか疑問になり、赤ん坊の息子の行く末が心配になる
こんな状態のアルペジオーネ家だが・・・
一応、普段は仲良くのほほんと暮らしているらしい。
さて、皿洗いを手伝いに台所へ向かおうとしたミュゼットは、
ふと自分の娘のカノンがポツンと外を眺めているのに気づいた。
「カノン?」
「あっ・・・マ・・お母様」
カノンは、バツが悪そうにうつむく。
それはどこか憂いをも感じとることができる。
カノンは、着物姿のまま窓に手を当てていた。
そう、高貴な着物姿では外には遊びにいけない。
母のミュゼットはそれをすぐに察し、にっこりと笑った。
「ふふ・・・そういうこともあるかと思って、
ちゃんと貴女の着替えを用意してきましたよ。
奥のロッカーに入ってるから、フルートさんに聞いて着替えてらっしゃい」
「えっ・・・お母様本当にっ!!」
ミュゼットがゆっくり頷くと、カノンは
「ありがとう!お母様っ」
と言って、小走りにフルートの元へと行った。
外は見事な雪景色。
子どもたちはみんな、わいわいキャアキャアと
はしゃぎながら遊んでいた。
「こっちはオレたちの陣地なーー!!」
「ぜってー負けねぇ〜!!」
「あっ!!火の鳥くんこっち来ちゃダメだよ!!雪溶けちゃうよっ」
「コ・・・コケェーーー(泣)」
涙する火の鳥くん。だが、心優しいオカリナが
「一緒に遊ぼうよ」と誘っていた。
その様子を眺めていたフォルは、
うらやましそうに見つめていた。
「いいわね〜子どもって、素直で無邪気で」
隣にいるシンフォニーは笑いながら、
「フォルだって子どもみたいなものじゃないか〜」
と言った。しかし、エリとエリの夫の時のように、
フォルからは反発の言葉が出てこなかった。
「そうねぇ〜」
その意外な返答に、シンフォニーはビックリした。
「うっわビックリ。フォルのことだからさ、『こどもですって!?』とか
『馬鹿にするのもいい加減にしなさい!シンフォニーくん』とか
言うのかと思ってたよ」
すると、フォルは小さく笑った。
「まぁ、そうなんだけどね。でも何かこう童心にかえるっていうか。
そういえば、私にも記者としての人生のほかに、
こういう少女時代もあったんだなぁ〜って思ったりしてね」
そう言って懐かしそうに微笑むフォル。
その時だった。
「フォルさんっ」
愛らしく重なった女の子の声に、
フォルは声のする方に視線を落とした。
そこには、リズメロとサスティンが雪うさぎを手にしていた。
「あら、あなたたち」
「フォルさんっ!一緒にあそぼー!!」
「えぇっ!?」
突然の誘いにとまどうフォル。
この数年方、職業柄、大人の記者団や大神官をはじめ、
神官女官などとの関わりがほとんどで、
小さな子どもと触れることはなかった。
まして、小さな子どもの誘いを受けたことのない
フォルは、当然その対処に混乱した。
「シンフォニーくん!!」
「えっ?何!?」
「こ・・こういう時なんて返事すればいいのよっ」
「え、サンキューベリマッチでいいんじゃない?」
「ボケてる場合ですかぁ!!相手は外国人じゃなくて子どもよ子どもっ!!」
「・・・い、いやぁ、普通に接すればいいんじゃないの??」
キョトンとするシンフォニー。
「ねぇ〜、フォルさん遊ぼうよ〜」
フォルは、ガチガチに緊張しながらも、
「え、あ・・・うんっ。いいわよっ」と答える。
それに対して、リズメロたちはパァっと笑顔を咲かせた。
「やったぁ〜♪じゃあ、雪合戦!!」
「お・・オッケー♪♪」
女の子たちに手をひっぱられるフォルの顔には、
どきまぎとしたぎこちなさがあった。
しかし、その表情はどこかとても嬉しそうだった。
「おお、珍しいな。フォルが子どもと遊んでるとは」
珍しいものを見物するように、クラーリィがしげしげと外を見る。
「元気だなー。オレ様なんか寒くて一歩も出れやしねーよっ・・・えっくし!!」
くしゃみと共に呟くハーメル。その隣では、ライエルが
「ハハハ。ハーちゃんは雪遊びより土鍋だもんね」
と爽やかに笑っていた。
台所での洗い物を終えた女性陣たちも、
外の風景に目をやると、むじゃきに雪とたわむれる子どもたちに心を和ませていた。
「いつ見てもいいわねぇー。新年会での雪遊び」
フルートがにっこりと微笑む。
「リコーダーちゃんなんて、見てみぃ・・・・
風が吹いとるっちゅうのに元気に飛び回っとるやん!
ていうか、あれはヴァルヴを追いかけ回してるんやな(苦笑)」
「ああー・・・本当に子どもって信じられない。
よくぞあんな冷凍庫みたいな場所で笑ってられるわ」
エリがそう身震いさせると、細い体をさらに縮こませた。
(脂肪がないので結構寒がりなエリ)
「でも、フォルさん、とてもいい笑顔してるわね」
ミュゼットは、微笑ましそうにフォルのことを見つめていた。
フォルの顔からはすでに緊張感がとかれ、
子ども達に交じりながら、夢中で雪合戦を楽しんでいた。
「雪合戦って、大人でもああなるものなのか?」
サイザーが疑問そうにそう呟く。
「ええ、雪は魔法みたいなのもですから・・・」
そう言って、ミュゼットは遠くの記憶を思い出すと、
そっとまぶたを閉じた。
一方、シンフォニーはというと、
黒光りした写真機を手に、ある女性をレンズにとらえていた。
「お、シンフォニー。また新年会の写真を新聞記事にする気か?」
クラーリィがからかうように言うと、シンフォニーは
ゆっくりと首を横に振って微笑んだ。
「いいえ、違いますよ。
・・・・なんていうのでしょうか、ああいう表情で笑う
フォルがすごく自然体だなぁ〜って」
そう言って、再びカメラを捕らえるシンフォニー。
今まで、いろんな美しい被写体をフィルムに
収めてきた。それが人物にせよ、風景にせよ、
一枚一枚がシンフォニーにとってかけがえのない作品である。
しかし、彼にとって、一番美しい被写体は、
フォルに他ならないと強く思っていた。
シンフォニーに撮られていると全く気づいていないフォル。
そんな彼女は、雪の中をとびきりの笑顔で、
子どもたちと一緒にたわむれ続けていた。
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