『敵』を睨みつける、ハーメルとクラーリィ。

「てめー、フルートに何手を出してるんだよ」
ナンパしてた男たちは、その威圧感にすっかり萎縮
すると、ヘラヘラと笑いながら
「い、いや。ちょっと道に迷ってしまったもんで」
「そうそう。だからオレたち別に怪しい者じゃ」
しかし、何も語らないクラーリィ。
絶対零度のオーラからは、今にも天輪を出しかねない勢い。
それにすっかりビビッた男たちは
「じゃ、じゃあオレたちはこれで」
とそそくさとその場を後にした。

ナンパしていた男たちが一目散に逃げると、
「フルートっ!大丈夫かよお前っ!!」
ハーメルがフルートの両肩をつかんだ。
すると、フルートはホッとしたように
ハーメルの胸にしがみついた。
「よかったぁ・・・ハーメルが来てくれなかったら・・・・わたし」
「バカだな、お前。いつもみてーに天罰の十字架で
 アイツらを殴り飛ばしちゃえばよかったのに」
「だって、いざあんな状態になったら・・・」
フルートは安心しきったかのように肩を震わせた。
「私・・・こわくて・・・」
それを見て、ハーメルはフルートの可愛らしさに
胸が締め付けられるのを覚えると、
「ったく・・・」
と、そっとフルートのことを抱きしめた。

一方、クラーリィはミュゼットの前で腕を組んだまま
仁王立ちをすると、凍て付いた表情でミュゼットを見下ろした。
「ク・・・クラ?」
明らかに怒りのオーラを放っているクラーリィに対し、
ミュゼットの笑顔も張り付く。
「お前、オレが来なかったらどうしてたつもりだ」
「ふぇ・・・」
「まさか、そのままのこのことついていくつもりじゃなかっただろうな」
「だって、お兄さんたちがカキ氷おごってくれるって」
「この大馬鹿者!!」
クラーリィの一喝がビーチサイド中に響き渡る。
一瞬人々はクラーリィたちに注目したが、
そそくさと視線を外して散らばる。
「クラ・・・」
一喝されたミュゼットは初めて表情を強張らせた。
「どうして知らない奴についていこうとする」
「だって・・・」
「だってじゃない!小さな子どもでも知らない奴にはついていこうとしないのに、
 お前はヘラヘラと見知らぬ男たちについていこうとするのか?」
「・・・・・」
「全く情けない。自分の身も自分で守れないとは」
「・・・・・」
「オレもこんなところで説教はしたくはない。
 だが、あまりにもお前が無防備すぎるから呆れてるんだ。
 お前のしたことは、下手すれば周囲に
 物凄い迷惑をこうむるんだぞ。わかるかっ」
ミュゼットは今にも泣きそうだった。
目をわずかに潤ませてることに気づくと、クラーリィは
大きく溜め息をつき、少しだけ声色を和らげた。
「取り返しのつかないことになってたかもしれないんだぞ・・・」
「・・・・・」
「オレは怒ってるんじゃない。心配してるんだ」
「・・・・・」
「・・・ミュゼットならわかってくれるよな」
そう言って頭をなでると、その拍子にミュゼットの目から涙が溢れ出した。
「ごめ・・んなさい」
鼻をすすりながら、目を真っ赤にするミュゼット。
クラーリィは、そんなミュゼットを見ると、
そっと胸に抱き寄せ、
「・・・わかればいいから」
と優しく耳元でささやいた。


一方逃げた男たちは、今度は一人で歩いているエリに目をつけた。
凛々しい美しさの、スレンダー娘・・・見た感じは綺麗だからだ。
その中身は本気の恋愛ならとにかく、遊びの恋愛など決してしない真面目さ・・・
と言えば聞こえはいいものの、その考えを保つために手段を選ばないことで
彼女の恐ろしさは仲間内には知れ渡っているのである。
まったく知らないと言うことは恐ろしいものだ。

「お姉さん、一人?」
「ええ」
さらりと答えるエリ。
男たちはどうやら「世間知らずのお嬢様か、もしくはナンパOKの女」と
その態度を受け止めたらしく、エリに馴れ馴れしく近寄った。
「彼氏と一緒に来てないの?」
「ええ、今日は友人や弟たちと」
「君みたいな子が一人なんて勿体無い!どうして彼氏が居ないんだい!?」
「オレたちと一緒に楽しく遊ばないかい?君の周りの男の目は節穴なんだよ」
「君にはもう寂しい思いはさせないからね!君は魅力的なんだから」
男たちはエリを言葉巧みに誘う。
するとエリはふわっと微笑み・・・言った。

「ナンパを受け付けるほど私が寂しい女に見えて?」
ゴゴゴゴ・・・と地響きがする。
怖い。あの時旦那が逆ナンされた時のアリアの数倍怖い。
「ひっ・・・!」
「だ、だって君一人だって・・・!」
「男の気配もないし・・・!」
男たちが後退りしたが既に遅く。
「私は遠恋だけどちゃーんと愛しい彼は居るわ・・・
 だから、人を負け犬扱いした罪は重くてよ・・・
 あとそれと、先程のハーメルさんとクラーリィさんの分も追加してあげるわ、
 あのカップルたちを守るのも一応私の趣味のひとつに入ってるから」
クスクス笑うエリは完全に悪魔であった。
「う・・・あ」
男たちは逃げ場を失い、命乞いの目になる。
別にエリは殺しはしないだろうが、確実に命の危機を感じていた。

「私は、自分の目的に邪魔なものには容赦しないのよね・・・
 うふふ、じゃあ・・・楽しい目に遭わせてあげましょうか」

「ぎゃぁあああああーーーーーー!」

クラーリィやハーメルにボコられるのは免れた男たちだったが、
結局のところエリに半殺しの目に合わされ、
氷縛結界にお腹から下の半分だけ閉じ込められた状態で
まるでオホーツク海の流氷のようにプールに漂っていたという。
「やれやれ・・・我が姉ながら、毎度毎度すごい奴だよエリは」
ディオンが溜息をつく。
氷縛結界は『氷のように冷たい水晶』の魔法だから
プールが氷で冷やされて心臓発作を起こす奴がいるかもしれないが、
エリにとっては『敵』をぶちのめすことしか頭に入っていないのだろう。
このエリの恐ろしさ、知らない人は幸せなのか、それとも大変なのか・・・。
「はー・・・そろそろ夕方だし、帰る支度しなきゃね」
きっと自分が声をかけられていたら敢えてついて行って
男が本性を見せて襲われそうになったら正当防衛にかこつけて毒を盛ったであろう
エリに並ぶ恐怖のカデンツァが、傾き始めた太陽を見て言った。

プールサイドでは、帰り支度をする者で溢れかえっていた。
サイザーとライエルも、プールから上がると二人とも満足そうな表情だった。
「それにしても、あっという間でしたね」
「ああ。私は泳げないが、こういうレジャー施設があると泳げなくても楽しめるからいいな」
「あ、サイザーさん。帰る前にジュースでも飲みませんか?ボクがおごりますよ」
「いいのか?ライエル」
そんな他愛のない会話を楽しみながら、
ライエルとサイザーは荷物をまとめると二人仲良くジュースを買いに行ってしまった。
「・・・ねぇ、毎回思うんだけどさぁ」
エリがライエルとサイザーの後ろ姿を見ながら呟く。
「どないしたん?エリ」
キョトンとした表情のアリア。
「なんかあの二人って、なんだかんだ言って全カップルの中で一番平和よねぇ」
「・・・せやな」





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