その全カップルのうち、デンジャーなカップルが例の二組だった。
「ねーっハーメルっ!!私、最後にアレがやりたいわ」
「クラーっ!!私もアレやりたいですっ」
ダブルプリンセスの差した先。
そこには、ウネウネと曲がりくねったウォータースライダーがあった。
よくよく考えてみると、施設の中で最もメジャーなアトラクションなのに、
それで遊んでいないことに二人の王女は気づいたのだった。
「はー・・・別に構わねーけどオレは疲れたから見てるだけにしとく」
「ハーメルと同じく。一回だけだぞ」
珍しくすんなりと許可が取れたフルートとミュゼットは、
パァッと顔を輝かせるとトテトテとウォータースライダーの方へと駆けて行った。
帰り支度をしている者が多いため、ウォータースライダーは幸いすいている。
「やったね!ミュゼット」
「はいですっ♪」
階段をウキウキしながら上る二人。
頂上に着くと、早速フルートは
「じゃあ、私先に行くわね」
とVサインをして、そのままシューーーーッと滑っていってしまった。
ミュゼットも、次の準備をすべく待機をしていたが、
下を見ると小さくクラーリィとハーメルがこちらを見上げているのが目に入った。
その時、初めて事の事態に気づいてしまったのだ。
「ふぇ・・・高い」
ノリでフルートについてきてしまったのはいいが、
いざとなると足元が震えてなかなか滑ることが出来ないでいるミュゼット。
一方フルートは長いスライダーを経てプールの中に出てくると、そのままハーメルに抱きついた。
「あ〜楽しかったvv」
「フルート、満足か?」
「うんっ♪」
イチャイチャと仲良くじゃれあうハーメルとフルート。
そんな中、なかなか滑ろうとしないミュゼットに、
クラーリィは不安そうに上を見上げた。
(フルート王女は無事に滑ってきたというのに、ミュゼットは何をしているのか。
まさか急に怖くなってしまったのではないのか)
クラーリィは、目を細めて頂上を見上げたまま腕組みをした。
「ふぇ・・・クラがこっち見てる」
クラーリィと目が合ったミュゼットは、
「どうしよう、どうしよう」と焦り始めた。
だけど、自分が滑らないとみんなが帰れない。
そして、ようやくミュゼットはこぶしに力を入れた。
「えいっ!」
そのまま、気合を入れてスライダーに
自分の身を委ねるミュゼット。
その瞬間を見逃さなかったクラーリィは、スライダー
の出口付近で心配そうな面持ちで待機していた。
もの凄いスピードで滑っていくミュゼット。
身を固くしながら必死に目をつぶっていた。
まるでシートベルトのない絶叫マシンである。
そして・・・
「バチャン!!!」
水しぶきと共にミュゼットはプールの中に投げ出された。
それと同時に、クラーリィは水の中を掻き分けて駆けつける。
ミュゼットはブクブクとプールの中に沈んでいた。
「おいっ!大丈夫かっ」
そう言ってミュゼットを抱き上げるクラーリィ。
「ふぇ・・・クラっ」
びしょ濡れのミュゼットは、ケホケホとせきを
しながらクラーリィの胸にしがみつく。
「怖いのなら便乗して行くな!」
「こ・・・こわくないもん・・・」
小さく震えながらも強がるミュゼット。
そんなミュゼットに、「全く・・・」と大きく溜め息をつくと、
クラーリィは震える体をなだめるように優しく抱きしめるのだった。
そんなカップルをウォッチングしていた
エリは
「前々から思ってたんだけど」
とお約束の台詞を呟く。
隣ではカデンツァも冷静な目で二組のカップルを見つめていた。
「ハーメルさんとフルートさんも、クラーリィさんも
ミュゼットさんも、とてもワンパターンなカップルよね。
なんというか明らかに作者の萌え意図が現れてるというか・・・」
「エリ・・・それは言わない約束よ(汗)」
「でも見ててあきないけどね」
そんな話がされていることに気づいていない
ハーメルたち四人は、ようやくプールから上がった。
それぞれ更衣室に戻り、着替えをする。
「なんだか冷えちゃったわねー」
「長く入りすぎよ、フルートさん・・・そうだ、銭湯に寄って行く?」
「そうね、早くシャンプーしたいし・・・男連中にも相談してみなきゃね」
さっさと着替えを終えたカデンツァは、荷物の確認をしている。
「プールは終わったけど、まだ楽しい一日は続いてますねっ」
ミュゼットは嬉しそうに言った。
女性一同が外に出ると、男性陣は既に待っていた。
陽が傾いて夕方の涼しい風が吹いており、プールの後というのもあって
皆すっかり爽快な気分になっていた。
「この後銭湯に行こうと思うんだけど、どう?
私たち早く髪の毛洗いたいんだけど」
エリが言う。
エリの提案これすなわち『誰も逆らわない』ということである。
「銭湯ならこの観光施設のホテルの近くに健康ランドみたいなのがあったと思うが・・・
こらミュゼット!ちゃんと髪の毛を乾かせ!」
「ふぇ〜」
相変わらずのミュゼット。
「銭湯よりも先に晩飯を考えろよ、エリ」
ハーメルが言う。
「そうね、もうすぐ晩ご飯の時間ね・・・」
カデンツァが時計を見て言った。
「何食べに行こうか?みんなで騒ぎながら食べるなら焼肉とか?」
「いいわねー、焼肉!クラーリィさんのおごりで」
「ぶっ!」
カデンツァの言葉に、クラーリィはこけそうになった。
「いいなー、クラーリィのおごり」
「わーい、クラありがとー」
皆既にそれにノリノリである。
「なんでオレなんだっ!?」
「ケチくさいこと言わないのよクラーリィさん!
私の三倍以上国から給料貰ってるくせに!!」
カデンツァに言われ、クラーリィは頭を抱える。
そこに。
「あれ、お前ら!奇遇だなー」
聞き覚えのある声が響く。
皆がそっちを見ると、それはなんとトロンとコルネットだった。
「お兄様、ミュウお姉様にフルートお姉様ーv」
コルネットが嬉しそうに走ってきた。
「どうしたのコルネット、こんなところで」
「トロン様とここの遊園地で遊んでたのですわー!」
「ああ、二人のデートってこの遊園地だったの?楽しかった?」
「はい、楽しかったですわー!お姉様たちはどうですか?」
「もちろん楽しかったわよ!ね、ミュゼット」
「はいっ!」
盛り上がる女の子たち。
そしてハーメルは言った。
「そうだ、トロン!おめーらもう晩飯どこで食うか決めたか?」
「いや、まだだけど?」
トロンが首を横に振ると、ハーメルはクラーリィを指し示す。
「今日これからこいつのおごりで焼肉行くんだけど、お前らも参加しろ!」
「マジかよ!ラッキー!」
トロンはガッツポーズをする。
「本当ですかー!?ありがとう、お兄様ー!」
コルネットも嬉しそうだ。
「ああ、いったいどれだけ出費するんだ・・・」
頭を抱えるクラーリィの服の裾を、くいっとミュゼットが引っ張った。
「みんなでご飯を食べると、美味しいですっ!
クラのおかげですー!」
嬉しそうなミュゼットを見ると、クラーリィもそれ以上文句は言う気にならず。
「よーし、皆で行くわよ焼肉ー!その後は銭湯よー!」
楽しい夏の一日は、まだまだ続くのだった。
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