さて、いよいよ射撃大会が始まった。
軽快な男のアナウンスによって、盛り上がりも最高潮に達している。
「では、一組目のみなさんどうぞ〜っ!」
「よし!頑張るぞーっ」
次から次へと射撃にチャレンジする若者達だが、なかなか難しいらしく、かなり苦戦していた。
「へぇ〜。なかなか当たらないように出来てるんだ」
しげしげとその様子を眺めるエリ。
フルートとミュゼットはハラハラと男性陣の出番になるのを待っていた。
そしていよいよ・・・・。
「では、5組目の皆さんどうぞー!」
ようやくハーメルとクラーリィの出番である。
二人とも思いっきりキザで余裕の表情を浮かべると、
何故か周り(女性)からの歓声が上がった。
「うわ・・・すごい歓声ねぇ」
「クラもハーメルさんも人気者です」
淡々と呟く彼女たちに、エリは
(普通そこは嫉妬するところでしょうが)
と心の中でツッコミを入れた。
「よし。オレ様の腕前っぷりを見るがいい!
フルート!!見てろーっ!!今当てるからなーっ」
大声でフルートに向かって叫ぶハーメル。
それにフルートは顔を赤らめた。
「やだっ・・・あんなところからっ(汗)恥ずかしいじゃないっ」
でも、内心ドキドキしているのも本音。
そして、ハーメルは勢いよく射撃に試みた。
「うぉーっっ!!!!」
パーンッ!という音と共に、水圧で倒れる賞品。
見ると、それはソフトクリーム引換券だった。
「わっ!ハーメルすごいじゃないっ!!」
大喜びのフルート。プールバッグではなかったが、十分満足といった様子である。
「ふぇーーっ!!ハーメルさんすごいです!!」
ミュゼットもそのテクニックに目を丸くした。
それを見たクラーリィは、あまりいい気がしない。
(チッ・・・見てろよ)
そして、いよいよクラーリィの番となった。
「わ、次はクラだ。がんばれー!がんばれー!」
両手でメガホンを作って応援するミュゼット。
(この大神官クラーリィ・ネッドがその実力を見せてやる。
 今まで一度たりとも狙ったものを外したことはないのだからな)
そう言って、水鉄砲射撃の姿勢を構えると、発射した・・・が、
ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
なんとそれと同時に、法力が発散されて射撃会場ごと
吹き飛ばしてしまった。
「へっ!?」
目を大きく見開くミュゼットたち。
アナウンスの男性もへなへなと床に尻をついて
口をパクパクとさせていた。
周りの観客もフリーズして固まり、
クラーリィ本人も、思わずシーンとなる。
(・・・意気込みすぎたか)
エリは、それを見て一言
「やりすぎ・・・」
と額に手をついて呟いた。罵倒する気力も失せた模様。
その後、結局商品が手に入ることはなく、
ハーメルの当てたソフトクリーム引換券で
ソフトクリームをみんなで食べに行くのだった。


「へー、そんなことが・・・賠償することになっても
 スフォルツェンドの必要経費からは落ちませんよ」
カデンツァは呆れたように言う。
「ったくお前、水鉄砲射撃のひとつもできないのかよ!
 なさけない奴だな!オレさまが活躍しなかったら
 ソフトクリームも食べられなかったんだぜ」
持ち玉(今回は水)を全部ソフトクリーム券に当てたハーメル。
5位しかとれなかったといえば聞こえが悪いが、大活躍だった。
「な、なんだと貴様!」
クラーリィが言い返そうとしたが、エリ達の冷たい眼差しと
「はい、ハーメルさんのおかげでアイスが美味しいですー」
とご機嫌そうなミュゼットのため、クラーリィは何も言えなかった。

「なんかソフトクリームで冷えちゃったから、
 身体があったまるまで外に居ようっと」
フルートがそう言ったので、皆しばらくプールサイドに残ることにした。
「日焼け止め塗りなおそか」
アリアがバッグから日焼け止めを取り出す。
来る前に家で各々塗っておいたのだが、そろそろ塗りなおした方がよさそうだった。
「そうだな、お前日焼けしたら赤くなって痛がるタイプだもんな」
「サスフォー、背中の方塗ってくれる?」
「オッケー」
オルファリオン夫妻の仲のよさを、皆羨ましそうに見つめる。
エリとカデンツァは身体が柔らかいから自分で塗れるとか言ってるが。
そしてハーメルとクラーリィも、彼女に日焼け止めを塗ってやろう!と、
それぞれヨコシマな期待をして彼女の方を向いた。
しかし。
「ミュゼットも色白ねー、日焼けしたら痛くない?」
「きゃははは、くすぐったいですよーフルートさん」
既に自分たちで日焼け止めを塗っていた。
がっくり肩を落とす二人。
一方、
「サイザーさん、日焼け止め塗りましょう」
「ああ、ありがとう・・・ライエル」
とこういうやりとりが聞こえ、『ライエルが!?』と、皆驚いてそっちを見る。
しかしライエルは・・・
「「ライエル!頭に注射針がささってる!ささってる!!」」
やはり、薬のおかげだったらしい。


「さーてとっ。もう一度泳ごうかなっ」
そう言ってフルートは大きく伸びをすると、
ミュゼットの手をとって
「もう一度泳ぎにいこー♪」
と誘い出した。
「うん!」
と返事するミュゼットの手には、しっかりと浮き輪をつかんでいる。
ハーメルとクラーリィは、パラソルの下、
ビーチチェアの上で軽く仮眠をとっていた。
フルートとミュゼットのW(ダブル)プリンセスが、
どこに泳ぎに行こうかとプールサイドをとてとてと歩いていたその時だった。
「ねー、お嬢ちゃんたち二人?」
呼び止められた二人は、顔を上げるとそこには
三人くらいの小麦肌をしたいかにもナンパ系の男がニコニコと笑っている。
「はい、二人です」
ミュゼットは何の疑いもなしにニッコリと返事をする。
「ダメよっミュゼット!」
すかさずフルートはミュゼットに小声で耳打ちするが、
男たちは、カラカラと笑いながらフルートやミュゼットの肩に手を回した。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ〜。ちょっとだけさー、一緒に遊ばない?」
フルートは、顔を強張らして言った。
「こ・・困ります。私たち連れがいるので・・・」
「連れって彼氏?」
「え、まぁ、そうですけど・・・」
フルートは表情を硬くしたまま、ポツリポツリと答える。
そんな中でミュゼットだけはコレが「ナンパ」ということに気づいていないようだった。
「あっ!じゃあ、お兄さんたちもクラたちと一緒に遊びませんか?
 みんなで遊んだらきっと楽しいです!」
ミュゼットはパッとひらめいてそう言うと、笑顔で両手を合わせた。
フルートはそれに対して
「ミュゼットぉ!」
と焦りを露にしたが、男たちはそんなミュゼットの回答に笑いながら言った。
「可愛いねぇ〜〜。いやでもねぇ、お兄さんたちは君たち女の子とだけ遊びたいんだなー。
 ほら、カキ氷とかおごっちゃうよ?」
「カキ氷ですか!」
目を輝かせるミュゼット。
「そう。何でもおごっちゃうよ?だからお兄さん達と一緒にアソボ」
そう言って、ミュゼットの肩や腰に馴れ馴れしく触る。
フルートにも、別の男が肩に手を回す。
(ど・・どうしようっ)
フルートがオロオロとし始めたその時だった。
「・・・誰に手を出してるんだ貴様」
男たちがギクッとして上を見上げると、
そこには両腕を組んでいる長髪の男と、
片サイドだけ髪を流している男と二人が見下ろしていた。





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