こんな騒ぎとはまったく無縁のところで、
ライエルとサイザーは広いプールででっかいイルカの浮き袋につかまって遊んでいる。
なんともほのぼのした光景だ。(二回目の鼻血抑制剤も投与済)
ライエルが近くにいることで、サイザーのスタイル抜群のボディに見惚れていた男どもも
ようやく諦めたらしく散りはじめた。

そして流れるプールに向かったハーメルとフルートは。
「おい、お前泳げないんだったら浮き輪持って来いよ」
「いいじゃない!ハーメルって泳ぐの得意でしょ」
フルートはハーメルの腕に捕まって浮いていた。
ハーメルに引っ張ってもらって泳いでいる状況である。
「・・・」
「楽しいね、ハーメル!」
「・・・」
ハーメルは正直泣きたい気分だった。
水着のフルートにぎゅっとしがみつかれている状態。
それなのに何も出来ない。(人前だから)
理性が崩壊してフルートを人前で襲ったとしたら、
フルートに天罰の十字架を食らってプールの底に沈められること必至だ。
かといって泳げないフルートを振り払うことはできない。
「あー、ちくしょー!!」
ハーメルはやり場の無い苛立ちを泳ぎにぶつける。
プールの流れも加わって、ハーメルの泳ぎは加速する。
「うわー、はやーい!ハーメル泳ぐの速いねー!」
何も知らないフルートは、楽しそうに笑っているのであった。


一方、ミュゼットとクラーリィは・・・。

「あのウキワ可愛い・・・」
ミュゼットが差したものは、三歳くらいの女の子が持っているハート柄のうきわであった。
小さい子のように物欲しそうな目をするミュゼットに、クラーリィは即座に「ダメだ」と却下を下す。
「ふぇ・・・やっぱダメ?」
「ああ」
本当は、買ってやってもよかったのだが、
そうなるとミュゼットと自分との間をウキワという物体で遮られてしまうような気がして、
何となく却下を下したのである。
「でも、わたし泳げない・・・」
「じゃあ、オレにつかまればいいから」
「いいの?」
「ああ」
自分で言ってみたことだが、なかなか積極的なことを言ったものだと
クラーリィは自分自身に感心した。
ところが、この数秒後に自分の想像を超えた展開になるのである。
「じゃあ、クラにつかまるっ♪」
そう言って、ミュゼットは無邪気にクラーリィの背中に抱きついた。
驚き慌てたのはクラーリィだった。
「えっ!?オ・・オイ!!」
掴まるというのは、てっきり腕のことだと思っていただけに、
突然後ろから首に抱きつくミュゼットに焦りを覚えずにはいられない。
「ふぇ?クラ、どうしたの?」
本人は全く意識していないらしい。
しっかりと細い両足は、クラーリィの体にまたがっている。
「い・・いや」
「ねークラ、あそこまで泳いで」
「は?」
あそこまでと差した場所は、ここからかなり遠いところであった。
「し・・・仕方ないな・・・」
そう冷静に返答しつつも、クラーリィは内心心臓が飛び出るほどバクバクしていた。
背中にぷにっと胸の感触があたる。
そして、後ろを振り返れば濡れ髪にまぶしい笑顔のミュゼット。
・・・理性が壊れるのも時間の問題だった。
「よしっ!あそこまで猛スピードで行ってやる」
このままでは、本当に襲いかねない・・・
そう判断したクラーリィは、自分の欲情を振り払うかのように、ヤケになって泳ぎ始めた。
台詞の通り、本当に猛スピードで泳いでいくクラーリィ。
背中には小さなミュゼット。
周りの視線も彼らに釘付けである。
「あのコいいわね〜。イケメンの彼におんぶしてもらってぇー」
「でも、なんかスゲースピードだな」
「あの彼氏、気でも狂ったか?」
そんな声もクラーリィの耳に届くはずもなく、
必死になって目的地まで泳いでいく。
ミュゼットはもう大喜びだった。
「きゃーっ!クラすごーーい!!浦島太郎のカメみたーい!!」
(待てっ!オレはカメなのかよっ!!!!(汗))
嬉しいやら悲しいやらのクラーリィなのであった。


とまあW王女によって同じような目に遭わされたハーメルとクラーリィは、
昼になって死にそうな顔をして戻ってきた。
「どうしたんですか、二人とも」
「大霊界が見えたような顔してるわね」
二人ともやり場の無い劣情を泳ぎにぶつけたのでバテたのだ。
「丁度時間もええし、お昼にせぇへん?」
「そうだねー、何か買いに行こうっと」
「適当に買ってきますー」
まだ元気なフルートとミュゼットは、エリとアリアについていった。

そして、フルートたちが買ってきた焼きそばやホットドッグなどでお昼ごはんとなった。
けっこう泳いだのでお腹がすいていたらしく、食が進む。
「お昼ご飯食べたあとしばらくは泳がない方がいいですよ、
 食後の運動でお腹痛くなるっていうのもあるけれど
 どうしても食後は脳の酸素濃度が低下しますから、
 水に潜るとか泳ぐとかが一番危険なのです」
カデンツァの忠告で、食べ終わってもしばらく泳ぐのはお休みすることにした。

すると、場内にアナウンスが響き渡った。
「豪華賞品の当たる水鉄砲射撃大会!プールサイド広場で昼1時半から!」
どうやら催しがあるらしい。
「豪華賞品か・・・たかが知れてるぜ」
ハーメルが言う。
「せやな、大体売店でも売ってる浮き輪とかビーチボールとか、
 プールバッグとか・・・そんなところやな」
アリアも苦笑いした。
するとミュゼットが呟いた。
「サイザーさんが持ってるような動物の浮き袋、いいなぁ」
ウルウルの瞳でクラーリィを見上げるミュゼット。
「・・・ったく、あるかどうかは保証せんぞ」
やっぱりミュゼットのお願いには勝てないクラーリィ。
(※普通の浮き輪よりは邪魔にならないと判断したらしい)
「あら、ミュゼットたち行くの?
 ねえハーメル、私たちも行きましょうよ」
「・・・まあ、どうせ休憩の間暇だからな」
フルートの言葉で、ハーメルとフルート、そしてエリは
その水鉄砲射撃大会を見に行くことになった。
エリは二組のカップルを見て面白がりたいだけらしいが。
「あの人ら、ほんま彼女に弱いなぁ」
「まったく・・・行動がワンパターンね」
残ることになったアリア・カデンツァ・サスフォー・ディオンの4人は、
呆れたように溜息をついた。


射撃会場では、多くの人であふれかえっていた。
ステージの上には、豪華商品なるものが陳列
している。
「え〜何々?一位が・・・ここのプールの一ヶ月無料パスポート。
 ニ位がコミックス「ハーメルンのバイオリン弾き」全巻・・・って何でよ。
 三位がプールバッグに、四位がイルカの浮き輪。
 五位がソフトクリーム引換券と」
エリは、身を乗り出してその豪華商品名をつらつらと口にしてみた。
豪華なんだか豪華でないんだかよく分からないような商品だった。
人によっては五位の方が豪華なんじゃないのか・・・。
「クラっ!あのイルカの浮き輪が可愛いです!!」
目をまんまるにして輝かせるミュゼット。
「ああ、任せておけ」
ここは魔法兵団兵団隊長としての実力が発揮できる
ところ。クラーリィは、ミュゼットの心を掴むべく
早速申し込みにいった。
「ハーメルっ!私プールバックが欲しいわっ」
「プールバックな・・」
そして、ハーメルもフルートの願いに負けて
射撃の申し込みに向かうのであった。





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