「しかしみんな遅いわねー・・・何やってるのかしら」
準備体操を終えたエリが暇そうに言った。
ハーメルとフルートはもう流れるプールの方に行ってしまっている。
「何か騒いでいたからもう少し時間がかかるようだぞ・・・
しかし、羽が濡れると変な感じだ・・・風呂の時ですら困るのに」
サイザーは白いワンピースタイプの水着を着て現れた。
露出は控えめだが、その抜群のスタイルを以ってすれば色気あるものへと変わる。
プールサイドの男たちの目が、一気にサイザーへと向いた。
「サイザーさんすごいですねー、さすがです」
エリも感心しきりだ。だって、女性すら見惚れるような美しさなのだから。
「?何がだ?それよりもエリ、浮き袋ふくらませるの手伝ってくれないか」
サイザーはでっかいイルカの形のビニール浮き袋(膨らませる前)を持っている。
「はい、いいですよ!それよりサイザーさん、ライエルさんはまだですかね?
鼻血治ってればいいんですが・・・まあカデンツァの薬があれば、安心ですね」
「そうだな・・・でも心配だな、見に行こうか」
「いいですよ、ここは私に任せてください」
「すまないな、エリ」
サイザーはエリに浮き袋を任せると、男子更衣室から繋がるシャワーの近くに向かった。
「あれ、サイザーさん・・・ダメですよこんな男の真っ先に目のつく場所にいたら」
そこにはカデンツァがパーカーを羽織って立っていた。
「カデンツァ?どうしたんだ」
「ライエルさんを待っているんです」
「?」
ライエルとカデンツァの接点がいまいちわからず、少しサイザーは違和感を覚えた。
けれども彼女は医者なので、先程倒れた患者を心配しているのかとも受け止められた。
すると、ライエルがシャワーを終えて出てきた。
「あ、ライエル・・・」
サイザーが声を掛けるよりも早く、カデンツァが走り出す。
そして鞄から注射器を取り出して、ライエル目掛け飛び掛かった。
「さ、サイザーさ・・・うぎゃぁああああ!」
注射針が刺さる痛みで、ライエルは叫んだ。
「か、カデンツァ!?」
サイザーはぽかーんとしている。
「ふぅ、間に合った・・・鼻血抑制剤を注射したんです!
これで暫くはサイザーさんの水着姿を見ても大丈夫ですから、
ライエルさんとサイザーさんは一緒に泳いだりできますね!」
カデンツァはVサインを突き出す。
「そ、そういうことか・・・ありがとう、カデンツァ」
サイザーは『鼻血を出しそうになったら麻酔針で眠らせる』と聞いていただけに、
期待以上の結果にとても喜んだ。
「ただしこの薬は30分ちょっとしか効かないので、30分おきに私のところに来てくださいね」
「は、はぁ」
ライエルは苦笑いだ。自分の症状を自覚できているのかいないのか。
そしてカデンツァはサイザーに耳打ちする。
「念のためにその麻酔針は持っていてください・・・同じ薬を使いすぎると
効かなくなっちゃうことがあるので・・・念のために、お守りとして・・・
このペンダントの中にしまっておけば安全ですから」
「あ、ありがとう・・・」
さすが天才、全てを把握しきっているのだな・・・と、
サイザーはカデンツァを恐ろしいとも思いつつその凄さに感心するのだった。
さて、準備体操も終えると、みんなそれぞれに散らばった。
それにしても、今日は猛暑のためか人の数が半端なく多い。
エリは、180度辺りを見回すとあるモノが目に止まった。
「私、飛び込みやりたいわっ」
見ると、高い飛び込み台から次から次へとプールの中へと飛び込む人たちがいる。
「やっぱりプールに来たらコレやんなきゃね♪」
エリが意気揚々に言うと、アリアも続いて
「じゃー、うちもやろうかな♪」
と明るく笑った。
隣にいるサスフォーに
「なぁー、あの飛び込みやってくるで。ええやろ?」
と言うと、サスフォーは
「じゃーオレは見てるから」
とプールサイドの見学側へと回った。
その光景を見ていたミュゼットも、指をくわえてうらやましそうにクラーリィの顔を見上げた。
「わたしもやりたいなぁ」
「お前は危険だからやめなさい」
「ふぇ、なんでぇ・・・」
「それよりも、こっちの流れるプールの方が楽しそうだぞ」
ミュゼットが飛び込みなどを行ったらどうなるかは目に見える。
「でも、飛び込みって大人っぽい」
「流れるプールも大人は楽しんでるぞ」
「あ、そうか」
その言葉にハッとすると、ミュゼットは飛び込みを観念して流れるプールへと向かった。
クラーリィも、だいぶミュゼットの取り扱い方に慣れてきたようである。
一方、飛び込み台へと上っていった二人は、高いところまで来ると、
眩しい太陽に照らされながら
「「さいっこーう!」」
と叫んだ。
「じゃー、私から行くわね」
エリはポーズを決めると、優雅に宙を舞った。
イルカのように器用に水の中に飛び込むと、周りから拍手と感嘆の息がもれる。
「それじゃー、うちも飛び込むか!」
アリアも腕を回して意気込むと、飛び込む姿勢に構えた。
そしてそのままジャンプしようとしたその時だった。
「んっ?」
なんと、プールサイドに座っているサスフォーの周りに
女たち2人が声をかけてるのが目に入ってしまった。
よく見ると、逆ナンをされているようである。
「なっ・・・!!」
サスフォーは困ったような笑顔で女性たちを諭しているようだったが、アリアは
「なーにヘラヘラ笑っとんのや!!」
と怒りに身を任せると、そのままプールの中に飛び込まずに、
サスフォーのいるプールサイドへと飛び込んだ。
驚いたのはサスフォーとその周りの人々である。
「ア・・アリアぁ!?!?」
猛スピードで直下してくるアリア。
しかし一回転して見事に着地を果たした。
「あんたらぁ〜、うちにケンカ売ろうなんて五億年早いわ!!
さっさと立ち去れぇえええええ!!」
アリアが睨むと、エリやカデンツァほど魔法慣れしていないはずなのに
身体から法力が発せられ、周囲のパラソルが吹き飛びそうなほど揺れる。
丁度クラーリィが妹に手出しをされてキレたときと同じような感じだ。
(人はそれをスーパーサ○ヤ人みたいだと形容する。元々金髪だけど)
女性たちは悲鳴を上げて立ち去った。
「アリア・・お前、どこからやって・・・」
「アンタ!何ヘラヘラ笑ってんのん!うちというヨメがいながら!!
ったく!プールの中に飛び込むはずだったのに・・・
もう一度上がらなアカンわ!」
そうプリプリ怒って、再び飛び込み台に上がるのだった。
「さすがアリアさんだな・・・サスフォー、お前アリアさんと泳いでこいよ」
ディオンがプールから上がってやってきた。
「いいのか?すまないディオン恩に着る!」
サスフォーはアリアの後を追う。
「さてと、荷物番でもするか」
ディオンはタオルで髪の毛を拭きながら、椅子に座る。
するとそこにカデンツァが戻ってきた。
「あら、ディオンくんに交代したのね」
「カデンツァさんは泳がないんですか?」
「さっき泳ごうとプールに向かったら、男が何人か声かけてきてうざかったから、
痺れ薬を注射してやった」
「は、はぁ・・・」
「私も飛び込み台に行こうかしら」
「・・・」
ディオンは自分の周りの女性陣がめちゃくちゃ強いということを
改めて実感するのであった。(※ちなみに、ディオンの彼女も強い部類に入る。)
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