「サイザーさん、ライエルさんが鼻血出しそうになってたらこれ使ってください」
カデンツァは更衣室で、サイザーに麻酔針らしきものを渡した。
「あ、ありがとう・・・だが、大丈夫だろうか」
「血を沢山出すよりもこっちの方がまだいいと思いますよ」
カデンツァの言葉に、サイザーは『まったくライエルは世話が焼ける』と言いたげに溜息をついた。
「わー、フルートさんの水着可愛いですー」
「ミュゼットのだってすっごく可愛いじゃない!
きっとこれでクラーリィさんも大喜びよ」
「う・・・」
王女2人のやりとりを微笑ましそうに見る、他のメンバーたち。
「他の人もおるから、胸大きくなったやんーとか言うのできへんわな」
アリアが言う。それが予想の範囲内だったらしい。
「そうね・・・それにサイザーさんが横に居ると、
私なんてどうあがいても引き立て役だし?」
カデンツァが言うと、サイザーは赤くなって首を横に振った。
女性陣が楽しく喋りながらゆっくり着替えているのに対し、
男性陣はさっさと着替えてプールサイドで待っていた。
「もしあいつらの方が早く着替え終わってたら、その間に声とかかけられるかもしれないだろ」
とサスフォーが言い、ハーメルとクラーリィもそれに同意したのだった。
まだ鼻血を出した後で体調の良くないライエルはゆっくり後から来るらしいが。
「ったくあいつら遅いな・・・」
「まったくだ!何ちんたらしてるんだよ」
早く彼女の水着姿を拝みたいらしいクラーリィとハーメルは苛立つ。
すると、女子更衣室から繋がるシャワーから一人の女性が出てきた。
「あら皆さん、早いですね」
長い赤毛・・・エリ・アルペジオーネだった。
「「お前かよ・・・」」
がっくりするハーメル達。
「悪かったですね、私で・・・さてと、こんなのは無視して準備体操して泳ごうっと」
エリは相変わらずのマイペースだ。
ハーメルとクラーリィはエリに目をやる。
・・・と、その体つきに驚いた。
細い。あまりに細い。
モデル体型といえば聞こえは良いが。
胸がないのも気にならないくらいに腕も足も細い。
「・・・エリ、お前夏バテとかしてるのか?」
「飯を食わないとダメだぞ」
「ご心配どうも!でもあいにく、私は元気そのものです!」
エリは皮肉げにお礼を返した。
「エリ、小さい頃から燃費悪いんだよな・・・」
さすがに弟は、特異体質を理解しているらしい。
「燃費悪いってことは、あれでけっこう食べるのか?」
エリにはやっぱりわからんことが多い・・・と、一同は思うのだった。
一方、鼻血を出した後調子が良くなるまで外で休んでいたライエルは、
ようやく入り口のところに来ていた。
傍には(一応)様子見役のオーボウ。
「ようやくプールに行けるよ・・・」
オーボウを連れてライエルは入り口に向かう。
すると、監視員の人に怒られた。
「ペットのご入場は断固お断り致します!」
ガーン!となるオーボウ。
「・・・あ」
やっぱりこのメンバーは、前途多難なのであった。
さて、そうこうしているうちに、ようやく女性陣らしき声がシャワー室から聞こえてきた。
「キャ〜ッ!つっめたーい♪」
「でも気持ちいいです〜〜vv」
その声に反応するハーメルとクラーリィ。
聞き慣れたダブルプリンセスの声だ。
「来たな・・・」
そう呟くハーメルに、クラーリィは「ああ」と真顔で呟く。
ついにこの瞬間がやってきたのだ。
シャワー室から出てくると、プリンセス二人はシャワーに濡れた髪の毛で、
プールサイドへと現れた。
「フッ・・フルートぉぉ!!」
流れるように長い茶褐色の髪や、健康的な肌色の肌に映える
ひまわり柄のビキニ姿が目に眩しい。
思わず叫ばずにはいられなかった。
その声に気づいたフルートは、ちょっぴり赤くなりつつもハーメルのところに近づいていった。
「もうハーメルったら・・・やめてよね。大きい声出すの。恥ずかしいじゃないっ」
「・・・ヘッ。べっつに・・・」
照れながらフルートから顔を背けるハーメル。
「ねーハーメルっ。私、流れるプールに行きたいわ〜」
「流れるプールぅ?」
流れるプールとは、名前の通り水圧によって
常にプールの水が流れまわる仕組みのものである。
ハーメルは、やっぱりフルートのおねだりに弱く、
ケッと舌打ちをしながら、「しょーがねーなぁ」と照れ顔で呟いた。
一方、ミュゼットはフルートの陰に隠れて出てきたのだが、
クラーリィと目が合うとすぐさま壁の影にかくれてしまった。
「オ・・オイ、ミュゼット」
クラーリィに水着姿を見せるのが恥ずかしいミュゼットは、
もじもじしながら壁から目だけを出している。まるで小動物だ。
「ミュゼット」
そんなミュゼットにみとれつつクラーリィが優しく声をかけても、
ミュゼットは顔を赤らめたまま出ようとはしない。
そして、上半身裸のクラーリィにさらに照れてしまっているためか、
一向に壁の影から出てくる気配がなかった。
「・・・・ううう」
「ミュゼット、ほら・・おいで」
クラーリィは完全にじらされていると誤解していた為、鼓動が高鳴るのを感じていた。
優しい手招きについに折れたミュゼットは、コソコソとはにかむようにして現れる。
いつもよりはるかに露出の高い可愛い水着姿に、
クラーリィは鼻血流血の危機にさらされたが、
グッとこらえて紳士らしくエスコートをした。
「か・・可愛いじゃないか」
「ふぇっ」
水滴で濡れた白く透明な肌。
それを引き立てるような水着のピンク。
・・・少しでも気を抜いたら襲い兼ねない。
「ほら、お前の好きなところに連れていってやるぞ」
「あ・・ありがとう」
どこからどう見ても初々しいカップル。
クラーリィは、すっかりミュゼットの水着姿に目を奪われていた。
・・・が、あることにクラーリィは気づくことになる。
「なぁ、お前・・・」
「はっはいっ!!」
顔を真っ赤にして大きな声で返事をするミュゼット。
クラーリィは、恥ずかしそうにミュゼットから視線をそらすと、小さい声でボソッと呟いた。
「・・・お前・・・パンツ・・・」
その言葉に「へ!?」と大きく反応すると、
ミュゼットは、自分のショーツに目をやった。
見ると、ギンガムチェックのショーツから、
白いパンツがちっちゃくはみ出していた。
ミュゼットが小さく悲鳴をあげて、再び更衣室に戻って行ったのは言うまでもない。
「えー、パンツはいたままだったの?
帰りどうするのー、そのままシャワーあびちゃったんでしょ」
プールサイドに持っていく荷物を整理していたカデンツァが、
戻ってきたミュゼットを見て言った。
ミュゼットは泣きそうになっている。
するとアリアが言った。
「大丈夫やで、使い捨てのやつ自販機で売っとるから!
ここホテルが近いやん?せやから、突然泊まることにしても大丈夫なように
観光業者はんもちゃーんとそこは考えとるんやで!
泊まってくれた方が、宿泊費や食事代の分だけ儲かるやろ」
アリアは、自動販売機群の隅っこを指差した。
「はぁ、さすが商人の血が流れてるだけあってよく把握してるわね」
カデンツァは感心する。
「売り切れへんうちに買って、ロッカーに入れとき」
「はいっ!」
ミュゼットはほっとしたようにお金を持って自販機の方に走った。
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