「さ、スイカでも切ってきましょうか♪」
花火を楽しむみんなの姿を見て、フルートが立ち上がる。
「あ、じゃあ私もお手伝いするわ」
そう言って、ミュゼットも立ち上がる。
「いいわよ〜!ミュゼットは座っててー。お客さんなんだから〜」
「でも、一人より二人でやった方が早いわ。私は大丈夫だから。ね?」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしらっ」
二人は、キッチンへと向かった。
キッチンには窓がついていて、そこから外の様子も見られるようになっている。
フルートとミュゼットは、手分けしてスイカに包丁を入れながら、妻同士の会話で盛り上がっていた。
その正体はスフォルツェンドの二人の王女・・・なのだが、
今はどちらも愛する人の妻であり、可愛い子供たちの母である。
「本当にハーメルは子どもっぽくて・・・」
「でも、子ども達と一緒に楽しめるお父さんって素敵だと思うわ」
「クラーリィさんも、カノンちゃんのこととなると相変わらずね〜(笑)
でも大切に育てられてるのがわかるわ〜♪」
「・・・過保護すぎて困るのよ。まぁ、初めての子で
しかも女の子というのも大きいと思うのだけれど」
「でも、ミュゼットも強くなったわね(笑)」
「え?何が??」
「旦那をうまく操れるようになったというか。
私は元々こんな性格だから、すぐにハーメルに牙を向けるけど」
「というよりも、そうせざるを得ないのよ。以前も似たようなケンカがあってね、
その時は夜中にパパが寝ている間に大量のヘビ花火をたいておいたわ・・・」
懐かしそうに微笑むミュゼット。
「・・・・ヘビ花火」
「でもね、子どものことで一生懸命になっちゃうところも好きなんだけど」
そう言って、顔をほんのり赤く染めると、最後の一切れをきり終えた。
フルートは、それを見てニンマリとする。
「やっぱお宅もラブラブねぇーvv」
「ら・・らぶらぶって・・・(赤面)」
「まー!顔が赤くなっちゃうなんて、まだまだ初々しいわよ〜♪♪」
ミュゼットは、バツが悪そうな顔をすると、
大皿にきれいに並べられたスイカを持って、
「もうっ・・・行くわよ」と顔を真っ赤にしながら外に出た。
フルートは、そんなミュゼットを可愛く思いながら、もう一つの大皿を持って後についていった。
「みんな、スイカを持ってきたから一休みして食べましょう」
ミュゼットの呼びかけに、子供たちが集まってきた。
「ちゃんと手を洗ってからね」
フルートは井戸水を汲んで持ってきた。
クラーリィが娘たちにスイカをスプーンで食べるように言っているが、
ミュゼットに宥められ(ていうか脅されて)今日は多目に見ることにした模様。
「スイカに花火、蚊取り線香・・・これこそ夏のロマンだな」
ハーメルが言った。
「お前にしては風流を解するんだな・・・あと風鈴もあれば最高だ」
クラーリィが言う。何故日本風なのかは誰も突っ込まない。
ちなみに蚊取り線香は、あのカデンツァが薬剤師の旦那と協力して開発したものなので
人体に害がない割りに効力は相当高いというすごいものである。
ちゃんとブタの蚊取り線香入れも用意されているあたりが、妙なところにこだわるカデンツァらしい。
一方、それぞれ座ってスイカを食べていたリコーダーたち。
「ヴァルヴ、ほっぺたにスイカの種ついてるよ」
リコーダーがヴァルヴの頬に手をやり、種をとる。
「サンキュー」
そう言って微笑みを交わす姿は、とても微笑ましいカップルなのだが・・・
「あの二人こうやってほのぼのしてるとすっごく絵になるのに、
どうして真剣に恋の話になるとダメダメなんだろう・・・」
ヴィオリーネが思わず呟いた。
「どっかの誰かの遺伝子のせいだと思うわ」
フルートが言うと、クラーリィもアリアもクラビも深く頷いた。
「な、なんだよ」
じっと睨まれたハーメルは、何か言い返そうとした。
しかしここで言い返すのは得策ではない・・・と判断した。
いくらハーメルでもこれだけのメンバーによってたかって怒られる
(それよりもボコられる可能性の方が高い)・・・だと
命がいくつあっても足りない模様。
昔は何にも考えてなかったハーメルだが、今はさすがに命が惜しかった。
「ヴァルヴ、花火はあとどれくらい残ってる?」
「えーと、打ち上げが2つくらいと、線香花火とねずみ花火かな」
「えー、もうそんなに残ってないのね・・・」
「仕方ないよ、この人数だから」
「つまんないの・・・」
「買いに行けばいいだろ?オレも一緒に行くから」
そんなことも知らずにリコーダーとヴァルヴは、相変わらずほのぼのしていた。
「パパ、ママ!追加の花火をお店で買ってきてもいい?」
リコーダーは両親に尋ねる。
「いいけど、自分の小遣いで買えよ」
「子供でもできるような、あまり派手じゃない花火にするのよ」
ハーメルたちにもOKをもらえて、リコーダーは嬉しそうだ。
「じゃあ買いに行こうよ、ヴァルヴ!」
「私も行くわー」
ヴィオリーネが手を挙げる。ということはクラビも来るだろう。
「カノンちゃんも行こうよ」
「はい!」
カノンも嬉しそうに、リコーダーたちと一緒に店の方へ歩き出した。
「カノンたん・・・!」
慌てて歩き出そうとしたクラーリィの服の袖を、ミュゼットが掴んで止める。
「パパ、暗いから心配かもしれないけど・・・
リコーダーちゃんやクラビくんも一緒なのだから、大丈夫です」
クラーリィがやろうとしていたことは、ミュゼットにはお見通しだった。
夜道を歩かせるのが心配だから自分もこっそりついていこうとしたのだ。
「だ、だが・・・」
「二代目勇者パーティの子たちなのです、絶対に大丈夫です・・・
リコーダーちゃんたちの実力を一番認めていたのもパパなら、
クラビくんに魔法を教えたのもパパでしょう?」
ミュゼットの言葉は正しい。
それはクラーリィもよくわかっていたのだが、やっぱり納得ができない模様。
「・・・けれども夜道は!」
「カノンを束縛してはいけませんよ、パパ」
クラーリィがミュゼットを見ると、ミュゼットは片手にネズミ花火を持ち、
もう一方の手で今にも点火しようとしていた。
本当はヘビ花火がよかったのだろうが、あいにく残っていなかったので代用品だ。
「・・・た、たまにはこういう経験もいいだろうな」
クラーリィはそれを背中に入れられでもしたらと想定したらしく、慌てて誤魔化した。
それは懸命な判断であった。何故ならもしあのままこっそりついて行ってたら、
リコーダーたちに怪しい人と間違われ総攻撃を食らっていただろうからだ。
リコーダーたちが戻ってきた時には、もうみんなスイカを食べ終わって、
ゴミを片付けたり花火大会の続きの準備をしたりなど、動き回っていた。
みんな美味しいスイカに満足したらしく、笑顔である。
ただ一人クラーリィは疲れている様子でぐったり座っており、カノンは不思議そうに首を傾げた。
「お父さま、どうしたのかしら・・・そんなに騒いでもいないのに、疲れてるみたい」
するとアリアが笑って言った。
「クラーリィはんはミュゼットちゃんのお願いとカノンちゃんが心配やって気持ちの間で
ものすご迷ってはったから、気疲れしたんよ」
「ああ、そうなんですか・・・」
カノンはほのぼのと笑顔を浮かべる。
愛娘の笑顔を見てクラーリィが一気に元気になったということをここに付け加えておく。
「よし、花火大会後半の部のスタートよー!」
リコーダーが元気いっぱいに宣言した。
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