「今日は待ちにまった花火大会ね!」
リコーダーは、あらゆる種類の花火セットを片手に、嬉しそうにはしゃいでいる。
日はすっかり暮れて、だんだんと空も暗くなり始めていた。
セミのジリジリという鳴き声が、夏の空気を引き立たせている。
「そろそろみんな来るんじゃないかしら」
台所からフルートの明るい声が響く。
そう。今日はいろんな友だちやその家族がやってきて、みんなで一緒に花火大会をする日。
なので、ハーメルとフルートの家の前にて、交流も兼ねた「花火大会」が行われるのだ。
当然子ども達も楽しみで仕方がないといったようである。
「ねー、打ち上げ花火もやっていいでしょ〜?」
「いいけど、市販の打ち上げ花火のことよね?
 あなたの言う打ち上げ花火っていうとあの見物用のものを彷彿するから・・・」
「まっさかー!心配しなくても大丈夫よっママ!」
と言いながらも、内心は「ちぇっ」と残念そうに舌打ちをするリコーダー。
「あと、毎年注意していることだけど、人に花火は向けないこと!
 もうリコーダーったら、パパやヴァルヴくんに平気で花火向けて喜んでるものねぇ〜昔から」
「ママってば心配性なんだからっ。そんな幼稚なことはもうしないわよー」
と言いつつも、今年も絶対やるような確信が胸の中で芽生えているのが本音。
でも、これが楽しくてやめられないんだから仕方がない。
と、その時だった。
「おーい!ライエル叔父さんとサイザー叔母さんと、
 オカリナちゃんとコカリナくんが来たぞーっ」
外から、クラビの声が聞こえてきた。
リコーダーは、その言葉にパッと顔を明るくさせると、ダッシュで外へ出た。

「リコーダー姉ちゃんー」
「オカリナちゃん、いらっしゃい!叔父さん、叔母さん、コカリナくん、こんにちは!
 ・・・あ、もうこんばんは、の方がいいですかね」
リコーダーは笑顔で挨拶をする。
そして挨拶の後、リコーダーはある人物の姿を探した。
「どうしたの、リコーダー姉ちゃん」
「ヴィオリーネは一緒じゃないの?」
「ヴィオリーネさんは、一緒だったけど・・・」
オカリナが指差した先には、クラビと楽しそうに話すヴィオリーネの姿が見えた。
「成る程ね」
リコーダーは親友の様子を見て、納得した。

「リコーダー、ヴィオリーネも花火を持ってきてくれたぞ」
クラビが袋を抱えて、リコーダーの方へ走ってくる。
「本当?ありがとうヴィオリーネ」
袋の中を見ると、ロケット花火が入っていた。
「やっぱりロケット花火は欠かせないわよね!」
「そうそう!私、あのミサイルみたいな感じが好き!」
楽しそうにロケット花火談義をする二人。
やっぱり親友だけあるよなぁ・・・と、クラビは思った。

「さてと、水はOK!可燃物も片付けたし」
一方こちらは真面目に準備をしていたヴァルヴ。
「ごくろーさん!夏の夜、庭で花火!ああ、ロマンやわ」
アリアはうっとりと言う。
「でもアリアさん、そんな風流じみた花火大会は期待しないほうがいいですよ・・・」
ヴァルヴが呟く。
リコーダーがそんなおっとりとした夕涼みで終わるはず無いと、
ヴァルヴは小さい頃からの付き合いで悟りきっていた。
すると、アリアが言う。
「せや、ハーメルはんがおる時点でそーなることはとっくに予想済みや!
 そこは、何年もお向かいはんやってきとるもんな・・・もう慣れたわ、うちは」
「そうですね・・・オレも、慣れましたよ・・・」
母と息子のように暮らしてきた義理の従姉弟は、
本当の親子のようにそっくりの溜息をつくのだった。

すると、視界の中にもう一つの家族連れが現れた。
よく見ると、それはネッド家だった。
スタカット村に、家族全員で遊びに来たのはかれこれ数年ぶりというところだろうか。
「うわぁ〜!クラーリィはんにミュゼットはん!
 ひっさしぶりやなぁ〜♪子どもたちもすっかりおーきゅうなってはるね」
「ご無沙汰しております」
そう言って、ネッド夫妻は丁寧にお辞儀をする。
「ああ〜そんな堅苦しい挨拶はええて!今夜はみんなでパァーっと盛り上がろっ♪」
子どもたちも、アリアやヴァルヴに挨拶を済ませると、
みんなのいるところへと向かっていった。
リコーダーたちも、ネッド家の到着に気づくと、
「あっ!カノンちゃんたちが来たわよっ!」と
胸を弾ませて玄関先へと向かった。
クラベスやハーディたちはノエルのところへ、
そしてサスティンたち女の子はリズムとメロディのところへ。
そして、リコーダーやヴィオリーネはカノンのところへと向かった。
それぞれ「元気だったー?」とか「今日は思いっきり遊ぼうな!」とか
「ねーっカノンちゃんもロケット花火しようよー♪」などと声が上がり、
更に場は盛り上がろうとしていた。
空も、徐々に暗くなってきている。

「父さん、暗くなったから花火始めてもいい?」
クラベスが言った。
「そうだな、そろそろ始めるか・・・」
ハーメルが空を見上げて言う。
「きゃー、開始だって!最初どんなのからやろうかなっ」
リコーダーが嬉しそうに花火の袋の中を見る。
「よし、最初に派手なのいっちょ行くか!」
ハーメルが噴水状に火が噴き出す花火を取り出した。
「うん、そうしよそうしよ!」
リコーダーは嬉しそうに言った。
「まったくあの二人、同レベルだな・・・」
クラーリィが呆れて溜息をついた。
けれどもその花火は色を変えながら綺麗な火花を噴き出し、とても綺麗であったので・・・
文句を言いつつも、クラーリィもみとれていた。

「楽しかった!今度はこーゆー花火やろうよ」
リコーダーたちは、細い紙の筒で出来た花火を取り出す。
「あ、これなら私にもできそう・・・」
カノンも花火を手に取る。するとクラーリィがすかさずやってきた。
「カノンたん!いけないぞ、もし火傷でもしたらどうする!危なくない線香花火にしなさい!」
クラーリィが言う。
「でもお父さま、私も線香花火以外のものをやってみたいです」
だが、カノンもゆずれない。
「クラーリィさん、私たちも一緒だから大丈夫ですよ」
「もし危ないところがあれば、火をつける前に言いますから」
リコーダーとヴィオリーネも、カノンの味方につく。
「だ、だがカノンたんの白い肌にもし火傷が・・・!」
しかし、まだ納得できないクラーリィ。
「先生からもクラーリィさんに頼んでください」
ミュゼットにバレエを教えてもらっているヴィオリーネが、ミュゼットの方を向いて助けを求めた。
すると、ミュゼットがゆっくり立ち上がった。
「パパ、何事も経験です・・・それに、このままではカノンは火を怖がるようになってしまうわ・・・
 パパはそれでもいいの?」
優しい口調で、ミュゼットは言う。
「・・・・!」
クラーリィが一気に青ざめた。
「もしそれでも反対というのなら・・・」
ミュゼットはにっこりと笑う。
しかしその手には、ロケット花火の束が握られていた。
「お、おい・・・冗談だろう?」
「冗談だったことがありますか・・・?」
ミュゼットが、ふわっと微笑む。
するとクラーリィは土下座して言った。
「わかった、カノンに花火をやらせることを許可する」
「ありがとう、お父さま!」
カノンは嬉しそうだ。
リコーダーとヴィオリーネも、「よかったねー」と言いながら
一緒に火種を持っているヴァルヴとクラビのところに向かう。

「なんやよーわからへんけど、クラーリィはんは奥さんのお願いには弱いみたいやなぁ・・・
 クラーリィはん愛妻家で、ミュゼットちゃん幸せやなぁ」
アリアが言った。
「・・・微妙に違うと思うぞ、アリア」
サスフォーが呟いた。






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