「父さん」
クラビは舞台に上がると、父ハーメルを呼ぶ。
「あれ、お前何他の音楽なんか聴いてるんだ・・・」
とハーメルは言ったが、当然クラビには聞こえていない。
いや、聞こえていても無視していただろう。
「うちの店を無茶苦茶にすなーーーーーっ!」
そしてクラビの手から、魔法「天輪」が発動された。
至近距離で直撃を食らうと普通死ぬのだが、クラビは手加減していた。
ハーメルは吹っ飛ばされて、教室の壁にぶちあたった。
「あーん、私のバイオリンー」
リコーダーがすぐさま、落ちていたバイオリンを奪還した。
パチパチパチ・・・
と、拍手の音が聞こえてリコーダーはそっちを向いた。
すると、そこにはクラーリィとミュゼットが立っており・・・
クラーリィは、拍手を送っていた。
「父さん、母さん!」
ノエルは突然の両親の出現に驚いた。
クラベスがクラビの背中をつつくとクラビもそれに気づき、イヤホンを外した。
「見事に魔法をコントロールできているな!さすが私の弟子だ」
クラーリィはそう言った。
「し・・・師匠!」
ノエルに続き、クラビも声をあげる。
「このクラスが一番盛り上がっているようだな。
それにしても、全くハーメルは何しているのだ」
クラーリィは、チッと静かに舌打ちをする。
ミュゼットは、「随分にぎやかな喫茶店なのね」と、のんきな笑顔でニコニコ笑っていた。
すると、そこへカノンが嬉しそうな表情で両親のもとに歩み寄った。
「パ・・お父様、お母様っ」
パパとママという家での呼称で思わず言いかけたが、
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、人前での呼称を用いた。
「楽しそうね、カノン」
「はい。お母様も楽しんで下さい。お父様もっ」
「カ・・・・カノン・・・」
すると、クラーリィは突然わなわなと震えだした。
それを見て、カノンの顔は笑顔のまま張り付く。
「はい?お父様?」
すると、クラーリィはいきなり娘のカノンの肩をガシッと掴み、そのままギューッと抱きしめた。
それを見てあんぐり口を開けるクラビたち。
「おおおお・・・お父様ぁ!?」
「カノンっ!!カノンたん!!お前、ここのクラスで変なことされてないだろうなああああああ!?
というか野郎ばっかのクラスで大丈夫か!?パパはそれが心配で心配で心配でっっ」
「だ・・大丈夫です。みんな優しくいい人たちです」
「カノンっ!!何かあったらすぐにパパに言うのだぞ!!何かがあってからだと遅いんだからなっ!?」
そう言うと、クラーリィはカノンを抱きしめたままクルっと向き返った。
瞳にはメラメラと炎が燃えている。
「いいかっ!!うちの娘を泣かせたり手を出したりしてみろっ!!
灰にしてやるからなっっ!チィッ!」
思わず固まらずにはいられないクラスメイトたち。
クラベスも口の端を引きつらせながら苦笑いをしている。
「な・・なぁ、ノエル。噂には聞いていたけど、お前のお父さんっていつもあんな感じなのか?
冷静沈着でいつも理性的な人だってクラビ兄ちゃん言ってたけど・・・」
「うん。カノン姉さんのことになると、いつもああなんだ。
ボクも出かけ先でアレをやられるとかなり辛いものがあるよ・・・」
溜め息をつくノエルに、クラベスは哀れな友人の肩にポンと手を置いた。
「お前・・・苦労してるんだな」
「うん。でもね・・・」
その時、クラーリィの服の裾をグイッと引っ張る者がいた。
クラーリィが後ろを振り返ると、ミュゼットがニコニコとした笑顔で立っている。
「パパ、今は楽しい文化祭ですよ。怒鳴り声はこの場所にふさわしくありません」
「しかしカノンがっ!」
「大丈夫ですから。ほら、カノンも楽しんでるでしょう?」
「いやっ!やっぱり心配だ!!なんだ?!ママは何とも思わないのか!!!」
「パパ・・・」
すると、フッとミュゼットの笑顔がうす笑みに変わる
「娘のことを信じてあげられないのですか・・・?
あと、今夜はクロラゼプ酸二カリウムを用意しておいて下さいね」
「・・・・(汗)」
シンと静まり返る教室。
「さあ、私たちも何か頂こうかしら」
「・・・あっ、お母様。今ストロベリーマフィンが出来上がったところよ」
「じゃあパパ、私たちはそれを頂きましょう」
優しいほほえみで答えるミュゼット。
・・・・さっきのは一体何だったのだ。
そしてクロラゼプ酸二カリウム って?
そう思わずにはいられないリコーダーたち一同であった。
カノンの普段の様子からは想像もつかない彼女の両親の様子を見て、一同呆気に取られていた。
「い・・・意外と、旦那さんが尻に敷かれるタイプなのね」
テュービュラーが呟く。
「ノエル、お前のお母さん・・・優しそうだけど、怒らせたらすっげぇ怖そうだな・・・」
クラベスが震えながら呟いた。
「あれはたぶん、母さんの友達のカデンツァさんの影響だと思う・・・
母さんと父さんは幼なじみなんだけど、よくケンカして母さんが泣かされて、
そしたら母さんの友達のカデンツァさんが絶対仕返ししてたって聞いたことがある・・・
ああいう感じの手段で・・・」
ノエルは小さな声で話す。
「カデンツァ先生が?」
クラビが言った。
カデンツァは、校医としてこの学校をよく訪れるのだ。
そして保健室では。
「はくしょん!あー、誰か噂してるわ」
「そうなの?カデンツァさん」
「まあ、別に気にならないけど・・・」
その噂の女医・カデンツァが、息子の魔法に吹っ飛ばされたハーメルの手当てをしていた。
「ハーメル、丁度カデンツァさんが来ててよかったわね」
「ふぁーい・・・」
ハーメルもカデンツァに逆らう気力はないようだった。
そして場面戻って。
「へー、ノエルくんのお父さんとお母さんって幼なじみなんだね・・・」
リコーダーが呟く。
「どうしたの、リコーダー・・・あ、そっか」
テュービュラーは彼女の気持ちを察したようだ。
「いいなぁ、素敵だわ!」
うっとりと言うリコーダー。
幼なじみのヴァルヴを意識してそんなことを言っているのだろうと、
皆はリコーダーの乙女心に対して共感を覚えた(ペルンゼンゲル以外)。
しかし、リコーダーは付け加える。
「ああいう夫婦関係って、とても素敵だわ・・・」
ぽつりと呟いたリコーダー。
「えええええっ!?!?」
クラスメートたちは誰もが震え上がった。
恐妻になることに憧れる・・・明らかに冗談ぽいが、
リコーダーが言うと冗談に聞こえないのだ。
そして隣の教室のヴァルヴも・・・
「・・・・うう、なんか寒気が・・・」
嫌な予感がするのを隠せなかったのであった。
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