「どうしたのー?」
そこに、リコーダーが現れた。
どうやらバイオリンの演奏を終えたらしい。
「わー、リコーダー来るなー!今お前が加わると余計話がややこしくなる!」
クラビは頭を抱える。
案の定ペルンゼンゲルはリコーダーのところに直行。
「リコーダー、僕は君のために新しいお菓子を開発しようとしていたところなんだ」
「へー、それはすごいねー、ありがとう」
しかしリコーダーは無茶苦茶普通に答える。
「・・・相手にされてないのわかってないのかしら」
テュービュラーが呆れたように溜息をついた。
このテュービュラー、入学当時はペルンゼンゲルに恋をしていたそうなのだが、
今はちっともその様子がない。
「リコーダーのためになら美味しいお菓子をいくらでも開発して作ってあげるよ!」
「へー、じゃあ来年も喫茶店やる時はレパートリーが増えそうだね!」
何気に噛み合っていない会話をしていた二人。
しかし、リコーダーはヴァルヴを見つけるとそちらに歩いていった。
「ヴァルヴ、ストロベリーマフィンは出来上がってる?」
「ああ、完成してるよ・・・ほら、そこにあるだろ」
ふわふわのマフィン。
黄色い生地の中に、苺ジャムの赤がところどころ見えてとても綺麗な出来だった。
「わー、素敵ー!ねえ、味見用のやつってある?」
「ああ、形がくずれたやつだけど・・・」
「わー、ちょうだい!」
「わかったわかった」
子供のようにはしゃぐリコーダー。
ペルンゼンゲルは嫉妬しているかと思いきや、
『リコーダーはやっぱりかわいいなぁ』と言いたげな目線。
クラビはまた呆れて溜息をついた。
するとそこに、カノンがやってきた。
「あの、何かあったんですか?」
するとリコーダーはすかさずカノンを手招きする。
「カノンちゃん!カノンちゃんって苺好きだったよね、これ半分こして味見しよう!」
「わぁ、いいんですか?」
カノンも嬉しそうにそれを受け取った。
「カノンさん、すみません心配かけて・・・受付の方は?」
クラビが言うと、苺マフィンを食べていたカノンははっとした表情になって・・・慌てて言う。
「そういえば、次にステージに上がる人を呼びに来たんでした・・・」
その言葉に一同、顔を見合わせると・・・
「ペルンゼンゲル」
「お前、行け!」
「なんでもいいから面白いことやってこい!」
と、ペルンゼンゲルを捕獲した。
クラビに引きずられて隣の教室に向かうペルンゼンゲル。
最初は『どうして僕がお菓子作りしてちゃいけないんだ』と言いたげな表情をしていたのだが、
「ペルンゼンゲルー、頑張ってねー」
とリコーダーに声をかけられ、すぐに納得したのであった。
「なんで僕が・・・」
そう心の中でうらめしそうに呟きながらも、
リコーダーの「頑張ってねー」という明るい声に
顔を横にブンブンと振り、気合を入れて舞台の上に立った。
「あれ?あの人どこかで見たことが・・・」
「ペルンゼンゲルっていう人だよ。リコーダー姉ちゃんに惚の字なんだぜ」
「ふぅん・・・」
「何するんだろうなー」
舞台の上に立つペルンゼンゲル。
彼の登場と共に、拍手があちこちからたった。
「はぁー・・・緊張する」
客人を目の前に、思わず足がすくみそうになる。
こういう時をあらかじめ予測していたペルンゼンゲルは、
ポケットの中からゴソゴソと何かを取り出した。
出したのは、千円札だった。
「今から、この千円札を空中で浮かばせます。種も仕掛けもない魔法です」
そう言うと、ペルンゼンゲルは片手で持っている千円札を手から離した。
すると、その千円札はペルンゼンゲルの左手の下で宙に止まった。
「おお!本当に空中で千円札が止まったぞー!」
感動して口を開けるクラベス。
しかし、ノエルは思わず口元を引きつらた。
「ねぇ・・・あれって」
「ノエルも見てみろよー!すげーぞ!」
あまりにも感動しているクラベスに、ノエルは喉にまで出掛かった言葉を飲み込んだ。
こんなに感動している友人の夢を壊したくない。
だけど、ノエルは瞬時で気づいてしまっていたのだ。
ペルンゼンゲルの指と千円札が糸で繋がれているのを・・・。
「なーんだぁ〜ソレ。千円札が糸でぶら下がってるだけじゃねーかよ」
ノエルとクラベスは、聞き覚えのある声にハッとして後ろを振り向いた。
そこにいるのは、リコーダーやクラビ、そして
クラベスの両親でもあるハーメルとフルートの姿だった。
「ちょっとハーメル!一生懸命やってる手品をそんな風に茶化したりしたらダメじゃない!」
「なーにが種も仕掛けもないだよ〜っハハハッ笑わせてくれるぜ!」
「はーめるぅぅぅぅぅ」
思わずポカンとするペルンゼンゲル、そしてクラベスとノエル、その他の客人たち。
クラベスは「お・・お父さん」と呟いたまま固まっていた。
「いいか?ステージの出し物っていうのはこういうことを言うんだぜ?」
そう言ってズカズカと舞台の上に乗り込んでいくハーメル。
フルートは額に手を当てて大きな溜め息をついた。
ハーメルは、特大バイオリンを構えると、活気のある表情で叫んだ。
「やっぱ祭りといえばコレだろう!●ツケンサンバ!!!」
そう言って、弓を手早に動かし始めた。
それと同時に軽快なメロディが流れてくる。
「ああっ!これは!!!」
「ま・・・●ツケンサンバ!!!!」
すると、客人たちは皆立ち上がり、一斉にマ●ケンサンバを踊り始めた。
クラベスとノエル、そして後ろに座っているフルートは必死で耳を押さえている。
「聞いちゃダメだ!聞いちゃダメだ!!」
舞台の上のハーメルはもはやノリノリだった。
「うわー、ど、どうしようー」
クラベスもノエルも耳を塞いだままそれぞれに叫んだ。
いつもならツッコミを入れてくれるフルートも、耳を塞いでいて動けない状態。
クラベスは耳を塞いだまま立ち上がり、隣の教室へと向かった。
ノエルもそれを見て、クラベスの後に続いた。
「へっ!?パパが舞台を乗っ取った!?」
「ペルンゼンゲルって人の手品が、あまりにもつまらないからって」
「クラベス、そこは今言うところじゃないと思う」
「私が持ってたバイオリンをいつ持ち出したのかしら、パパ」
リコーダーは考える。
「それだったら、さっきハーメルさんがペルンゼンゲルさんを呼び出して
持ってこさせていましたよ・・・」
カノンが言った。
ペルンゼンゲルはリコーダーを嫁に欲しいがためハーメルに逆らわないのだ。
そのためペルンゼンゲルも魔曲がどういうものか知っているはずなのだが、
ハーメルに逆らわずにマ●ケンサンバを踊っているのである。
「姉さん、それもっと早く言って!」
ノエルがツッコミを入れた。
「とにかくどうにかしないと・・・でもバイオリンはパパが持ってるし」
オロオロするリコーダーに、クラビが言った。
「わかった、オレが魔法で何とかする!」
「わー、さすがお兄ちゃん!」
リコーダーは嬉しそうに兄に抱きついた。
「・・・殺さない程度に手加減しろよ」
ヴァルヴが呟き、テュービュラーが頷く。
そしてクラスメートからウォークマンを借りると、耳栓代わりにイヤホンを耳につけ
大音量で音楽を流しながらクラビは隣のクラスに向かう。
耳を塞いだリコーダーとクラベスとノエルは、クラビの後についていった。
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