文化祭に行こう!



ここはとある小学校の3年生の教室。
クラスの中でも元気な少年・クラベスが、級友のノエルに話しかけた。
「ノエル、お前高等部の文化祭に行くか?」
「うん、カノン姉さんから色々な割引券を貰ったから行こうかなと思ってるけど・・・
 僕、高等部の敷地に入ったことないから迷ったらどうしようかなって思ってるんだ」
ノエルの姉カノンは、クラベスの姉のリコーダーと同い年。
クラベスもまた、同じようにリコーダーやその双子の兄クラビから割引券を貰っていたのだ。
「じゃあ一緒に行くか?オレ一度行ったことあるし」
「うん、いいよ」
ノエルは頷く。
すると、クラベスはほっとしたような表情になった。
「オレも、さすがに高等部に一人で行く勇気は無いよ」
「そうだね、不良とかいたら怖いもんね」
ノエルは納得の表情を見せる。
しかしクラベスはぼそりと呟く。
「不良か・・・それとは別の意味で、怖いんだよな」
ノエルはそれを聞いて首を傾げた。
「どういうこと?カノン姉さんは別にそんなこと言ってなかったけど・・・」
すると、クラベスは溜息をついた。
高等部に何があるんだろう・・・と、ノエルは不思議に思った。


そして、その日は見事な晴天となった。
文化祭日和とはまさにこのことである。

「うわー・・・高校生がたくさんいる」
「そりゃあ、高等部の敷地だからなぁ」
ノエルは小さく口を開けたまま呆然となった。
その横でクラベスは慣れた足取りでヅカヅカと歩いていく。
周りはすっかりお祭り風景で、校舎に続く出店の一軒一軒から、
高校生の男女が威勢のいい声をあげて呼び込みをしていた。
中には、女装をした男子生徒がハイテンションで客人を呼び込む光景もみられた。

「姉さんたちのクラスって二階だよね?」
「ああ、なんか喫茶店やるって言ってたなぁ」
「うん。どんな喫茶店かって聞いたら、来てからのお楽しみって言ってた」
「兄ちゃんや姉ちゃんのクラスはキャラ濃いのが多いらしいから、ある意味不安だな・・・」
そうこう言っているうちに、目的の教室が見えてきた。
丁度教室の前の廊下で、カノンが受付をしている。
ノエルとクラベスが高校生の人だかりを抜けるようにして歩いていると、
その小さな姿にカノンは気がついた。

「姉さん、来たよ」
「こんにちは、ノエルのお姉ちゃん」
二人は人ごみですでにヘトヘト顔だったが、そんな二人をカノンは温かく迎えた。
「まぁ、いらっしゃい。この場所すぐにわかった?」
「うん、クラベスが先導してくれたから」
「そう。無事に来れて何よりだわ。さぁ、入ってちょうだい」
そう言って、カノンは静かに教室の扉を開けた。


教室に入ったクラベスとノエル。
教室の中には綺麗なバイオリンの音色が響き、甘いお菓子の香りが漂っていた。
「あ・・・クラベスのお姉さんだ」
教室の前のあたりに作られた小さなステージの上で、
リコーダーはあの超特大バイオリンを奏でていた。
そしてその演奏を聴きながら、客はお菓子を食べたりお茶を飲んだりしている。
優雅に飾り付けられた教室内。
そこは、素敵な喫茶店になっていた。
「リコーダー姉ちゃん、演奏担当なのかー」
「すごいね、でも文化祭の間ずっと弾くのは大変だね」
クラベスがそう言うと、後ろから声がした。
「大丈夫だ、ステージに上がるのは交代だから」
その声の主は、リコーダーの双子の兄・・・つまりクラベスにとっても兄の、クラビだった。
クラビはウェイターらしき服装をしている。
「クラビ兄ちゃん・・・でも他に誰が?」
「カノンさんがフルートを吹いたり、オレが魔法を見せたり、
 他にもクラスのメンバーが入れ替わりで色々やってる」
「姉さんも演奏するんだ・・・てっきり飾りつけと受付だけやってるんだと思ってた・・・」
ノエルは意外そうな表情をしている。
「カノンさんを多忙にしちゃったのは悪いけど、クラスのメンバーの大多数は
 お菓子作り側に回しちゃったから・・・人手不足なんだ」
クラビは苦笑いを浮かべる。
「え、このお菓子ってあらかじめ用意してるんじゃないの?」
二人はとても驚いた。
「いや、隣の教室で作ってるんだ」
クラビが言うに、隣の教室とはベランダで繋がっていて運ぶのに便利だし、
隣のクラスは自主制作ビデオ上映なので視聴覚室を借りていて居ないそうだ。
「へー、じゃあ本格的な喫茶店なんだ・・・でも、お菓子作り上手い人がいるのかな」
クラベスが言うと、ノエルが答える。
「きっとテュービュラーさんだよ!父さんの仕事場の近くの食堂でアルバイトしてるんだけど、
 どんな料理も上手だからアルバイトなのに色々任されてるんだって」
ノエルの言葉にクラビは頷く。
「テュービュラーさんも確かにそうだけど、もっとお前らの知ってる人がいるよ」
と、クラビはまた苦笑いを浮かべ、隣の教室の方を見た。

隣の教室では、生徒たちがせっせとお菓子作りに励んでいた。
特にその中でもヴァルヴとペルンゼンゲルは瞳に炎を燃やしている。
お菓子作りに励んでいるはずなのに、何故か二人の頭の中はリコーダーの笑顔で占めていた。
ヴァルヴは、器用な手つきで次から次へとマフィンを皿の上に並べていく。
まるでそのマフィンは市販のマフィンそのもの。
出来上がったマフィンを見ては、クラスメイトたちは感嘆の息をついていた。

クラビは視線をクラベス達へと戻すと、
「アハハ」と小さく笑って席へと案内した。
「まぁ、二人ともここで座ってな。すぐに上等なマフィンが運ばれてくるから」
すると、クラベスは思いついたように目を輝かせた。
「あっ!クラビ兄ちゃん!ひょっとしてヴァルヴ兄ちゃんでしょう!
 ヴァルヴ兄ちゃんお菓子作り大得意だもんな〜♪
 決まってそのお菓子はみんなリコーダー姉ちゃんに食べられちゃうんだけど」
「そうなの?ヴァルブさんが?へぇー意外」
「もう、まさに主夫だぜ?家事も何でもこなせちゃうんだ。
 特にお菓子作りなんて、そこらの女たちよりも上手だってリコーダー姉ちゃんが言ってた」

クラビはそれを聞いて、
「まぁ、たしかにそうなんだけど・・・」
と呟くと、
突然隣の部屋からカシャーン!とボールをひっくり返す音が聞こえてきた。
「な・・・なんだ!?」
クラビは目の色を変えて隣の部屋へと駆けつけた。

クラビが隣の教室に駆けつけると、ペルンゼンゲルがテュービュラーに叱られているのが目に入った。
「何があったんだ・・・?」
クラビが尋ねると、テュービュラーが代わりに説明する。
「ペルンゼンゲルくんがなんかプリン液作ってて、それをひっくりかえしちゃったの」
「プリン液?プリンとかゼリーは前日に作って、冷蔵庫で冷やしてるんだろ?」
「そう、でも余ったケーキの切れ端を再利用してプティングを作ろうとしてたらしいのね」
テュービュラーから説明を受け、クラビは溜息をつく。
「無駄なく運営するという考えは立派だけどな・・・
 今は文化祭だから余計なスキルを発揮しないでくれ!」
クラビは頭を抱えた。



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