第2話




「リコーダー姫、お忍びで何をなさるご予定で?」
フォルが尋ねる。
二人は隠れていた場所から少しずつ、そーっとお城の外へと向かっていた。
「えーと、チョコパフェを食べに行こうと思ったのー」
リコーダーは先程までの恐ろしい発言とはうって変わって、無邪気に答えた。
「・・・チョコパフェを?」
「チョコパフェには世界一うるさいと評判の
 デザート王国のチョコ・パ姫が太鼓判を押したという
 スフォルツェンド城下町の喫茶店の特製チョコパフェ!でもパーカスがダメだって・・・
 ママもパパも言ってるの!コンチェルトさんが結婚してお仕事を辞めて以来
 お城で出るお菓子が前より美味しくなくなったって!!」
リコーダーはこぶしをあげて力説する。
それを聞きながら、フォルはホクホク顔であった。

(早速いいお話が聞けちゃったわー!
 味が落ちたくらいだとスキャンダルには程遠いけど
 姫もフルート王女もその旦那様も『まずい!』って言ってるんだから説得力抜群、
 ずばり『独占スクープ!スフォルツェンドの姫、公務員の怠慢を暴露!』よ!)
 
と、フォルはメモを取るのであった。

「ねえ、お姉さん・・・お名前、なあに?」
「フォル・・・フォル・クローレよ」
「じゃあ、フォルさん、チョコパフェ屋さんに連れてって!」
「勿論よ!おごってあげるからいいスクープどんどん聞かせてね!」

すっかり仲良くなってしまった二人は、例の喫茶店へと向かった。
他の人たちに気づかれる可能性は高まるのだが、
二人とも大して気にしてはいないようだった。




その頃。
囮役になったはいいがクラーリィに追いかけられて
あっという間に捕まってしまったシンフォニーが、
クラーリィに叱られていた。
「まったくお前は・・・どうせ
 里帰りしているフルート王女たちの写真の隠し撮りを狙ったのだろう?」
「す、すみません・・・」
「まったく、許可の無い撮影は許さないとあれほど言っただろうが!」
「クラ、そんなに頭ごなしに叱っては可哀想ですっ」
ミュゼットがクラーリィを宥める。
「そうだ、今はそれどころじゃない・・・リコーダー姫だ」
クラーリィも本題を思い出したらしい。

ミュゼットが、優しくシンフォニーに尋ねる。
「あなた、リコーダーちゃんを見ていませんか?
 勝手にお城を抜け出してしまって・・・私達、とても心配しているの・・・
 何か知っているなら、話してくれない?」
「う・・・僕は・・・」
シンフォニーは、このミュゼットのふんわりした笑顔に弱かった。
さすが慈母の血筋を受け継ぐだけあって、
ミュゼットに言われるとまるで母親に諭されているような気持ちになってしまうのだ。
クラーリィが強い口調で問い詰めようとするが、ミュゼットはそれを止める。
そして、にっこりと笑った。

「す、すみません・・・実は・・・」
シンフォニーは、口を開いた。



「やっぱりおいしいー」
リコーダーはチョコパフェを食べながらご満悦だった。
向こうで喫茶店のオーナーが感激で涙を流している。
「さすがリコーダー姫、売り切れなんてなんのそのですね」
人気喫茶店は早々と人が少なくなっていた。
理由は人気の商品が全て売切れてしまったからである。
しかしそんなものはリコーダーが居ればなんとでもなる。
姫のご命令とあらば!と、喫茶店の菓子職人たちは大喜びで、
材料をかき集めて新しいチョコパフェを用意してくれたのだった。
「使える権力は使えるだけ使っとけっておばあちゃんから習いましたから」
「そ、そうですか・・・」
フォルは苦笑いだ。
(姫が父方の性格を受け継いだということは、ちょっと隠しておいた方がいいかも)
そう考えながらも、メモを用意するフォル。

「さあ、リコーダー姫!フルート王女たちの私生活について、お聞かせください」
店の人に聞こえないように、フォルはリコーダーに言う。
「うん、わかったー」
リコーダーは笑顔で、自分の日常のことを話し始めた。



一時間ほど後。
フォルは色々なメモを見ながら、満足げに微笑んだ。
「ありがとうございましたー!これでいい記事が書けそうですー」
日々の食生活や村での行事や仕事といったまともなものも聞けたし、
ハーメルとフルートの夫婦喧嘩の光景や普段のラブラブさなども聞き出せた。
(ふっふっふーこれで謎に包まれていたフルート王女の私生活を暴けたわ!
 内容はゴシップ的なものにはやや欠けるけど、
 独占インタビューだから話題性は十分っ)
フォルはこれで生意気な先輩記者たちを出し抜けるわ、と思うと
思わず笑いそうになるのだった。

「パフェもおいしかったし、そろそろお城に戻らなきゃ・・・ママたちがきっと心配してる」
リコーダーは立ち上がる。
「そうですね、シンフォニーもいくらなんでももう捕まってるだろうから、助けなきゃ」
フォルが呟いた。
すると、リコーダーが心配そうに尋ねる。
「あのお兄さん、大丈夫かなぁ」
「大丈夫よ、私の相棒だもの」
フォルはさらりと答えるが、リコーダーはまだ心配そうだ。
「でも、でも・・・」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
すると、リコーダーは呟いた。

「あのお兄さん、私のお友達になんだか似てる」

「お友達に?」
フォルが尋ねると、リコーダーはコクンと頷いた。
「私とお兄ちゃんと同い年の、お向かいの男の子・・・
 お兄ちゃんと喧嘩するといつも負けちゃうの」
「へえ・・・だから、心配なんですね」
フォルがまた尋ねると、リコーダーは同じように頷く。

(成る程・・・リコーダー姫にも、大切な人は居るのね)

フォルは微笑む。
「大好きな、お友達なんですね」
「うん・・・」

フォルの問いかけにリコーダーは頷いた後、『あっ』と言うような表情をした。
思わず言ってしまったけど・・・と、困惑するような顔のリコーダーに、
フォルは笑顔で言う。

「今のことは、もちろん書きません・・・私とリコーダー姫、二人だけの秘密です」

「・・・うん」

それを聞いて、リコーダーは笑顔になった。
そして、二人は指きりをした。






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