第3話




「リコーダー!」
リコーダーのおかげでどうにかフォルも不審者扱いを免れ、城に戻ると、
心配したフルートがドレス姿のまま走ってきて、リコーダーを抱きしめた。
「ごめんなさい、ママ〜」
リコーダーは母の腕に抱かれ、苦しそうだが嬉しそうだった。
「フォル・クローレ、このたびの働き・・・感謝するぞ」
パーカスの言葉に、フォルは首を傾げる。
「その翼で飛んでゆくリコーダー姫を見つけて、追いかけてくれたそうだな・・・
 まあお前の場合は、スクープになるという考えもあったんだろうが、
 手柄は手柄だ・・・ご苦労だったな」
クラーリィに言われ、フォルはようやくシンフォニーが
そういう風に説明してくれたのだと理解した。
「フォルさん、ご苦労様でした」
シンフォニーが笑顔を向けてくる。
どうやらミュゼットに尋ねられて本当のことを喋りそうになったが、
相棒を守るために頑張ってくれたようだった。
「シンフォニーくんこそご苦労様っ」
フォルはシンフォニーの肩をポン、と叩いた。
さすが相棒だ、と思った。

「フォルさん、娘を保護してくださりありがとうございました」
フルートがお礼を言う。
「い、いえ・・・そんな、私は」
目の当たりにしたフルート王女は、やはり幼い頃に見たホルン女王と同じ・・・
あの神々しくも優しい、スフォルツェンド王家のオーラを持っていて。
そして、優しく娘のリコーダーを抱きしめるその慈愛に満ちた姿が、素晴らしくて。
いつもスクープを求めて追いかけているはずなのだが、
フォルは報道魂も忘れて、思わず見惚れていた。


「リコーダー、ようやく戻ってきたのか・・・
 お忍びで遊ぶ姫だなんてローマの休日気取りか?」
そこに、ハーメルが現れた。
いつもの黒装束でもなければ村で着ている服でもない、
スフォルツェンドの王女フルートの夫に相応しき、王族の服を身に纏っている。
「ハーメル」
フルートがその名を呼ぶと同時に、ハーメルはリコーダーをひょいと持ち上げる。
「窮屈だからって自分だけ逃げるなんてセコイぞー」
「いいじゃない、パパだって逃げれば」
「オレが逃げたらクラーリィが容赦なく魔法で捕まえに来るっつーの!
 お前だから無事だったんだぞ、そこんとこ理解しとけ!」
遠慮なく言い合う父と娘。
けれどもハーメルもフルートも、リコーダーが戻ってきたことをとても喜んでいて。
父と母と娘が笑顔を見せ合うその姿は、とても家族愛に満ち溢れたものだった。

「シンフォニー」
クラーリィがシンフォニーに呼びかける。
そして、何やら目で訴えた。
「・・・はい」

今回のお礼に・・・
シンフォニーはシャッターを切り、
あの父と母と娘の愛に満ちた姿を、カメラにおさめた。

「いい写真が、取れましたよ」
シンフォニーは微笑む。
「本当私達って、ついてるわね」
フォルも微笑んだ。




それからリコーダーは家族と数日をスフォルツェンドで過ごし、
スタカット村へと帰っていった。

記事の発表にそなえていたフォルたちも、帰ってゆく馬車を見送りにやってきた。
人込みがすごくて、見られなかったが。
「リコーダー姫から面白いお話、聞けましたか?」
「ええ、とってもいい記事が書けてるわ!今日編集長に出すつもり!
 明日は国中が騒然となるわよー、見てなさーい」
フォルは得意げに笑う。
手の中には、リコーダーからの手紙。今朝城からの遣いが届けてくれたものだ。
子供の字で書かれた可愛らしい花柄の便箋には、
ちょっとでもお忍びで遊べて楽しかったことや、
チョコパフェがとってもおいしかったということ、
手伝ってくれたフォルとシンフォニーへのお礼。
そして、あの時詳しく話せなかった、リコーダーの大切な友達のことが書かれていた。

フォルは思う。
もちろん、記事は発表するけれど・・・リコーダーと約束したことは、守ろうと。


「どんなことが書かれてたんですか?」
尋ねてきたシンフォニーに、フォルは言う。
「シンフォニーくん、あなたリコーダー姫に気に入られてるわよ!
 まあ、あなた自身が好かれてるってわけじゃないけどね」
「へっ?どういうことですか?」
突然の言葉にシンフォニーは首を傾げる。
フォルはそれを見て、楽しそうに笑った。



フルート王女とその一家が帰るのを待って報道されたあの記事は、
スフォルツェンド城に勤める料理人たちを総入れ替えするきっかけとなった。
フルートとハーメルの夫婦喧嘩などの日常の話に国民達は興味津々。
特に、フルートたちと一緒に戦ったことのある世代の人々は
身近に感じているのもあって、二人の日常の様子を知りたがっていたようだ。
パーカスやクラーリィたちは溜息を吐いたが、
リコーダーがばらしてしまったということと、
そのリコーダーを保護したのはフォルということで文句を言えず。
当然新聞の売り上げは格段に上がり、
フォルとシンフォニーは手柄を褒められ、出世間違いなしと言われた。


「編集長も驚いてましたね、フォルさん」
「もちろんよ!私も頑張ったもん」
鼻高々のフォル。
「僕が囮になったおかげじゃないですかー」
シンフォニーは拗ねたように言った。
「あはははは・・・それにしてもシンフォニーくんのあの写真大評判じゃない!
 報道大賞写真部門で表彰されるかもよ〜」
「そ、そんな・・・」
「さあ、次もスクープ目指すわよー、シンフォニーくんっ」
「はい、これからも一緒に頑張りましょう、フォルさん」

二人は、二人のおかげで一層世界にその名の知れ渡ったあの喫茶店で、
祝杯がわりのチョコパフェを食べるのだった。





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シンフォニーくんとフォルちゃんの関係はヴァルリコのようでいとおしいですv
「シンフォニーくんはミュゼットに弱い!」という裏設定があるそうなのでそれも導入。
でもフォルさんには逆らえないから・・・と思ってるといいなと思います。
そして早速カスタードくんネタを入れてみる私・・・(汗)
なんかドタバタ話になってしまいましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。