近頃中堅へと成長した、新聞記者のフォル・クローレ。
今日もパートナーのシンフォニー・トリアーデを連れ、
スフォルツェンド城の近くでスクープを狙っていた。
クラーリィやパーカスに何度注意されても懲りない・・・
新聞記者として中堅に成長しても、そこは変わらないのである。
「また見つかったら怒られますよ〜」
「何を言うのシンフォニー君!今はフルート王女とその家族が
スフォルツェンドへと里帰りなさっているのよ!
これを記事にしなくてどうするの!」
「ふぉ、フォルさん・・・声が大きいですよー」
隠れていた二人。
すると、向こうから声が聞こえた。
「くまなくさがすんだぞミュゼット!」
「わ、わかってる!クラっ」
ぱたぱたと走ってくる足音。
この国の大神官・クラーリィと、看護女官・ミュゼットである。
まずい、と二人は慌てる。
そしてとりあえず別の場所に移動した方が良さそうだとアイコンタクトで意思疎通し、
せーの、で逃げ出そうとしたその瞬間・・・
「お姉さん、お兄さん・・・お城の人じゃない人だね?」
子供の声が後ろから聞こえ、二人はギクッとした。
慌てて振り返ると・・・そこには、愛らしい少女が立っていた。
年のころは6歳か7歳ほど。
少し赤みがかった金髪に大きなピンク色のリボンを結んだ、可愛い女の子だった。
しかし・・・普通の子供と違うところがひとつ。
彼女の背中には、純白の翼が生えていたのだ。
「こっ、この子はぁあ!!」
フォルが驚く。
「フォルさん、声が大きいですって」
慌ててシンフォニーが言った。
しかしフォルは未だ興奮冷めやらぬ状態。
「こっ、この子はねっ!フルート王女の長女の、リコーダー姫よ!
世が世ならこの子がお世継ぎになってたんだから!」
「ええっ!り、リコーダー姫!?ど、どうしてここに・・・」
フォルの説明を聞いて、シンフォニーもようやく事態が飲み込めたようだった。
ハーメルとフルートの長女、リコーダー。
父方から受け継いだ天使の翼が特徴だが、
その背中にはスフォルツェンド王家の女王の直系の娘だけあり
十字架の痣もあると言われている・・・とにかく、お姫様であった。
慌てる二人とは対照的に、リコーダーはのんびりと答える。
「抜け出してきたの、だってママもパーカスもお行儀よくしなさいってうるさいし、
パパもこういうの嫌いなんだけど、バイオリン弾いてる間は楽しめるからいいよね」
「・・・お、お忍び?」
こんな小さい子が・・・と、二人は溜息をついた。
やはり王政をやめたあとも、王家は王家なのである。
「じゃあさっきのクラーリィさんとミュゼットさんは、リコーダー姫を探してたのね・・・
全く、びっくりしたじゃない〜」
フォルはほっとして胸をなでおろした。
「ということは、お姉さん達もクラーリィさんたちから隠れてるんだね?」
「ギクッ」
リコーダーの鋭い指摘に、フォルたちはビクッとなった。
「じゃあ抜け出すの手伝って」
リコーダーがニコッと笑った。
「手伝うって・・・王女誘拐の疑惑でもかけられたら僕ら絶対に死刑ですよ!?」
シンフォニーが言う。
「そうよねー・・・悪いけれどリコーダー姫、そういうわけには」
いきませんので、とフォルが断ろうとした時、
「お姉さんたち報道記者なんでしょ?しかも王室関係の記事の・・・
クラーリィさんが前に愚痴ってるのを聞いたことがある」
と、リコーダーが言った。
「そ、そう?」
フォルは笑顔だが、表情が引きつっている。
心の中では『アンニャロー』とでも思っているのだろう。
するとリコーダーは続ける。
「だから、私をここから抜け出すの手伝ってくれたら・・・
私達のスタカット村での生活のお話を教えてあげる!」
「!!!」
その言葉に、フォルが反応する。
王政が終わり、国を出てもなお人気の強いフルート王女。
その普段見ることの出来ない生活の話・・・これは間違いなく特ダネ。
特ダネ。これほど新聞記者にとって美味しい言葉はなかった。
「軽々しく外に言っちゃいけないことだってパーカス言ってたけどー、
大体パーカスってすごい神経質すぎ!だから禿げるのよ!」
「リコーダー姫、仮にも王女様なんだからそんな発言は・・・」
「お兄さんも神経質だねー、私の友達によく似てるねっ」
リコーダーのペースにシンフォニーはたじたじである。
すると、フォルが背を向けたまま尋ねる。
「リコーダー姫・・・今の話、本当ですか?」
「はい!人に何かを頼むときはそれなりの対価だってパパから習いましたから」
リコーダーは笑う。
父ハーメル、祖母パンドラの遺伝子が濃いと言われるリコーダーだが、
まさに性格もそのとおりなのだった。
「その話乗りました、リコーダー姫っ!」
「きゃー、ありがとう、お姉さんっ!!」
二人は手を取った。
交渉成立である。
「ほ、本気ですかフォルさんっ!ていうか声が大き・・・」
シンフォニーが慌てたとき、
「ああっ、あなたたちは!!」
やはり、ミュゼットに見つかってしまった。
「みゅ、ミュゼットさんっ」
「クラーーーー!ここにカメラマンさんがいますよー!
もしかしたらリコーダー姫を見たかもしれないですーーーー!」
大声でクラーリィを呼ぶミュゼット。
しかしすぐ横にそのリコーダーがフォルと一緒に居るのだが・・・
・・・ミュゼットは、それには全く気づいていないようである。
「うわわわわ、ど、どうしようー」
シンフォニーがちらりとフォルの方を見る。
するとフォルは手持ちのノートに何やらサラサラと文字を書き・・・
テレビ番組のカンペのように、シンフォニーに見せた。
そこに書かれていたのは・・・
『囮役、頼んだわよ!!』
という文字だった。
「そんなぁあああああ!!」
シンフォニーが叫ぶ。
フォルとリコーダーは同じ笑顔でこちらを向いて笑っている。
こうしてシンフォニーは囮となり、
クラーリィの追跡(魔法使用有)から死に物狂いで逃げるハメになったのであった。
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