翌朝。
「ハーメルさんところはほっといてもラブラブ、
 ライエルさんのところもほのぼのラブラブ、
 トロンくんのところも可愛くラブい・・・
 私たちが心配する必要、何もないような気がする」
朝食のフレンチトーストを作りながら、エリは言った。
「まあ、一番心配な人たちがうまくいったみたいだから」
カデンツァはハーブティーを淹れながら、おっとりと呟く。
「恋愛ってのは意外なもんやなぁ、こん中でいっちばん年上のクラーリィはんが、
 いっちばん皆に心配されとるんやもん」
サラダを作っていたアリアが言った。
「けれどアリア・・・お前、他のメンバーほったらかしててよかったのか?」
サスフォーが尋ねると、アリアは頷く。
「昨日のハーメルはんたちみたいに、人目の着かないところでラブラブしとるんや!
 その貴重な時間を奪ったらあかんわ!」
「そうかな?ハーメルさんは二階から落ちて負傷中だろ・・・
 ライエルさんのところは仲良くても見てて逆に和むくらいだし、
 クラーリィ隊長のところもやっぱりマイペースだし、
 トロンくんたちなんか言うまでもなくまだ子供なんだから」
正論を述べるサスフォー。確かにその通りである。
するとアリアはサスフォーの頬に両手でそっと触れ・・・
そして笑顔でアイアンクロー。
さらにほっぺたをひっぱって横にのばす。
「そんなこと言うのはこの口かぁー!」
「す、すびばぜん〜!!」
完全にカカア天下である。
「・・・人間、本当のこと言われるとむかつくのよね」
「あ、それわかる・・・」
エリとカデンツァはそう言いつつも、
やっぱり仲良くケンカしているようにしか見えない友人たちにため息をついた。
「オーボウさん、僕ら出番ないですね」
「・・・」(喋れない)
取り残されたディオンとオーボウは、地味に食器を並べていた。
どこまでも可哀想な2人である。

「あー、身体の節々が痛ぇ!お前が回復魔法使わねーから」
「自分のせいでしょーが!エリ姉さんもカデンツァさんもクラーリィさんも
 使うこと無いって言ってたわよ!」
「ライエル、今日もいい天気だな」
「はい・・・ああ、山の朝は空気がいいですね」
「トロン様、今日のお昼でアウトドアライフも終わっちゃうでーすわ」
「ちょっと残念だなー・・・」
各々朝食を食べに来る。
その中クラーリィは、
「ほら、ちゃんと起きろ!冷たい水で洗顔しろ!」
「ふぇ〜・・・」
寝起きの悪いミュゼットが寝ぼけて変な方向に行かないよう、
きっちり面倒を見ているのであった。



そして昼前、ログハウスを出ると、みんなは元来た道を辿って歩き出した。つまり下山である。
「上りと下り、下りの方が楽だけど、時々大変なのよね・・・足に負担かかるし」
そう言いながら、足元を慎重に見て歩くカデンツァ。
「それにしても、今日もむっし暑ー」
エリとアリアは声を合わせて呟く。
すでに汗だくで、手に握られたペットボトルはみるみるお茶の量が減っていっていた。
「でも、まーオレたちはこういうの慣れてるけどな」
さすがに旅慣れしているハーメル達パーティにしてみれば、どうってこともないのだろう。
皆、割と涼しい顔で下山をこなしていた。
・・・・が。
「うあーっ」
ズッテーンと後ろでコケる音がする。
本日これで5度目。
「お前は何度転べば気が済むんだよっ」
クラーリィの一喝が山中に響き渡る。
相変わらずミュゼットはみんなのお荷物だった。
「ふぇぇ〜足すりむいてしまいましたー(泣)」
「ミュゼットちゃん、大丈夫?」
すかさずカデンツァがミュゼット達のところまで
戻り、すぐさまポーチから消毒液と薬草を取り出す。
「カデさん、ごめんなさいーっ(泣)」
「いいのよ、気にしないで」
てきぱきと消毒を施すカデンツァ。
「全く・・・お前はどれだけ人に迷惑をかければ気が済むんだ。やはりお前はお荷物だな」
「ふぇ・・・」
「クラーリィさん、言いすぎよ」
ギロッとクラーリィを睨みつけるカデンツァ。
「チッ。本当のことだろうが。みんな口にはしていないがな、
 トロトロしたドジなお前にイラ立ってるんだよっ!!」
「・・・っ!」
カデンツァは、「アチャー・・・」と額に手を当てる。
しかし、それに対してミュゼットは怯まなかった。
「わざとそうしてるんじゃないもの」
「わざとじゃなくても、気をつければ誰も転ばぬ」
「クラ、またそうやってすぐに怒る」
「お前が怒らせるようなことをしてるんだろっ!!」
そこまでヒートアップしたその時である。
「あーーーもうっ!うるさいっ!!
 ケンカすんなら山奥でしてくれないかしらっ!
 ていうかクラーリィさん、それ以上ミュゼットちゃんをいじめるんだったら、
 容赦なくガケ下に蹴り落とすわよっ!!」
エリがついにキレた。
「まぁまぁ、みんなせっかくの楽しいアウトドアの帰りなんですから、仲良くしましょうよ」
そう言ってライエルがたしなめる。
どうも、暑さは人の心をいら立てやすい。
「さっ!あともう少しで下山も終わるわよっ。
 終わったところに、おいしいソフトクリーム屋さんがあるからそこで一休みしましょうっ」
明るい声でフルートは笑った。

そして、長い下山の末ようやくソフトクリーム屋に辿りつくのだった。





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