帰り際、トロンとコルネットを前に、
クラーリィとミュゼットは静々と後ろから歩いていた。
トロンとコルネットは可愛らしいカップルのように仲良く手をつないで、
他愛のない会話で盛り上がっている。
そんな二人を前に、クラーリィとミュゼットも
お互いを意識せずにはいられなかった。
触れ合いそうで触れ合えない手と手。
すると、その沈黙を押し破るようにしてクラーリィは空を見上げて呟いた。
「星が出てきたな・・・」
「え・・うん」
厚い雲で覆われていた雲が晴れ、空には満天の星空が広がっている。
「・・・来てよかったな」
そう言って小さく笑うクラーリィ。
それを見て、ミュゼットは頬を朱色に染めてポーと見つめていた。
いつしか、二人の手は自然と触れ合い、
そのままギュッと握られた。
「アウトドアも悪くないな」
ミュゼットは、ふとフルートがさっき言っていたことを思い出した。
それを思い出すと少しだけ真顔になるミュゼット。
「ね、クラ・・・」
「ん?なんだ?」
「耳・・・貸して?」
クラーリィが、ミュゼットの身長に合わせて腰をかがめると、
その不意をつくようにミュゼットはクラーリィの頬にキスをした。
「・・・えっ」
突然のことに、目を見開いたままカチコチに固まるクラーリィ。
そしてすぐにその顔は真っ赤に火照りあがった。
「さっきのお礼です・・・っ」
ミュゼットも顔が真っ赤だったが、
自分の恋心を悟られないように、すぐにクラーリィから視線をそらした。
やはり、まだまだこの二人は前途多難のようである。
こうして、無事(?)に四人はログハウスへと辿り着くことが出来た。
ちなみに、ライエルは出血多量にてすでに安静就寝しているのことである。
「ああ、よかった!ミュゼットちゃんっ」
「ごめんね、私がミュゼットちゃんの恐怖症のことすっかり忘れててー」
女の子たちは戻ってきたミュゼットに抱きついて、無事を喜んだ。
「はい、大丈夫なのです!ご心配かけましたっ」
ミュゼットはにっこりと笑う。
思ったより元気そうで、皆安心した。
先に出て行ったペアも皆戻ってきているようだ。
「でもミュゼットちゃん、よく平気だったね」
カデンツァが言うと、ミュゼットは少し赤くなって言う。
「・・・クラが、一緒だったから」
その言葉に、カデンツァ達は顔を見合わせた。
結果的に『ダットンとアロンの吊り橋効果』と同じことになったのかな、と。
明らかに、昼とはミュゼットの様子は違っていた。
「お前たちは肝試しに行かないのか?」
わいわい騒いでいるエリたちに、クラーリィが言う。
「あ、忘れてました!今から行く?」
カデンツァ&オーボウ、エリ&ディオンという明らかに余りモノペアが残っていた。
「いや、お前たちが行った所で結果は見えてるし」
クラーリィがその面子(特に女性陣)を見て言う。
アリアですらああなのだから、それ以上と言われるこの二人が肝試しに行っても
何ら驚くことも怖がることもなく歩いて戻ってくるだけだろう。
それに、姉弟や人生悟り組(←カデンツァ達)を一緒に行かせても
別に楽しいことも起こらないだろうし。
「そうね、もう遅いから寝る準備しましょうか」
「お風呂の用意しなきゃー」
皆、それぞれ自分たちのログハウスに引き上げてゆく。
「あ、そうだ!フルートさんとお話、しようっと」
ミュゼットはフルートを探してキョロキョロする。
「あれ?そういえばフルート姉ちゃんたち何処だ?」
「そういえばさっきから姿が見えませんわねー!」
「少し前までここにいたと思うけど・・・」
皆、フルートたちを探す。
すると。
ドカーン!という地響きがしたかと思うと、
フルートがログハウスの二階から降りてきた。
「あはははは・・・クラーリィさんにミュゼット、お帰りなさい」
「フルートさん・・・?」
フルートは笑顔だが、結っていた髪の毛は解け、
服装もどことなくボロボロになっている。
そして背中には巨大な十字架を持っている(本人は隠してるつもりらしい)。
「あいつ、この騒ぎに乗じてフルート王女を襲おうとして、
天罰の十字架を食らったのか・・・不埒な奴だ、まったく」
「なんか出てこないなぁと思ったら・・・あいつアホだな」
「さすがハーメル様とフルートお姉様、素敵夫婦ですわ」
褒めどころのずれてるコルネットときょとんとしているミュゼットを除き、
相変わらずの自分勝手なハーメルに呆れる一同。
そしてハーメルは、フルートに十字架で殴り飛ばされて、
二階の窓から落ちて、地面にめり込んでいた。
さっきの地響きはこれだったらしい。
「・・・ハーメルさん、救出料金と手当て料金占めて50万円になるけど、
払うんだったら助けてあげてもいいですよ」
エリとカデンツァが、ハーメルに暴利をふっかけていた。
「・・・鬼か、お前らは」
「自分のしてきた事は自分の身に返ってくるのよ、ハーメルさん」
「これを因果応報と言うのです」
「ふ、いいさ・・・高いところから落ちるのは慣れてるからな」
「それもそうですね」
「つまらないわねー、ほっといても3分で復活するなんて」
そんなこんなで、夜は更けてゆく・・・。
夜が更ける中、ライエルはトイレに起きて部屋の外を出た。
すると、廊下とベランダに繋がるガラス戸の向こうに、
麗しき天使が佇んでいるのが目に入った。
「あ・・・あれは、サイザーさん?」
ライエルは、ガラス戸をそっと開けると、
丁度サイザーが夜空の星を眺めているところであった。
満天の星空と天使はなんて絵になるのだろう。
そんな風に心を奪われつつも、
ライエルは後ろから「サイザーさん」と声をかけた。
「っ?」
サイザーは小さく驚いて後ろを振り返ると、
そこに優しい微笑みをたたえたライエルがいた。
「ライエル」
「サイザーさん、まだ起きてたのですか?」
「ああ・・・星を見ていたんだ」
「ここの星は本当にきれいですね」
ライエルも一緒に空を見上げる。
今にもこぼれ落ちそうな星たちは、二人のムードを盛り上げるのに十分だった。
「なぁ、ライエル。私は以前夜空の星を雪みたいだ、と呟いたことがあっただろう?」
「ええ・・・」
そんなことが、たしかに昔にあった。
その時のサイザーは孤独と共存していて、
傷だらけの翼でたった一人で羽ばたいていたのだった。
だけど、今のサイザーは・・・・
「不思議なんだ。星を見てても冷たそうに感じないんだ。
むしろ温かい光のようにさえ思えてくる」
「・・・サイザーさん」
「そういう風に星を見れるようになったのも・・・」
そう言うと、サイザーはそっとライエルの腕にしがみついた。
「・・・・お前のおかげなんだよな」
小さく笑顔で呟くサイザーに、
ライエルの鼓動は高鳴った。
だけど、いつものように鼻血は出ることはなく、
その代わりにこの隣にいる女性を愛しく思う気持ちで胸いっぱいに満たされていた。
「サイザーさん・・・」
「今日はなかなか楽しかったぞ」
「ボクもだよ」
ここには何も邪魔するものはいない。
ライエルとサイザーはそれきり沈黙になると、星空の下でそっと口付けを交わした。
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