一方、クラーリィたちはランプを手に、暗い道を進んでいた。
ミュゼットはクラーリィの手を強く握っている。
最初はそれを喜んでいたクラーリィだったが、
次第にミュゼットの様子がおかしいことに気づき心配になってきた。
「おい、ミュゼット・・・大丈夫か?」
「・・・」
ミュゼットは頷くが、明らかに元気がない。
よく見ると、震えている。
「・・・そういえば、お前暗いところがダメだったんだな」
クラーリィが言うと、ミュゼットは肩をすぼめた。
もっと早く皆に言っていれば迷惑かけなかったのに、と落ち込んでいるようだ。
「大丈夫、お前は悪くないんだ・・・大丈夫だ」
それを安心させるように、クラーリィはミュゼットの頭を撫でる。
「・・・」
「絶対に大丈夫だ、オレがついている・・・
 ・・・それでも、怖いか?」
クラーリィの問いに、ミュゼットは首を横に振った。
そうかそうか、とクラーリィはまたミュゼットの頭を撫でる。
「子ども扱い・・・しないで欲しいですっ」
「ったく、人がせっかく安心させようとしてるのに」
まだ怖そうだったが、恐怖心は少し減ったようだった。

たちこめる闇は徐々に深くなっていく。
一度は安心したミュゼットだったが、闇が深くなるにつれて再び元気がなくなってきた。
時折、鳥の「ギャーギャー」という鳴き声が月夜に響き渡っている。
「あ・・・れ、まずいな・・・迷ったか」
クラーリィは額に汗を滲ませると、困ったように眉をひそめた。
その右手には、しっかりとミュゼットの手がつながっている。
「・・・クラ、今どこ?」
今にも泣きそうな声。
「安心しろ。ちゃんとログハウスに着くから」
「・・・・・」
さっきから同じ道をぐるぐる回っているような気がする。
というか、どこを見ても皆同じ風景だ。
「・・・参ったな」
クラーリィは眼鏡をかけ直したその時だった。
「帰れない・・・?」
ひ弱な声が隣から聞こえた。
「大丈夫だ。帰れるって・・・・ミュゼット?」
異変を感じたクラーリィ。
すると突然、ミュゼットは胸を押さえて地べたに座り込んでしまった。
「苦しい・・・」
呼吸がいつも以上に上がって、目には涙がたまっている。
それを見て、クラーリィの血相が変わった。
「おいっ!大丈夫か!?しっかりしろっ」
そう言ってクラーリィはミュゼットの肩を抱く。
・・・そうだ。
そういえばミュゼットは過去にトラウマがあったせいで、
それが障害となって残ってしまっているのだった。
以前にも同じようなパニックを一度起こしたことがあるのを、クラーリィは思い出した。
「・・・ッ・・ッ」
「ミュゼット、大丈夫だから。な?オレがこうやって抱いててあげるから」
地面に座り込んで声を押し殺して泣くミュゼットを、
クラーリィは介抱するように後ろから抱きしめた。
堪えようと我慢するもの、涙はポロポロとこぼれ落ち、地面にどんどん吸い込まれていった。
「クラ・・・クラ」
「大丈夫。ずっとこうしててやる・・・」
クラーリィは、膝の上にミュゼットを乗せると、
ぎゅーっと強く抱きしめた。
こうすると落ち着くことを、クラーリィは心得ていた。

そして、数分するとミュゼットの震えがおさまってきて、呼吸も大分落ち着いてきた。
それを確認すると、クラーリィは安堵の息をついた。
「落ち着いたか?」
それに対してコクンと小さく頷くミュゼット。
目が暗闇に慣れてきたのもあるかもしれないが、
それ以上にクラーリィの抱擁に安心しきっているようだった。
「・・・よかった」
そう言って、再びクラーリィはミュゼットを抱きしめる。
安心すると同時に、腕の中のミュゼットに、
トクントクンと胸が高鳴るのを覚え始めていた。
「クラ・・・迷惑かけてごめんなさい・・・」
ミュゼットが細い声でそう呟くと、クラーリィは
その前髪を優しく撫で上げるようにしてささやいた。
「迷惑などと思っていない・・・」
「・・・・でも、せっかくの楽しいイベントが」
「お前とこうして二人っきりになれるだけでも、
十分嬉しいイベントだぞ」
ミュゼットは、意外な言葉に顔を赤らめると、
どうしようもないくらいに胸がドキドキと鳴り出した。
クラーリィも、まだ潤みの残っているミュゼットの瞳を見て、
全身が熱く火照っているのを感じていた。
このまま沈黙が続けば、間違いなく二人の顔は接近するであろう。
「・・・・ミュゼット」
そう言って、ミュゼットの華奢な肩に手をかける。
「クラ・・・」
ミュゼットも、クラーリィの身体に引き寄せられるように目をとろんとさせる。
甘い声に、クラーリィの理性が壊れそうだった。
二人の唇がふれ合う、その時である。
「お姉サマあああああああああああ!!!
 お兄サマああああああああああああああ!!!
 大丈夫でーーーすかああああああああああああ!?」
どこからともなく現れるコルネット。
・・・というよりも化け物コルネット。
突然の登場に、二人の表情は固まった。
反射的にクラーリィが撃ってしまった魔法攻撃が、コルネットの体に当たって跳ね返り
(というかはじき返された)、空に向かって飛んでいった。
「え・・・」
コルネットは妖怪の身体をしたまま、ゼェハァ!!と呼吸を繰り返している。
二人の無事を確認できると、ホッとしたように胸を撫で下ろした。
「ああ〜無事で何よりでーすわぁ〜〜vvvてかお姉サマ大丈夫ですか!?」
「え・・・あ・・・何とか・・・」
「あああよかったあああああああ!!!」
コルネットの凄まじい姿に、ミュゼットはドキドキする。
すると、コルネットは思い出すようにして声を上げた。
「はあっ!!そうだわっ!!私このままでは元に戻れないんでしたわ!!
 トロン様ーーー」
「シーザースラッシュ!!!」
そして、彼もどこから出てきたのかわからないが、
コルネットの上にズシャーーーッと剣を刺し貫いた。
それと同時に、コルネットは元の可愛い女の子へと戻る。
「ああ〜vvトロン様〜♪ありがとうでーすわ♪」
「全く・・・ていうかお前らも心配かけさせるなよな!!
 コルネットもあんま無理すんなよ」
「はい☆でーすわ♪トロン様ぁ〜」
「ったく・・・(笑)」
いちゃいちゃラブラブのトロンとコルネット。
完全に二人っきりの世界である。
そんな二人を見て、クラーリィとミュゼットが同時に思ったこと。それは、
・・・・自分たちより年下だよな・・・・。
ということだった。
ミュゼットのことで頭が一杯のクラーリィは、いつもの「妹に手を出すな!」の調子を出すことも
忘れ去っているようである・・・。






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