夕食を終えて、一同は肝試しのイベントへと乗り出した。
ほとんどのメンツがやる気満々である。
エリが意気揚々に説明を始めた。
「じゃあ、ここがスタート地点ね。ここからグルッと周ってログハウスに戻ってくるの。
 脅かすものは何もないけど、ここらはコウモリが出るみたいだし、
 墓地の側も通るからムード抜群よねvvv
 回った証拠として、お墓の近くにある一番大きな楠の木にこのタスキを結んでくること!
 ちなみに、ペアは私の独断と偏見で決めたから」
・・・独断と偏見って?思わず固まるみんな。
とはいえ、予想に難くないペアが発表された。
「はぁ・・・肝試しか。この年になって」
クラーリィがボソッと呟く。そこへ愛の勇者ライエルがそっと耳打ちをした。
「クラーリィさんっ。チャンスですよ!ミュゼットちゃんと愛を深めることのね!」
それを聞いて、クラーリィはハッとした。
それからというもの、クラーリィはミュゼットを意識をせずにいられなくなってしまった。
だが、一方のミュゼットはどことなく元気がない。

「さぁーっ!じゃあ一番手はライエルさんとサイザーさんチームっ!!
 いってらっしゃーい♪」
そう言って大きく手を振るエリ。
「なぁっ・・・!一番ですかぁぁ!!」
「ライエル。よろしく頼んだぞ」
そう言って、サイザーは照れるようにして
ライエルの腕にしがみつく。
「のああああああああ!!!ブシュウウウウウウ!!」
大量の鼻血を噴出するライエル。
出発前から前途多難な二人だった。
二人の影が小さくなるまで、みんなは苦笑いをしながらひらひらと手を振って見送った。
「・・・後続のチーム、血まみれで倒れてるライエルさんに驚くんじゃないかな?」
「お墓の前で倒れてたりしたらシャレにならないわよね」
エリとカデンツァは、心配そうに(?)呟いた。

次に行くのは、アリアとサスフォーチーム。
「さぁっ!行っくでぇー♪悪魔狩りに出発やー♪♪」
ノリノリのアリア。
「ああ・・・もう少し怖いものダメな女の子だったら」
「誰のこと捕まえて怖がりな女の子がいいと言っているのかしらこの口は?」
アリアは笑顔で言う。
「いやぁあああ!アリア、標準語怖い!怖いから!!」
サスフォーはトホホ顔で、アリアを先頭にズンズンと突き進んで行った。
このカップルにも、みんな苦笑いでヒラヒラと手を振った。

そして、いよいよ次に向かうのはクラーリィとミュゼットの二人だった。
みんな、思わずゴクンと息を飲む。
「さぁ、ミュゼット行くぞ」
そう言って、手を取るクラーリィ。
手を触れただけでその顔は真っ赤だった。
(・・・あの人、そんなにウブなのか!?)
顔を赤らめるクラーリィに、唖然とする一同。
何度も手はつないでは来ているが、どうも恋愛を意識すると、
心臓の鼓動がバクバクしてしまうらしい。まさにヘタレな男の代表である。
「う・・・うん」
ミュゼットは出発間際も相変わらず元気がなかった。
怖いのか、何かを恐れているのか。
クラーリィは自分の気持ちで一杯一杯なため、
そんなミュゼットの様子を気にかける以前に「可愛い」と思ってしまっていた。
そして夜の森の中へと出発する二人。
「『ダットンとアロンの吊り橋効果実験作戦』が成功するといいわね!」
エリが高揚な声で言う。いつの間にか作戦名がつけられていた。
本人も『作戦名長い!なんかいい略称つけてくれ!』と思っているらしいが。
「キスとか出来たらいいのにねvv」
フルートやコルネットはそっちで盛り上がっていた。
しかし、カデンツァは妙にミュゼットの様子が引っかかっていた。
(おかしいわ・・・。何かいつもの元気さがない、というか・・・あの類の表情は・・・)
そして、急にハッと重大な事実を思い出した。
(あの子!そういえば暗所恐怖症なんじゃないの!?)
しかし、気づいたときは時すでに遅し。
二人の影は見えなくなってしまっていた。



「暗所恐怖症!?ミュゼットちゃんってそうなの!?」
エリが叫ぶ。
「どうしよう・・・とにかく、これは忘れてた私の責任だわ」
「で、でもクラーリィさんがついてるからきっと・・・
 ってクラーリィさん方向音痴か!ダメじゃん!
 帰ってこられるかどうか危ういじゃない!」
「そうなのよ・・・・本当、どうしよう」
カデンツァは頭を抱えた。
「こうなったらうまく誘導するしかねーだろ」
ハーメルが言う。
「誘導・・・そうか、ナイス!ハーメルさん」
エリは賛同した。しかしカデンツァは首を横に振る。
「ダメよ・・・クラーリィさんが警戒してるところに下手に出て行くと、
 魔法を食らって大惨事になりかねないわ!」
すると、コルネットが進み出る。
「だったら私がお姉様とお兄様をお助けします!
 私にはお兄様の魔法は効きませんから!」
「そっか、コルネットちゃんがいたんだ!」
カデンツァはコルネットの手を取って喜ぶ。
「コルネット・・・お前、クラーリィの魔法効かないのか?」
トロンが尋ねると、コルネットは首を縦に振った。
「はい、あることをすればほとんど効かなくなりまーすわ」
それを聞いて、一行青ざめる。
「あることって・・・まさか!」
コルネットはこくんと頷き、叫んだ。
「コルネットファイナルメタモルチェーンジ!!」
コルネットの体が光に包まれる。
ここまでなら魔女っ子の変身シーンなのだが・・・
「この体ならお兄様の魔法も効かないでーすわv」
そう、あの魔族への変身であった。
口だらけの不気味な魔族。
口のそれぞれがコルネットの意思とは関係なしに「あ゛〜」と不気味な声を出している。
「ああ・・・やっぱり・・・」
トロンは後退りする。
「トロン様、行きましょう」
「え、オレも行くの!?」
「だって・・・トロン様がいないと、私、元に戻れないですわ」
「そ、それもそうだな・・・」
「あと、こけたときも起こしてほしいでーすわ」
「わー!なんか変な溶解液が出てるー!地面とけてるー!!」
共にクラーリィ救出に向かう、最年少組。
少し不安に思いつつも、残されたメンバーは手を振って見送った。
「・・・私たちもそれなりに作戦考えましょうか」
「そうね、エリ・・・」







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