ログハウスが森の中にあるだけに、空気が澄んでいて、とても心地がよかった。
フルートとミュゼットは、他愛のない話で盛り上がっていた。
特に恋バナには二人とも花を咲かせずにはいられない。
「ねぇねぇ、ミュゼットってクラーリィさんとどこまですすんだの?」
「どこって?」
お約束の反応。ミュゼットはキョトンとした表情でフルートを見る。
「え、えーと・・・古い言い方だと、A・B・C・・・ってやつ」
「??」
「だからその、つまり・・・クラーリィさんとどーいうことまでしたかってこと!」
「エッ・・・(汗)」
それを聞いて、ミュゼットは顔を瞬時に赤く染めた。
「わたしは・・・その・・・」
「まさかっ!まだなの!?」
「フルートさんは・・・?」
「私はそりゃあ、ハーメルとはそういう関係で・・・て何言わせるのっキャー恥ずかしいvv」
一人で盛り上がり、一人で真っ赤になって笑うフルート。
2人の関係は恋人なのか夫婦なのか・・・でもずっと一緒に居ることには変わり無い。
そんなフルートを見て、ミュゼットは微笑ましそうに笑った。
そして、ほんの少し表情を曇らせる。
ハーメルとフルートは、ケンカはそれこそ多いもの、
傍から見ればカップルだとすぐに分かる。
後ろから抱きついたり、手をつないだりと、
以前よりもはるかにフルートは積極的になっていた。
そして、どこから見ても仲のいいカップルである。
「・・・」
「どうしたの?ミュゼット。」
「・・・まだなの。私たち・・・・キス、したことないわけじゃないけど・・・
 なんか・・・そういう雰囲気じゃなかったっていうか・・・その・・・
 ・・・他の恋人同士の人たちとは、何か違うような気がします・・・」
不安そうに呟くミュゼット。
お互いの絆は深まったものの、恋愛に関してはあまり積極的でないためか、奥手なためなのか、
ほとんど進展がないといっていい状態だった。
もしかすると、恋愛には向かないのかもしれない、と少し不安を覚え始めていた。
「でも、それってクラーリィさんがミュゼットのことを大切にしてるってことじゃない?
 大丈夫よー。こういうのって二人の問題だからさ」
「・・もしかして、私に色気がないのかもです・・・」
「うーん・・・じゃあ試してみたらどうかしら?
 きっとあなた達の場合きっかけがない限りずっと進展しなさそうだからさ。
 もうミュゼットから襲っちゃえっ!」
「ええッ!?襲う!?!?」
突然の爆弾発言に口をパクパクさせるミュゼット。
「そうよっ!大人の色気を出してクラーリィさんにアピールするのよっ!!
 そうすれば少しどころかかなり進展できるんじゃない?」
もはやフルートはノリノリである。
すると、思いがけのない返事が返ってきた。
「うん。やってみる」
その一言に、フルートは我が耳を疑う。
そして、本気な瞳のミュゼットに慌てて言葉を直した。
「で、でもそんな焦らなくても大丈夫だからっっ!焦りすぎは禁物よっっ」

そんなこんなで盛り上がっている王女二人。
近辺を散策していたアリア・エリ・カデンツァの耳には、二人の会話が丸聞こえだった。
「青春やなぁ〜、ええなぁ」
「アリアはサスフォー君と十分ラブラブでしょうが!
 それにしてもミュゼットちゃんは初々しいわね。
 しかし、フルートさんは随分と積極的になったものだわ・・・
 まあ、一応村では簡易的な挙式もしてるし、もしあの二人に何もなかったら
 個人的にはご祝儀を騙し取られた気分になるわね」
「せやなー・・・まあ、ライエルはんとサイザーはんはそれでもかまへんけど」
「そうね、あの二人は別物ね!」
呑気なエリとアリア。ていうか完全に話題が逸れているが。


「へー、ミュゼット王女とクラーリィ隊長をくっつけるのか?
 しかし自分から襲えとは・・・女は怖いな」
サスフォーはアリアからそれを聞いて、少しだけ青くなった。
「でもいいのか?取り返しのつかないことになるかもしれないよ」
ディオンが言った。
「そうね、確かに・・・でもすごいことになったらコードに引っ掛かるから
 そんな大変なことにはならないんじゃない?『甘味協奏曲』には裏がないし」
「エリ、大人の事情を堂々と暴くなよ・・・」
ディオンは姉の相変わらずの様子に溜息をついた。
「あの二人、確かに恋人らしさっちゅーのには欠けとると思うわ・・・
 一応相思相愛なんやろ?奥手っちゅーのは厄介やわ」
くっつくまで人のこと言えた立場ではなかったサスフォーとアリアだが、
一度くっついてしまえば明らかにクラーリィより勝ちである。
「フルートさんも無責任なこと言わないで欲しいわよね・・・
 第一自分もそれ実行してないんだからね」
「自分から襲うってやつ?」
「そう、それよ!もしフルートさんが実行してたとしたら、
 ハーメルさんは耐えられてたか!私は耐えられないに一万円賭ける!」
「勝ちの見えた賭けやな」
エリとアリアはやっぱり話が逸れまくっている。
喋れないオーボウが、溜息をついた。
「あ、ちょっと待て!」
サスフォーが突然叫ぶ。
「どうしたん?」
「この話ライエルさんが聞いたら、鼻血出して倒れるんじゃないか!?」
「そ、そういえばそうかも!」
サスフォーの忠告に、一同青ざめる。
「ライエルさん!ライエルさんはどこ!?」
エリたちがきょろきょろすると、サイザーが床を指差した。
「ライエルさーん!」
時既に遅し、ライエルは鼻血を出して倒れていた。
「早くカデンツァを呼んできてくれるか・・・」
サイザーは頭を抱えた。



「まったく、まず一番最初に予想した危機は当たったわね」
カデンツァはライエルにワサビの葉を無理矢理食わせながら、
呆れたように呟いた。
「ライエルはこういう話には弱いんだ・・・クラーリィたちのことは、
 私もライエルも応援したいとは思っているが」
サイザーが心配そうに呟いた。
すると、カデンツァが言う。
「そんなに難しく考えなくてもいいと思うわ・・・
 あなたたち、『ダットンとアロンの吊り橋効果実験』って知ってる?
 恐怖心からくる心臓のドキドキを恋のドキドキだって勘違いしてしまうから、
 危機的状況に男女が共に置かれると恋に落ちやすくなるのよ」
「へー、それって本当なの?」
「さぁ?でも危機的状況になると本能的に子孫を残そうとするから
 そうなってもおかしくないように動物は出来てるんじゃないかしら」
淡々と語るカデンツァに少し皆は恐怖を覚える。
「・・・で、それをどう利用するの?」
「あの二人は情熱的部分、つまり本能的部分が欠落してるのよ、
 心の中に芽生えてる愛情は深いけれど・・・
 人がラブラブになるのってその両方が存在してこそなの」
「はぁ・・・要するに、二人を一緒に危機的状況に陥らせろと」
カデンツァの言いたいことをようやく飲み込めたディオンが言う。
「じゃあどないするん?クラーリィはんは吊り橋なんか怖がらんやろ」
アリアが尋ねると、エリが言った。
「ここは王道的に肝試しあたりでいいんじゃない・・・
 あんまり危ないこと提案すると、クラーリィさんに勘ぐられるわ」
成る程、と一同納得する。
クラーリィはお化けを怖がらないだろうが、ミュゼットが怖がりさえすれば
十分危機になるということで解決したらしい。
そして夜までに企画しよう!と盛り上がるのだった。





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