どれくらい歩いたのだろうか。
森の中、結構な距離をクラーリィ達一行は突き進んでいた。
どこもかしこも同じような木々や緑ばかり。
サイザーは、地図に目を落としながら呟いた。
「そろそろだと思うんだけどな」
長距離を歩いているにも関わらず、
サイザーは涼しい表情で地図と目の前の風景を交互に見ている。
「結構歩きましたよね。それにしても今日は結構暑いですよね。かなり汗かいちゃったよ」
サイザーの隣で歩くライエルも、爽やかそうな笑顔で前へズンズンと進む。
彼の場合、黄金のピアノを背負っているにも関わらず、この笑顔なのだから
普通の人から見れば超人に見えなくもないのだろう。
一方、ミュゼットは列に遅れて一人ハァハァ言いながら懸命にみんなの後ろを追っていた。
人一倍歩くのが遅い上に、体力があまりないミュゼット。
しかし、それによってみんなのお荷物にならないよう弱音を吐かず、懸命に歩いていた。
だんだん表情が険しくなってくるミュゼットに、クラーリィやコルネットが歩調をあわせる。
「お前大丈夫か。顔色悪いぞ」
「お姉サマっ!少し休憩しますか?」
「・・・・いい・・・・」
歩みを止めないミュゼット。そこでコルネットはピーンと何かを思いついたように
クラーリィに耳打ちをした。
「お兄様、これはチャンスです。お姉サマの心を奪う絶好のチャンスです!!」
「は?・・・何だよ、それ」
一瞬ドキッとしながらも、冷静さを保つクラーリィ。
「お姉サマのことを負ぶってあげるのです!
『ほら、オレが背負ってやるよ』
『えっ!いいの?クラありがと〜♪うれしいーーvvチュ♪』なんて
展開があるの間違いなしです!!」
ひたすら二人の恋を応援するコルネットは、
疲れもぶっ飛んだといった生き生きとした表情である。
「・・・・(汗)」
「ほらっ!お兄様さっさと声かける!!」
・・・おんぶ。
そのシチュエーションにクラーリィも内心ドキドキしていた。
コルネットが過激な妄想を言葉にするだけで、クラーリィの心も高鳴る。
しかし、ここは冷静にいつものぶっきら棒な口調でミュゼットに声をかけた。
「おい。オレがお前のことを負ぶってやってもいいんだぞ」
しかし、ミュゼットの返した返事は酷だった。
「・・・いい」
「(少しガーン)だって、お前もう限界だろう」
「だって・・みんな歩いてるのに・・・一人だけおぶってもらうの・・・よくない・・・・」
『おんぶシチュエーション計画』はガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
そう。一見ふわふわしたミュゼットだが、芯は強く、おまけにかなりの真面目。
悪く言えば頑固だ。一度こう言ったらテコでも言葉を変えることはないであろう。
「そ・・・そうか。じゃあ頑張るんだな」
少しショックを受けつつも、クラーリィも一緒に並んで歩く。
コルネットやその様子を見ていたハーメルたちはみんなして
クラーリィのそのヘタレっぷりに溜め息を同時につくのだった。
そうこうしてるうちに、
目的のログハウスが見えてきた。
「わー、思ったよりひろーい!」
「なかなか快適そうな貸し別荘だな」
フルートとサイザーは、いくつか並ぶログハウスを見てまわる。
造りはどれも同じのようだが、家具の配置が微妙に違う模様。
少し遅れて辿り着いたクラーリィたち。
ミュゼットはかなり疲れているようだった。
「早くお姉様を休ませてあげたいでーすわ」
コルネットが言う。
「そうね・・・クラーリィさん、私たちが借りてるのは二つのログハウスですか?」
「ああ、ひとつに8人まで泊まれるからな」
「じゃ、オーボウさんを含めて14人だから、7・7で分かれましょ」
エリが言う。皆も頷いた。
すると、コルネットが提案した。
「お兄様とカデンツァ様はミュウお姉様の具合が良くなるまで
ついていたほうがいいと思いまーすわ」
純粋にそう思う気持ちと、クラーリィとミュゼットをくっつけるための作戦。
どちらも含めてそうしたほうがいいとコルネットは判断したのだ。
「せやったらその3人を固定して、クラーリィはんが居ても問題あらへんためには
他メンバーが女ばかりに偏らへんように決めたらええんやね」
こうして、クラーリィ・ミュゼット・カデンツァの方のログハウスには
ハーメル・フルート・トロン・コルネットが一緒に入ることになった。
「ミュゼットちゃん、大丈夫?」
「うん・・・ちょっと疲れただけだよ、カデさん」
ミュゼットは椅子に座り、水を貰う。
「ねえミュゼット、そろそろお昼の時間だけど・・・ご飯、食べられそう?」
「うん・・・さっぱりしたものなら少し」
激しい運動の後のため、あまり食欲のないミュゼット。
「そっか、じゃあ油モノとかはダメだね」
フルートは持ってきた材料で何ができるか考える。
すると、隣のログハウスに荷物を置いたエリとアリアが早速やってきた。
「フルートちゃん、ご飯の用意するで!水たくさんと鍋を用意してーな」
「えっと・・・何を作るの?」
フルートが尋ねると、エリは袋から白い細い棒の束を取り出した。
「ハーメルはんが、エリはお米の代わりにソーメン持ってこいゆうて」
「ば、バカ!言うな!」
ハーメルが慌てて後ろから割って入る。
「ハーメル、流しそうめんやってくれるの!?」
フルートが嬉しそうに尋ねると、ハーメルは少し赤くなって頷いた。
「ハーメルさん、フルートさんのお願いを叶えてあげたかったんですね」
エリはそれを見て嬉しそうに言う。
「そうめんならさっぱりしてるから、ミュゼットも少しは食べられるよね!」
「うん」
フルートは、ミュゼットと一緒になって喜んでいる。
「あ、でも流すための竹はどないするん?」
「この山には竹が生えてるらしいからな」
「どうやって切り出すん?」
「う・・・」
アリアの問いに、ハーメルは『しまった!』と言いたげな顔をした。
どうやらそこは何も考えてなかったらしい。
すると、
「ハーメル、このオレ様が剣を使ってやろう!
サイザーは確か、鎌持ってきてなかったしな!
オレの剣があれば狩りだって楽々だ!快適なキャンプになるぜー!」
と、トロンが言った。
それを聞いていたコルネットが、
「さすがトロン様!トロン様のおかげで、お姉様たちもきっと大喜びしますわ!」
と、拍手をしてトロンを褒める。
「何を偉そうに」
ハーメルはさすがに苛立ったらしい。しかし、トロンは言った。
「いいんだぜ、そのことフルート姉ちゃんが知ったらがっかりするだろうな」
「・・・くそっ」
「ノコギリを忘れたお前の負けだな」
クラーリィが言う。
ただし、頼れない度はハーメルといい勝負だということを彼は自覚していなかった。
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