そして、いよいよキャンプに行く日がやってきた。
集合場所には全員揃っている。
それを見渡して、クラーリィは安堵の息をついた。
「よかったな。無事みんな来れたのだな」
すると、背後から思いっきり肩を鷲掴まれた。
左肩と右肩。左右それぞれ違う手で掴まれている。
突如のことに、クラーリィは驚きを隠せない模様。
「なっなんだ!?」
すると、背後からボソッと呟き声が聞こえた。
「「ちょっと・・・・」」
背後にいるのは女性らしい。
しかも、違う声が重なり合ってるので、人数は二人とみた。
背後はもはや怨霊のごとく黒い。
クラーリィは、後ろを見ると、その女性の正体に唖然とした。
「は?何でお前らまでここにいるんだ」
そこで、女性二人はついにキレ出した。
「お前らとは何よ、お前らとはっ!!『あなた方』と呼びなさいよ!
それより私たちをこの胸躍るキャンプに誘わないってどういうことですかっ!?
50文字以内で説明できるもんならしてみなさいよコラァ!」
「せや!!うちはあんたをそんな風に育てた覚えはあらへんわ!!」(育ててません)
「カデンツァに聞いたらログハウスにはまだ余裕あるっていうから、
弟と一緒に参加させてもらうわよ!」
「うちも亭主を連れてきたわ!」
「お金が居るんなら出すわよ!食糧だってちゃんと持ってきたわよ!
これでも断るっていうんなら理由を30文字丁度で答えなさいよ!!」
キーキーギャーギャーとわめくのは、スタカット村に住むエリとアリアだった。
後ろの方には、サスフォーとディオンが縮こまっている。(ように見える)
やはりそれぞれ、彼女と姉のあまりにもの剣幕に怯えているのだ。
(※ディオンとエリは乳姉弟なのです)
「あら、クラーリィさん・・・2人を誘ってなかったの?」
「お前、こいつらを誘わないなんていい度胸してるな・・・
こいつら、見ていて面白いものは絶対に逃さない性格なんだよ」
ハーメルとフルートが口々に言う中、ミュゼットはのんきに
「こんなにいっぱいキャンプに行く人がいて嬉しい♪」
と喜んでいた。
それを見て、カデンツァは親友たちの気まぐれさも含め、
「ああ・・・先が思いやられる・・・」
とだけ呟き溜め息をつくのだった。
ログハウスは途中までは馬車で行き、徒歩で少し山を登ったあたりの森の中にあった。
「みんな、気をつけてね・・・山の天気は変わりやすいというし、
足場も悪いし、毒虫とかヘビとかもいるかもしれないから」
送迎役のドルチェが馬を乗りこなしながら言う。
ドルチェは彼氏と一緒に来られないという理由で、キャンプに参加しないらしい。
(エリとカデンツァも彼氏持ちだが、彼女たちは彼氏が来なくても参加していたり・・・)
「大丈夫だ」
クラーリィが言うが、ドルチェは溜息をついた。
「・・・クラーリィ隊長、道に迷わないでくださいよ・・・
確か、方向音痴だとお聞きしましたけど・・・
確かに高速移動魔法を使うと想定時間の数倍も時間がかかりますよね、隊長」
「・・・」
きっぱりと言われてクラーリィは反論できない。
後ろでハーメルが爆笑していたが、人のこと言えないでしょとフルートに怒られていた。
山のふもとについて、皆は馬車から降りる。
その時、ドルチェはエリやカデンツァに言った。
「隊長ってアウトドア慣れしてないから、たぶん頼りにならないですよ」
カデンツァは納得して頷く。
「ええ、クラーリィさんって見るからにインテリですからね・・・
戦闘力と生きようとする根性はあるからサバイバルには向くのかもしれないけど、
サバイバルとアウトドアは似てて非なるものだから」
言いたい放題なカデンツァ。
「ミュゼットちゃんにいいとこ見せるどころか頼りないとこ見せちゃって、
呆れられなければいいんだけど・・・」
心配そうに言う、恋愛には少しおせっかいなエリ。
「せやね、クラーリィはんいい人やしサスフォーの元上司やけど、
プライベートでは正直うちはあんま頼りたくないわぁ!
『上司からの一言』って結婚式でスピーチとかやらせたら絶対失敗しそうや!」
アリアもどぎついことを言っている。
「・・・ま、何かあったら水晶で連絡送ってちょうだい・・・
携帯電話と違って、あれは圏外とかないから」
ドルチェは溜息をついた。
それぞれ魔法兵団に色々関係のある人たちなのに、
まったくクラーリィを信用していない辺り、この女性陣はクールである。
というかそれを通り越して怖い。
そして送迎を終えたドルチェがスフォルツェンドに帰っていくのを見送った後、
クラーリィは地図を取り出して言った。
「さて、ログハウスを目指すか・・・えーと、方角はどっちだ?」
クラーリィはきょろきょろする。
すると、サイザーが言った。
「私が空からログハウスを見つけてくる・・・それで方向を定めよう」
「そうですね、サイザーさん・・・案内お願いします」
「頼りにしてるぜ、サイザー!」
以前旅をしていた時と同じように、きっちり偵察の役割を担うサイザー。
「枯れ枝とかあるし足場も悪いから、みんな気をつけてね」
「まーったく、観光業者ももうちょい考えて作れよな・・・」
すっかり旅慣れしている勇者ハーメル一行。
オーボウが喋らないこと以外は変化なしだ。
コルネットは「さすがですわ」と感心し、
ミュゼットも「ほえー」と感嘆の声を上げていた。
エリ達も『ここは専門家に任せよう』という表情になっている。
最初からやや空回り気味なクラーリィは、少しだけブルーになった。
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