ある日、ミュゼットは本を読みながら楽しそうにしていた。
「どうしたんだ、ミュゼット」
すると、ミュゼットの手には観光関係の雑誌。
「自然がいっぱい、高原で休暇、素敵なのです」
ミュゼットが指差したのは、キャンプ場の案内。キャンプ場といってもログハウスなのだが。
近頃は世界が平和になったため、観光産業が急速に発達してきていた。

「自然の多い場所での休暇か・・・確かにここは都会だから
 たまにはそういう場所も息抜きにはいいかもしれんな」
クラーリィが言うと、ミュゼットはぱっと顔を輝かせる。
「連れてってくれるの?」
するとクラーリィは首を横に振る。
「いや、仕事があるからダメだ」
「えー、どうして?有給休暇があるのにー!」
「お前そういうことは覚えが早いんだな・・・」
クラーリィとミュゼットが押し問答していると、コルネットが通りかかって割って入った。
「お兄サマ!ミュウお姉様をいじめちゃいけませんわー!」
「いじめてないぞ!こいつがキャンプに連れてけと無茶を」
「キャンプ?お姉様、キャンプに行きたいのですか?」
「うん」
ミュゼットが持っていた雑誌をコルネットも読む。
そして、コルネットもまた瞳がキラキラになった。
「お兄様!コルも行きたいですわー!」
「クラー、つれてってよー」
「お、お前たち・・・」
「お兄様ー!」
「クラー!」
この二人に同時にお願いされて、クラーリィが断れるだろうか。
その確率は、万に一つも無いに等しい。
「わかった・・・有給休暇を利用して連れてってやる」
クラーリィはとうとう折れた。
向こうで手を取り合って喜ぶミュゼットとコルネット。
そしてクラーリィは、自分たちはアウトドア慣れしてないからきっと大変なことになると予測し、
アウトドア慣れしているハーメルパーティのメンバーを呼ぶことを考えた。
ミュゼットとコルネットも喜ぶだろうし、一石二鳥だと思った。


さて、クラーリィからハーメルたちのところに連絡が入ると、
早速ハーメルが面倒くさそうな表情をした。
「キャンプかぁー・・・また面倒なものを」
そこで、フルートは不思議そうに首を傾げる。
「それにしても、クラーリィさんからキャンプに行こうって言い出すなんて珍しいわね」
「どうせ、ミュゼットかコルネットにせがまれて断れなくなったんだろー。
 本当にアイツはロリコン・シスコンだよなー。以前は女王コンだったし。
 アイツ、いくつコンプレックス持ってるんだよ」
「でもまぁー楽しそうじゃないっ♪せっかくの夏休みなんだし、パァーッと行きましょうよvv」
そう言って、フルートはハーメルの背中を叩いた。
ていうか、自給自足生活の彼らに夏休みは関係ないのだが。
「まぁー、俺たちは一応野宿に慣れてるからなぁ」
すると、フルートは目にキラキラと星マークを映し出すと、両手を組んでハーメルにすり寄った。
「ねぇー、ハーメルぅ〜♪」
「・・・何だよ・・・甘い声なんか出して」
「私、流しソーメンやりたい♪♪♪」
「一人でやってろ」
軽く流すハーメルに、フルートはムゥーッと膨れる。
「アンタ得意でしょ!?ねぇ、私もう一度アレやってみたいわぁ〜vvv」
「あのな!竹がなかったら流しソーメンは出来ないだろっ!!」
「なによーっ!竹のあるところにすればいいじゃないーっ!!
 全く!ああいえばこう言うんだからーっ」
「うるせーなっ!お前流すぞっ」
「なぁーんですってぇぇっ!?」
そんな痴話げんかが繰り広げられるハーメルとフルート。
・・・・一方、クラーリィからキャンプ企画の連絡を受けたライエルとサイザーは・・・。

「?キャンプ?」
「クラーリィさんが『ぜひ参加しろ』ってさ」
「楽しいのか?」
「楽しいよ、きっと!旅をしていた頃みたいな感じで、みんなでワイワイと過ごせるんだ・・・
 場所は高原だってさ、夏を過ごすにも快適だと思うよ」
「そうか・・・」
ライエルの言葉に、サイザーも行く気になったようだ。
「サイザーさんも楽しみですよね?」
「ああ・・・ライエル、夜になったら・・・またあの時みたいに、一緒に星を見ないか?」
「サイザーさん・・・はい、喜んで」
いきなりほのぼのラブラブしている二人であった。

一方トロンのところには、コルネットから連絡が行ったようだった。
一応王様で忙しいはずの彼だが、やはり年相応に息抜きが必要だろうという
騎士団長のじっちゃんの意見もあって、トロンも参加できることになった。
「トロン様も一緒に行けることになって嬉しいでーすわ!」
コルネットは嬉しそうにクラーリィに話す。
複雑なクラーリィだったが、ミュゼットが
「コル、よかったねー!クラに感謝だねっ」
と無邪気に言うため、何も言えなかった模様。


そしてクラーリィはアンティフォナやアダージョに留守中の仕事を必死に頼む一方、
ある人に同行するようにと半ば命令で依頼を出していた。
「はぁ、私は別に構わないですが・・・高原には色々な薬草がありますし」
王宮仕えの女医、カデンツァだった。
ミュゼットと同い年なのだが、彼女は超天才であり既に優秀な医者である。
「そういうことだ、珍しい薬草を手に入れスフォルツェンドの医療を向上させろ」
とクラーリィは言うが、カデンツァは真の目的が読めていた模様。
(・・・アウトドア中にミュゼットちゃんたちが病気や怪我になったら困るから
 私を連れて行くつもりなんだな、この人)
カデンツァはクラーリィのあまりにもの過保護っぷりに、
感心するような呆れるような気持ちで溜息をついた。
完全に見通されているとは知らないで、クラーリィは呑気に
『アウトドアの心得』という本を読んでいた。





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