街は雪の白と、柊の緑と赤に染まる季節。
子供達も親達も、カップルたちも心躍る季節。
そう、クリスマスである。


クラーリィは看護女官ミュゼットや城下の子供達と、教会に出かけるという。
ハーメルとフルートの一家、ライエルとサイザーの一家、などは
家族水入らずのクリスマスを過ごすらしい。
一方で、カデンツァやコンチェルトという一部のメンバーは夫と共に里帰りし、
クリスマスパーティを開くそうだ。
結婚後もスフォルツェンドに残っているレプリーゼが、招待状を配っていた。

ヴァイラも、レプリーゼからその招待状を受け取った。
「お酒も出ますからどうぞ来てください・・・
 ただ、無礼講ではありませんので、あしからず・・・
 オヤジの忘年会じゃありませんからね?ヴァイラさん」
ヴァイラにセクハラされかかった経歴のあるレプリーゼ。
当然のことだが、ヴァイラをギロッと睨んで立ち去る。
それでものけ者にしないあたりが、根はいい子なのだが。
「ほう、酒ねぇ・・・」
ヴァイラは苦笑いを浮かべた。




そして、クリスマス当日。

里帰り中のコンチェルトは、久しぶりにスフォルツェンドの調理場に立った。
ケーキに、ゼリーに、チョコレート・・・次々に完成するクリスマスのお菓子。
「よかったわねぇリートくん」
「・・・たのしみ・・・」
カデンツァとリートはクリスマスツリーの準備をしながら話している。
コンチェルトとカデンツァそれぞれの夫は、嫁の命令で準備を手伝わされていた。
そして騒がしいことは嫌いなノクターンだが、部屋の片隅で本を読んでいる。

「ノクターンさんが人の多い部屋に居るなんて珍しいですね」
パーティに呼ばれたシンフォニーが、横のフォルに耳打ちする。
するとフォルが言う。
「私の情報によると、カデさんがノクターンさんに
 素敵なクリスマスプレゼントを用意しているみたいよ・・・」
「ええっ、旦那さん居るのに・・・いいんですか?」
「その旦那さんもグルなのよ!帰ってくるところを生け捕りにするんだって」
「ああ、プレゼントって・・・それですか」
「そうよ、シンフォニーくん」
シンフォニーは冷や汗が出るのを感じた。

「あ・・・そういえば、ヴァイラさんもパーティに来るらしいですね」
シンフォニーは話題を変える。
「そうなのよ・・・あのオッサン、場の空気を変えちゃわないか不安だわ!
 オッサンというのは酒があるとそれでいい生き物なのよ!
 クリスマスも正月も、暴れ牛祭りの日も、とにかく酒なのよ!」
「フォルさん・・・それは偏見では・・・
 ていうか暴れ牛祭りはもうやってないでしょう・・・」
「あ、そうだ!今朝クリスマスのお菓子があの二人から届いたのよ・・・
 こっそり料理に混ぜて、あの胡散臭いオヤジに食べさせちゃおうっと!」
フォルはぽん、と手を打ち鳴らす。
「え・・・っ」

あの二人から届いたクリスマスのお菓子・・・あの二人とはおそらく、ヴォードヴィル夫妻。
そして、ヴォードヴィル夫妻の妻の方・・・ポプリが作る『妖精さんの料理』は、
かなりライブな味であることをシンフォニーも知っているので、思わず固まる。
ライブな味というよりは・・・文字通り、違う世界の味なのだ。
それでも、大切な家族のような存在からの贈り物だから、フォルは必ず少しは食べる。
それに捨てることは絶対にしたくないからこそ、食べさせるのであるが。

「うふふふ、楽しみだわー!冷凍宅配便で届いたクリスマスカラーのゼリー・・・
 溶かして酒に混ぜるのが一番かしらね?」
しかしこの言い方だとまるでノクターンの薬と並ぶ危険物扱いだ。
「フォルさん・・・死なせない程度に」
「死にかけたらカデさんとノクターンさんが治してくれるでしょ?」
「そ、それもそうですけど・・・」
パーティは無事終わるのだろうか、とシンフォニーは思う。
「さてと、二人から届いたもう一つの贈り物・・・絵本を、ミュゼットさんに渡してこなきゃ!
 街の子供達に読んでもらえることが、あの二人にとって一番幸せだろうから」
「ああ、フォルさん・・・今言ったことと前に言ったことの内容に
 ギャップがありすぎですよぅ・・・」
苦労人シンフォニーは、今日も深い溜息をついた。



パーティの中頃に、ヴァイラがやってきた。
「よ、お嬢さん方」
「あらヴァイラさん、いらっしゃい・・・料理とっておいてますよ」
コンチェルトは苦笑いを浮かべる。
そこに、フォルが割って入る。
「ちょっと、時間守って来れないのー?全くやんなっちゃうわね!これだから・・・」
と、フォルは抗議する。
ヴァイラはまだ文句を言おうとするフォルの頭を押さえ、答える。
「ああ、悪ぃ悪い・・・手紙が届いてな、それを読んでいたんだ」
「手紙?クリスマスカードか何か?」
「そういうこった」
フォルの頭をぽんぽんと宥めるように叩くヴァイラ。
「何よー本当にライブな味の酒のませるわよ!」
むくれるフォル。
すると、そのやり取りを聞いたスケルツォがこちらにやってきた。
「・・・ふーん、成程・・・そういうことなんだ」
そう言って、意味ありげに微笑むスケルツォ。
「何だ一体・・・」
「??」
ヴァイラは訝しげな顔をし、フォルは首を傾げた。



それからスケルツォと共に酒を飲んでいたヴァイラだったが、いつもより酒が進まない。
酒にライブな味のゼリーを混ぜてやる、と言っていたフォルも
意外な展開に戸惑いを見せているようだ。

そして、その様子を察したスケルツォは、指摘する。
「やっぱり、あまり飲む気になれないようだね」
「・・・やっぱり、って何だ」
「何となく察しはついているよ・・・遅れてきた理由の、手紙のことはね」
「・・・」
ヴァイラは黙ってしまった。
スケルツォは続けて、問いかける。
「手紙の差出人のことが気がかりなんだろう?」
するとヴァイラは、手にしていた酒の小さなグラスの中身をぐいっと飲み干して。
「・・・らしくもなくそんなこと考えてやがる」
と、自嘲するように言った。
それを聞いたスケルツォは、さらりと返す。
「いいじゃないか・・・今日はクリスマスイブなんだから」
「・・・そういうもんかね」
ヴァイラは、グラスを机に置いた。
スケルツォはいつものように、笑顔だった。



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