そこに。
「はーい真打登場ー!」
突然ドアが開き、テンションの高い細身の赤毛の女性が現れた。
エリ・アルペジオーネだ。

「思ったより早かったわね、エリ」
カデンツァが言う。
「今日は私はサンタクロース役なのです」
エリはVサインを突き出した。
「実はこれ、フルート王女からのプレゼントなんですよ」
カデンツァが事情を説明する。
自分達が帰れば大騒ぎになってしまうので、エリがスタカット村から届けに来たのだ。
『王族とはいえ国を出ているからあまり豪華なものは用意できないけど・・・
 皆さんにメリークリスマス!』
と書かれた手紙から、フルートの表情がすぐに浮かんでくる。
「じゃあ今からプレゼントを渡しますー!」
エリが言い、プレゼントを配り始めた。

「よ、相変わらず細いなぁ」
自分のところにやってきたエリに、ヴァイラが話しかける。
「痩せてて羨ましいって言う子もいますけど、冬は寒いですよ」
エリは笑いながら、ヴァイラにプレゼントを渡した。
「割れ物注意?」
「スタカット村名産の、体を温める薬草のお酒です・・・
 寒い時期ですし体調管理には気をつけてくださいね、とのことです」
「はぁ・・・」
そりゃありがたいね、とヴァイラは呟く。
「ヴァイラさんは独り身なんですから、自分でしっかり体調管理してくださいね」
エリは笑った。
「・・・」
ヴァイラは、何やら箱を見つめたまま黙ってしまう。
あれ、もしかして気にしてたかしら、とエリが顔をのぞきこむ。

そこに。
「・・・」
ひょこっ、とリートが現れた。
「あらリートくん、どうしたの?」
「これ・・・」
リートは、エリに何かを渡した。
「わー綺麗、星の形・・・」
エリはそれを掲げてみる。
「飴か?」
ヴァイラが尋ねると、コクン、とリートは頷く。
リートへのプレゼントは、キャンディの沢山入ったポット。
おすそわけに来てくれたのだ。
「ありがとうリートくん〜」
10歳を過ぎても昔のようにピュアであどけないリートに、癒されるーと思うエリ。
「おじさんも・・・」
リートはヴァイラにもキャンディを差し出す。
「おじさんじゃないっつの・・・ま、ありがとうな」
ヴァイラは苦笑いし、指先で貰った軽く飴をつまむと、
それを皿・・・いや、皿の上の飾りもついていない一切れのケーキの上に乗せる。


「あら、可愛いケーキになりましたね」
ほとんどなくなった料理を片付けていたコンチェルトが話しかけると、
「コンチェルト嬢、ラッピングあるか?このケーキ包んでくれ、土産用に」
ヴァイラは慌てた様子でコンチェルトに尋ねた。
「お土産ですか?勿論いいですけど・・・あげたい人でもいるんですか?」
コンチェルトは微笑む。
ヴァイラは小さく頷いた。
一方で。
「・・・力を貸してあげてくれるかな」
スケルツォがエリに、話しかけていた。
「え?別に私にできることならやりますけど・・・」
「だったら・・・」
スケルツォは、エリに何かを耳打ちした。




それから暫くして。
エリはワープ魔法を使って、とある街にやってきていた。
モレンド海峡の、小さな港町に・・・ヴァイラと共に。
「別にこんな演出はいらないんじゃないのか?」
「いいじゃないですか、スケルツォさんの提案なんですよ・・・
 やっぱり女の子は、そういうのが嬉しいものですから」
エリは魔法の杖を振りかざす。
まるで魔女がホウキで飛ぶように、杖に乗って浮き上がった。
サンタは空からやってくるものだ、とエリは笑う。
「なんでわかるんだ・・・やっぱり只者じゃなかったか」
小さな声でヴァイラが呟く。

ヴァイラがこのケーキを届けに来た相手は、前に述べた手紙の主・・・
この港町の宿屋の看板娘、スピネ。
今日、クリスマスプレゼントと一緒に、手紙をくれたのだ。

『お元気ですか?こちらはクリスマス休暇に小旅行を楽しむ家族たちで
 宿は大繁盛しております。私の仕事がほんの少しでも
 お客様たちのクリスマスを楽しくできるならそれはとても嬉しいことです。
 忙しい中にも、クリスマスを楽しむ気持ちを忘れないように
 心にゆとりを持ちたいと思っています。
 追伸
 クリスマスプレゼントです。風邪を引かないよう、どうぞ使ってください』

プレゼントとしてくれたマフラーも、嬉しかったけれど。
スピネの手紙は、ヴァイラの心に残った。
まだ二十歳の若い娘、遊びたい年頃であるはずなのに、
自分の休暇も捨てて皆のために頑張っているのだろう・・・と。
そう思うと、パーティで酒を沢山飲む気にもならなかったのだけれど。
・・・彼女が、皆のクリスマスを楽しくしようと頑張っているなら。
彼女のクリスマスは、自分が楽しくしてあげればいい。



エリが宿屋の入り口のベルを鳴らす。
そしてドアを開き、応対に出てきたスピネに、にっこりと笑った。
「すみません、生憎満室でして・・・」
「あなたがスピネさん?綺麗な人ね・・・
 クリスマスプレゼントが、届いていますよ」
「え?」
何が何だかわかっていないスピネの前に、エリがヴァイラを引っ張ってくる。

「よ・・・久しぶりだな」
「ヴァイラさん・・・」
ますますスピネは驚く。

「じゃ、メリークリスマス」
エリはそう言うと、魔法でふわりと夜空に浮き上がり、ワープ魔法で消えた。
宿の中に居た客たちが、おおー、と驚きの声を上げる。
お姉さんのサンタさんだ!と子供が叫んだ。

「・・・あの方はスフォルツェンドの?」
「ああ・・・俺の友人の入れ知恵でわざわざ動いてくれたお嬢さんだよ」
「そうなんですか・・・サンタ役なんですね・・・」
スピネは、ふわりと微笑んだ。

「あ、マフラー・・・早速使ってくださってるんですね」
「ああ、忙しい中わざわざありがとうな」
「いえ、マフラーは一番簡単な編み物ですから」
照れ隠しなのか本質なのか、どこかクールな口調も、いつものスピネだ。
手紙で相変わらずと書いていたのは本当だな、とヴァイラは思う。
何だかほっとしたような、そんな気持ちがするのを感じていた。

「まあ、ケーキ持ってきたから、食え・・・
 スフォルツェンドで一番菓子作りがうまい人が作ったやつだから
 味はかなり期待していいぞ」
ヴァイラは、ケーキの小さな箱を差し出す。
「ありがとうございます・・・」
スピネは箱を受け取る。
客たちは皆部屋へと戻っていたので、机の上で開けてみた。


ケーキの上には、星の形のキャンディがひとつ、宝石のように光っていた。
まるでクリスマスツリーの一番上で光る、星のように。