今日は1月1日、お正月。
世界観を無視してようがなんだろうが、一応この世界でもお正月はある。
(まあ、元々そういう漫画じゃしの〜:オーボウさん談)
「スフォルツェンド城に来るのも久々だな〜」
そう言って三脚や小道具を手に持って城門の前に立つ30代前半の男。
彼の名はシンフォニー・トリアーデ。
昔はスフォルツェンドの大手新聞社でカメラマンとして働いていた青年である。
その昔は相方の記者とともに、スフォルツェンド王家に密着していて
王家の人間の取材を試みて王宮に住んでいる人々、
特にパーカスやクラーリィからやっかまれる存在だったが、
今はもう退職してスフォルツェンドの郊外で小さな写真屋を営んでいる。
記者をやめてこの現場を暫く離れていた彼だが、
今回久々に何故かスフォルツェンド側から要請がきて、今ここにいる状態である。
まあその要請というのも非常に個人的な要請であったのだが…
一応城門から裏手にある大臣や神官たちが寝泊りをしている官舎に足を運んだ。
「クラーリィさん、僕です。シンフォニーです。」
そう言ってドアを叩くとがちゃりと大きな音が立てられ、
シンフォニーの目の前に二人の小さな女の子がドアを開いた姿があった。
ピンクの淡い髪が特徴の彼女達はここに住むクラーリィとミュゼットの娘
双子のリズムとメロディである。
「わぁ!カメラマンさんだ〜」
「おっきいカメラ〜vv」
挨拶もなしに、無邪気な笑顔でそう言う同じ顔の姉妹は
早速シンフォニーの持っていたカメラ関係の重装備品を面白そうに触っていた。
そんな無邪気な子供たちの姿を見て、シンフォニーは思わず笑みをこぼしながら
小さな二人にカメラが届くように背をかがめる。
が、しかしそれがまずかった。
「これでメロディのこと撮ってあげるね〜」
「うわーい!!」
そういって姉のリズムはいきなりシンフォニーの首にかかっている
カメラを勢い良く引っ張った。
小さな子供の力と言えどもあなどれない。
シンフォニーの顔はカメラについてる紐で首をしめられて、
危うく口から泡を吹き出しそうな状態になっていた。
そんな様子を知っているのか知らないのか、リズメロコンビは
彼そっちのけでカメラに夢中だった。
「これどうやって撮るのかな〜」
そういってピントを合わすレンズを勢いよくまわし始めるリズム。
「レンズがとれそうだよ、リズム〜
あっ、でもとれるんだったら外しちゃえばいいか!」
と力をこめてレンズを外そうとするメロディ。
「うぐぅぅぅ〜うっっ!!!」
(そっそれは僕が昨日一晩かけて磨いたレンズ〜!!
お願いだから傷つけないでー!!)
首をしめられている状況にあってもシンフォニーの必死の叫びも虚しく、
何も知らない無邪気な子供たちはカメラをいじ繰り回そうとしていた。
シンフォニーがプロレスの業をかけられた選手の如くギブギブとネッド家の
玄関の床を叩いていたそのときである。
「コラ!やめないか、お前達!!」
そう言ってやってきたのはこの一家の主であり、
この国の大神官であるクラーリィ・ネッドである。
彼はそう言うと、リズムとメロディを抱き上げてシンフォニーは事なきをえた。
その瞬間、シンフォニーにとって彼は救世主のような存在に感じられた。
「全く、お前達は…目を離すとすぐにいたずらばっかり…」
「だって、リズムがカメラマンさんのカメラが面白そうだからって…」
「だって、メロディがカメラマンさんのカメラで撮りたいって…」
お互いにお互いのせいにするのがこのくらいの年の子の特徴である。
特に彼女達は双子であるから言い訳も似たように聞こえるのである。
「一歩間違えたら、カノンたんのビューティフルな
晴れ着姿が撮れなくなるところだったんだぞ…
カノンたんも首を長くして待っているというのに!」
このとき、シンフォニーは自分の命の危険より娘の晴れ着姿の
撮影の方が優先されているのかと息を荒げながら一人悲しい涙を流していた。
「「はぁ〜い」」
リズムとメロディは少ししょげていたが
父親のクラーリィに言われ別の部屋へと帰っていった。
嵐はさったと思いながら、シンフォニーはほっと胸をおろした。
「とりあえず、良くきてくれたな。シンフォニー」
「はっはい…では、一応用件の方の確認を…
今日は出張撮影でカノンちゃんの晴れ着姿の撮影…ですよね。」
そう言って用件のメモを眺めるシンフォニーにクラーリィはずいっと顔を近づける。
「そうだ!今日はカノンたんのベリーベリービューティホーな晴れ着姿を
カメラマンとしては一応それなりの腕があるお前に撮って欲しかったのだ…
いいか!もし手違いでカノンたんのメモリアル写真に、ごみ一つでもつくような
ことがあるんだったら分かってるんだろうな〜!!」
そういうクラーリィの顔は怒髪天の如し、
手には世界最強の法力で魔法を作っていた。
世界最強の法力使いの本気の魔法を食らったらごくごく普通の一般人である
シンフォニーは一気に消し炭確定である。
「はっはい!!分かりました、分かりましたから
その魔法を僕にぶつけないで〜!!!」
そんな魔法を見せ付けられシンフォニーは腰をガタガタさせながら脅えていた。
「分かってるならいい…ならカノンたんがいる部屋に案内しよう」
そう言ってクラーリィはシンフォニーを部屋へと案内した。
シンフォニーはこれから先のことを考えるとこの家のことだから
何が起こるかわからない…と思いつつ、荷物を持ってクラーリィについていった。
「ミュゼット、入るぞ」
クラーリィがドアをノックする。
「どうぞー」
ふわっとした優しい声が返ってきた。
クラーリィがドアを開ける。
そこには、洋室にはやや不釣合いだが、
晴れ着姿のカノンが恥ずかしそうに立っていた。
いつも三つ編みの髪の毛は綺麗に和風に結い上げられている。
「パパ・・・いえ、お父様・・・どうですか?」
「ああぁ〜カノンたん!綺麗、綺麗だぞぉ〜!」
クラーリィは案の定大感激で、カノンに抱きつこうとする。
「クラーリィさん、ダメですよ!せっかく綺麗に着付けたんですから」
着付けを手伝っていたフォルが、呆れたように言った。
「まったくしょうがない人ね・・・
今度迷惑をかけたらクロラゼプ酸二カリウムですよ」
ミュゼットがそう言って、にっこり笑う。
クラーリィは途端に青ざめて、おとなしくなった。
(相変わらずすごいなぁ・・・)
シンフォニーは昔は理想の母親像ミュゼットに
憧れの気持ちを抱いていたのだが、
最近はもう恐妻ミュゼットに慣れたようだった。
そこに、突然ワープ魔法の魔法陣が現れた。
「あけましておめでとうございます、クラーリィさん!」
「クラビ王子!」
ハーメルとフルートの長男、クラビが現れた。
「おめでとう、クラビくん」
里帰りが不定期なハーメル・フルート一家だが、
クラビはよく魔法を習いにスフォルツェンドへとやってくる。
「ミュゼット先生ー、あけましておめでとうございます!」
クラビの横から顔を出したのは、アンセム在住の少女・ヴィオリーネ。
ミュゼットからバレエを習っている可愛い生徒である。
「「ヴィオリーネお姉ちゃまー!」」
リズムとメロディがヴィオリーネに駆け寄った。
「先生、頼まれたものを持ってきました!」
ヴィオリーネは綺麗な桃色の花の髪留めを差し出した。
「ありがとう、ヴィオリーネちゃん」
ミュゼットは髪留めを受け取り、カノンの髪に飾ってやった。
ちなみに何故ヴィオリーネがそんなものを持っているのかというと、
『踊りなら何でも覚えよう!』をモットーにしている彼女は、
わざわざ西国陵王国まで行き日舞を習っていた・・・かららしい。
「わー、カノンさん可愛いー!!
あ、リコーダーがカノンさんの晴れ着姿を見たいって言ってましたよ!
今日は新年会の準備でこっちには来られなかったんですが」
ヴィオリーネが言う。
「リコーダーちゃんが?・・・じゃあ、写真を送ってあげようかしら」
「それよりもワープ魔法で遊びに来ませんか?新年会は村の人みんな来ますし、
人が多いほうが楽しいですよ」
クラビが言う。
「あら本当?」
「スタカット村は今の季節雪が積もってるから、雪遊びもできますし」
「ほんとー!?」
「わー、メロディ、雪うさぎ作りたいー!」
リズムとメロディが嬉しそうに言う。
「・・・じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます、王子」
クラーリィが言った。
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