初恋の甘酸っぱい思い出を語る人もいれば、
中には初恋を実らせる者もいる。
そして今日・・・スタカット村にて、その話題が出た。
「パパの初恋は、幼稚園の時に優しくしてくれた女の子なんだってさ!
ライエル叔父さんが教えてくれたの!
でもわざと酷いことして遠ざけて、引っ越してそれっきりなんだって」
語るのは、リコーダー。
身近な恋愛沙汰に興味を示すのは、やはり年頃の女の子だ。
「へー、ハーメルそういうのあったんだー」
フルートはクスクス笑う。
「ママ、妬いちゃう?」
「昔の話でしょ?別に・・・」
「パパー、残念だったねー」
「何でオレに振るんだ!」
相変らずの娘に、ハーメルは溜息をついた。
「あー、昔からあーいうタイプ好きだったのね・・・わかりやすい・・・
そりゃ、人の好みはそう簡単に変わるものじゃないわよね」
そう呟いたのは、以前は隣に住んでいたエリ。
それを聞いて、フルートは頬を赤らめた。
エリには何か言っても言い返されるだけなので、ハーメルはむくれている。
「ママはどうなの?」
次に娘の興味の対象は、母へ。
しかしフルートは首を傾げる。
「私?うーん・・・覚えてないわー」
「パパなの?」
リコーダーが尋ねると、ハーメルがびくっと反応した。
「それも、覚えてない・・・昔から村に居た男の子といえば・・・
・・・ディオンさんとか?うーん・・・」
フルートは考える。
それにハーメルはいちいち反応する。
ここにディオンが居たら(今も隣の家に居るが)、
ハーメルに殴られていただろう・・・と、エリは苦笑した。
「エリ姉さんがお姉さん役だったから、ディオンさんはお兄さん役かな?
どちらかというとそんな感じだったから、初恋ではないかも」
「じゃあやっぱりパパなの?」
「さあ、どうかしらね」
うまくさらりと誤魔化すフルート。
父と違って娘の扱いはうまいようだった。
数分後。
「エリさんは初恋は今の旦那さんなんですねー!」
話題はエリへと及んでいた。
「まあ・・・遠くには住んでるけど、小さい頃から知ってたし」
「素敵ですねー!」
うきゃー、と叫ぶのはリコーダー。
「小さい頃から、というのはあなたも同じでしょう?リコーダーちゃん」
エリがクスクス笑った。
リコーダーは自分でもヴァルヴと公認カップルだということは自覚しているので
照れて言い返すことは別にない。
しかし、
「こいつは恋愛経験の少ないお子ちゃまだからな」
と余計なことを言うのが、父ハーメル。
「なんですってぇー!!パパだって人のこと言えた義理じゃないでしょーが!」
案の定リコーダーがつっかかる。
「まあ、あの婿ならオレも扱いやすくていいけどな!」
「うるさいっ!舅は黙ってろ!」
父と娘の派手なケンカが始まる。
30歳を迎えるまでは嫁と大喧嘩していたハーメルだが、
最近はケンカする相手は専ら長女のリコーダーとなっていた。
・・・そして向かいの家では、ベタにヴァルヴがくしゃみをしていたりする。
翌日。
大人たちの初恋の話を色々と聞いたリコーダーは、ヴァルヴにそのことを話した。
「アリアさんとサスフォーさんはお互い初恋同士なのかな?」
「さー、小さい頃会ったっていうけど覚えてなかったらしいし、わかんないな」
ぱたぱたと羽をはためかせて、甘える猫のようにヴァルヴの横に座るリコーダー。
「そうだといいよね!だって、何か素敵だもの」
「・・・」
その無邪気な表情に、ヴァルヴは『いつもこうなら可愛いのに』と溜息をつく。
「そういえば他のみんなは、初恋ってどうなのかなぁ」
「さーな・・・クラビは何となくわかるけど」
ヴァルヴはパーティの仲間でもあるアンセムの少女を思い浮かべる。
それはリコーダーも同じだったようだ。
「うん、お兄ちゃんはわかる・・・他はどうかしらねー」
「他って・・・オカリナちゃんたちは初恋も何もまだ小さいし」
ハーメルに比べ女心がわかるヴァルヴだが、リコーダーほど興味はなさそうだ。
これが男の子と女の子の違いなのかもしれない。
「そういえばポリフォニーちゃんはどうなんだろう?」
ふと、リコーダーが言った。
「ポリフォニーちゃんって確か・・・彼氏、いたよな」
ヴァルヴが返す。
遠国に住んでいるというので二人は写真でしか見たことがないのだが、
母アダージョの友達の息子だという、美形の彼氏が居るという。
それはポリフォニーが旅に加わっているときは遠距離恋愛になるということだが、
本人達は別にそれで構わないようだ。
「彼氏がいるけど初恋とは限らないでしょ?
だってほら、テュービュラーだって今スフォルツェンドの人といい仲みたいだけど
初恋はあのペルンゼンゲルなんだろうし・・・」
リコーダーは続ける。
「ポリフォニーちゃんってクールでミステリアス系だからな・・・
初恋の話か・・・意外な面の発見になるかもな」
ヴァルヴも恋愛沙汰とは別の意味で気になってきたようだ。
「今スフォルツェンドに丁度来てるらしいし、聞いてみようか!?」
リコーダーの提案に、ヴァルヴは頷いた。
そして、スフォルツェンドにて。
「え、私の初恋の人ですか?」
「うん、教えて教えてー!今の彼氏なの?」
いきなりの話に驚くポリフォニーだが、リコーダーのキラキラした瞳には勝てず
(リコーダーの方が年上のはずなのにその威厳はまったく無い)
ぽつぽつと話し始めた。
「うーん・・・そうですねぇ・・・
今の彼とは、ヴァルヴさんとリコーダーさんのように昔から仲良しでしたが」
「そうなの!?わあー、素敵」
リコーダーはきゃーきゃー騒ぐ。
しかしヴァルヴは聞き逃していなかった。
「『でしたが』って・・・何かあるの?」
するとポリフォニーは頷く。
「最初から恋愛対象として見てたわけではなかったので・・・
どちらかというと、年上の優しいお兄さんとかに憧れてましたね」
そして、懐かしそうに笑った。
「きゃー、その気持ちわかるわ」
リコーダーがポリフォニーの手をとる。
「わかるってどういうことだよ!」
ヴァルヴが慌ててツッコミを入れ、ポリフォニーは苦笑した。
すると、その時。
スフォルツェンド城の調理場から、一人の男性がお菓子を手にして出てきた。
緑の髪に、紫と赤の瞳。背は高いがあどけなさを残した顔。
・・・リートだ。
リートがリコーダーたちを見つけ、小さく「こんにちは」と言う。
するとポリフォニーが呟く。
「私の初恋の人・・・もしかしたらリートさんだったかも」
「えええー!?本当、ポリフォニーちゃん!?」
リコーダーが叫ぶ。
「ほら、リートさんは母上のところによく来てたから・・・」
「わー、わー、本当ですかリートさんっ!」
リコーダーは何故かリートの方に駆け寄り、飛びついた。
ヴァルヴが止めようとしたが聞きもしない。
「?」
リートは何を話しているかはよくわからず、
ただリコーダーが飛びついてきたので足を止めるのだった。
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