「ハーメルさんって、ツンデレですよねぇ」

食堂にて、レプリーゼが呟いた。



ここは平和なスフォルツェンド(いつもどおり)。
今日はフルートが非公式の里帰りをしており、ハーメルもついてきている。

「はあ?誰がツンデレだよ、誰が」
「ハーメルさんですよ・・・ツンデレがいかにも言いそうな台詞を言うから
 その典型に当てはまってるんじゃないかなと私は思うわけです」
レプリーゼが言う。
「確かに、台詞の傾向から判断すると・・・ツンデレね」
コンチェルトが笑った。
「うっせー!お前ら人を勝手に分析すなー!」
ハーメルが叫ぶ。
「いいじゃないですか、キャラがはっきりしてるほうが」
コンチェルトがフォローになってないフォローを言った。

「まあまあハーメル、あくまで『型にはめて考えると』なわけでしょ」
横からフルートがなだめる。
「型にはめる・・・ってどういう型だよ」
ハーメルが不満そうに呟く。
するとソルフェージュが、
「えーと世間的に言われるのだと、『勘違いするなよ!』とか『馬鹿野郎!』とか
 『あっち行け!』とかそんな台詞をよく吐く?」
と答える。手にメモがあるが、新聞か何かの切り抜きのようだ。
どこから情報を仕入れたのだろうか。
そしてハーメルはギクッ、となった。
横ではオーボウがコクコクと頷いている。
「こら鳥ぃ!何頷いてやがんだー!!」
ハーメルが怒ってつっかかったが、それが何よりもの肯定だ。

「一番はあれです、『オレがこんな奴好きなわけねーだろ!』と赤面しながら」
「あー、言いそう言いそう!」
きゃっきゃっとスフォルツェンドガールズは面白がっている。
「そうか、あれが・・・」
フルートが呟く。とりあえず覚えはあるようだ。
ハーメルは真っ赤になり、黙り込んでしまった。



そこに。
「こらーお前らー!!」
クラーリィの怒鳴り声が聞こえ、一組の男女が食堂に駆け込んできた。
「わあっ!!」
驚きの声を上げたのは食堂の中にいたメンバーではなく・・・入ってきた方。
そりゃそうだ、中にフルート王女が居たのだから。
「あら、あなたたち・・・」
「ふ、フルート王女〜!?ど、どうして・・・」
「そうか・・・だからアポ取った正式な取材なのにダメって言われたんだ・・・」
二人は言う。
新聞記者のフォルと、カメラマンのシンフォニーであった。

「そういえば今日は取材日だったわね・・・
 『お母さん必見!家庭で簡単に作れるプロのお菓子レシピ』の」
コンチェルトが言う。
「そ、それじゃ私が勝手にお忍びで遊びに来たせいでもう少しで、
 この二人はお仕事を一方的にダメにされるところだったの?」
フルートがすまなそうに言う。
「姫さまはお気になさらないでください・・・
 私から『約束を破るのはよくない』とクラーリィさんに言っておきます」
コンチェルトが返す。
「わ、私もクラーリィさんに説得する!先の約束を優先すべきだわ」
フルートも言った。
「フルート王女が私たちを庇ってくださったわ!」
「か、感激です〜」
二人は感動していた。



そして、クラーリィに説得(半ば脅しもあったが)を行い、ひとまず落ち着いた。
「フォルちゃんたちのところの新聞の、この記事とても面白かったわ・・・
 『お父さん必見!最近世間で流行っている単語の説明』っていうの!
 特にツンデレの具体例の説明が、面白かったわ・・・」
ソルフェージュが先ほど手に持っていたメモを見せる。
「わあ、切り抜き持ってくださってるんですか!?最近のおっさんたちは
 新造の単語とかわからなくて絶対流行についていけてないなと思って、
 具体例つけてみたんですよ!」
フォルが嬉しそうに言う。
「よかったですねフォルさん」
シンフォニーが返した。

すると。
「そうか、てめーらが書いたのかあの記事・・・おかげでオレは随分と
 このねーちゃん達に弄られておちょくられたぞ・・・」
ゴゴゴ・・・という効果音で、ハーメルがフォルとシンフォニーを睨んだ。
「勇者ハーメルさん?」
フォルが首を傾げる。
「ふぉ、フォルさん!なんかまずいような気が・・・」
危機に遭遇することが多いシンフォニーは敏感なのか、慌てて言った。
「このガキどもー!!よくもオレ様を貶める記事を書いてくれたなぁ!」
ハーメルが怒鳴る。
「わー!シンフォニーくんヘルプ!カメラマンは身体を張るものよ!」
さっとフォルはシンフォニーを盾にした。
「わーフォルさんそれはないですよー!てか何ですか貶めるって!!」
「やかましー!」
ハーメルがバイオリンミサイルを構えた。
「うわあああああああっ!」
シンフォニーが叫ぶ。

その時。

「てんばつの十字架ぁ!!!」

叫び声が響き、ハーメルの頭にどでかい十字架がクリーンヒットした。
「ふ、フルート王女・・・」
「もう、何考えてるのハーメル!ゴシップ記事書かれたわけじゃあるまいし、
 そんな言いがかりつけるなんて可哀想じゃないの!!私許さないわよ!」
フルートはハーメルに怒鳴る。
「・・・」
「シンフォニーくん、大丈夫?」
フルートは心配そうな顔で、優しくシンフォニーの頭を撫でる。
ああ、さすが『慈母の血筋』だな・・・と、シンフォニーは思った。

すると、ハーメルがむくっと起き上がって、シンフォニーの肩を掴む。
「ったくお前のせいでこんな目に遭っちまったじゃねーか!!
 どうしてくれんだこのガキー!!」
「えっあっ、あのっ」
しかしハーメルの表情は先程のように怖いものではなかった。
「・・・妬いてるわね」
「ええ、わかりやすく」
「どっちがガキだか・・・」
ソルフェージュとコンチェルトとレプリーゼが、呟いた。



しばらくして。
シンフォニーはどうにかハーメルから逃れ、やれやれとお茶を口にした。
すると横に座っていたフォルが言う。
「私としてはもうちょっとシンフォニーくんがやられてくれても
 面白かったと思うけどなー」
「なっ!フォルさん自分だけさっさと逃げた上にそんな、ひどいですよー!」
シンフォニーは抗議する。
「だってハーメルさんにフルート王女に関することでやきもち焼かれるなんて
 普通の人じゃ滅多にできない体験なのよ!面白いじゃない!」
力説するフォル。
「そんな、僕の人権は無視ですかー!?」
「カメラマンは身体を張る物なのよ!」

わーわーと騒ぐ二人を、微笑ましそうに見つめるレプリーゼたち。
彼女らにとっては可愛い弟妹のような存在なのだ。
「何だあいつら・・・てか、コンチェルトを取材するんじゃなかったのかよ」
ハーメルは不満そうに呟く。
そして、フルートは・・・何やら考えていた。



(ハーメルは私を『好きなわけないだろー!』と言ってマリオネットしたけど、
 あれがツンデレってこと?てことはいじめるのはツンデレ?
 え・・・ということは・・・)

フルートは立ち上がると、フォルに歩み寄る。
そして、手を取った。

「その態度に隠れたあなたの本音、なんとなくわかったわ!」
「?」
フォルは首を傾げる。

フルートは何を勘違いしたか、『フォルがシンフォニーを乱暴に扱っている』のを
『ハーメルが自分に対して色々といじめてきたのと同じ』と
超前向きな理由だと解釈してしまったのであった。
フォルもシンフォニーも年齢に比べ子供っぽく、まだそういう感情はないのに。


「頑張ってねフォルちゃん、私応援するわ!」
「・・・???」
フォルの頭の上に、いくつものクエスチョンマークが飛び交っていた。