「シンフォニー、お前道具を家に忘れていっていたぞ。
ミュゼットが気がついたから良かったものを…
っておい!どうした!?」
先ほど家に来た時とは様子が一変しているシンフォニーの姿に
クラーリィも思わずビックリした表情になる。
そんな彼の姿を見つけたフォルは「丁度いいところに!」と
クラーリィを強引に家に招きいれて、
「クラーリィさん、アンセムまで連れてってくれませんか!」
「はあっ?」
「勿論、私がアンセムまでナビゲートしますんで!さあ、早く!!」
そう言うとフォルはクラーリィの後ろにシンフォニーを括りつけ、
自身はマトラカをこのまま置いてはいけないので
彼を抱っこする形になって、ワープ魔法をクラーリィに促した。
クラーリィもシンフォニーの様子とフォルの気迫に圧倒されて、
よくわからないままワープ魔法を発動させて
一路アンセムへと向かうことになった。
アンセムへと到着したトリアーデ家一行はとりあえず、
昔からお世話になっているヴォードヴィル夫妻に挨拶する間もなく
村の外れにある教会へと足を運んだ。
というのもここにはクレフから話を聞いていた『神官』がいるという話なのだ。
名前はリーガル・インタリュードといい、二十歳という若さだというのに
スフォルツェンド賢者学校を優秀な成績で卒業した者である。
それならば勿論「呪いの解除」のやり方も心得ているだろうとフォルは思ったのだ。
クラーリィを引き連れて、急いで教会で祈りを捧げているリーガルの所へ赴き、
一連の事件を話した。
(ちなみにクラーリィは久々に無理にワープ魔法を使わされたりしたり、
シンフォニーをおぶっていたせいで息を切らして倒れそうになっていた)
「成る程…その首飾りの呪いで病気にうなされていると…」
シンフォニーの首にかかっている首飾りを手にとって、
リーガルは冷静な表情を崩さずにそれが発する呪力を調べていた。
「おにいちゃん、おとうさん大丈夫かな…治るかな…?」
父親の苦しそうな表情を見て、マトラカの不安は更に大きくなっていた。
それに対し、リーガルは彼の頭をポンと叩き、
優しい笑みを口元にふっと浮かべていた。
「大丈夫だ…これくらいなら…俺にも何とかなる」
そう言うとともにリーガルは錫丈を手にとり、それを天に突きつけるように振るう。
そして高度な呪文を繰り返し唱え、
最後には錫丈を例の首飾りがかかっているシンフォニーの首へとつきたてた。
その瞬間、眩い光が錫丈から発せられて、
首飾りがシンフォニーの首からガシャリと音を立てて外れて、
物凄い勢いで飛んでいった。
それに伴って、それまで苦しそうであったシンフォニーの表情も
柔らかいものへと変わっていった。
「おとうさん!!」
マトラカが思わず、父親の下へ駆け寄っていく。
シンフォニーもよろめきながらも、
息子を無事にキャッチして笑顔で元気になったと報告した。
「全く…幾つになっても世話焼かすんだから、あんたは…」
苦笑いしながらフォルが彼の肩をぽんと叩いた。
それでも心の奥底では息子以上に心配していたのだろう。
それは伊達に何十年も連れ添った仲であるからこそである。
「ごめんよ、フォル…」
昔だったら迷惑をかけるのは彼女の方であったのに、
今回は何故か逆転していたことにシンフォニーはくすりと笑ってしまった。
「アレはたぶん、魔族かなんかが魔力を注入して作った代物だな…
俺の法力を込めて吹き飛ばしたからとりあえずは大丈夫だろう。」
リーガルもほっとした表情で、起き上がったシンフォニーを見ていた。
「あっでも『とりあえず』はってどういうこと?」
彼の言葉にすかさずフォルが反応する。
「完全に倒したわけではないということだ。
まあ、次の憑依主を見つけにどこかへ逃げたのだろうな…」
「でも、もうおとうさんにはつかないんだよね、アレ!!」
マトラカが元気な表情になってリーガルに尋ねる。
「ああ、もうお前のお父さんに憑依することはないだろう…」
「うわーい!!よかったね、おとうさん!!」
「うん…」
どうやらあの首飾りは取れるまでは地獄の苦しみを味わうことになってしまったが、
取れれば取れたでその苦しみごと今までの疲れが取れてしまったらしい。
スケルツォの言っていたことはあながち間違いではなかったのだということを知った。
「っていうか私達まだご飯食べて無かったわよね…」
「そうだねー…」
「僕もおなかぺこぺこだよ」
めまぐるしい事件から漸く解放された一家3人は一斉に腹の虫を鳴らしていた。
どたばたのせいでお昼もまともに食べていなかったのだ。
とりあえず家に帰ろうという話に落ち着いて、
ヴォードヴィル夫妻に軽く挨拶を交わした後3人はスフォルツェンドに戻っていった。
勿論、まだ何も知らないクラーリィのワープ魔法でである。
「結局俺は何しにここまで来たのだ?」
「いいじゃないですかー!最近魔族も来てなくて体鈍ってたんでしょ?
いい運動不足解消ってことで…」
というわけでめでたしめでたし…のはずだったのだがもう少しだけ。
一方スフォルツェンド城では―
「はぁー運動した後のご飯って何てこんなに美味しいのかしら!」
「同感です、ヴィオリーネさん!」
お昼のスパゲティを食べながら城のテラスの前で
談笑をしているのはクラビとヴィオリーネ、
そして最近スフォルツェンドに修行のため傭兵としてやって来た
チェレスタの弟子・クラリオンと同じく傭兵である
あのシンフォニーとフォルの養子であり…
トリアーデ家の長男のラベイカであった。
お互いバレエのレッスンや修行で動かした身体を休ませようと
テラスに集まって昼時のまったりとした一時を過ごしていたのである。
「こういうときの女の子の胃袋って凄いなー…」
既に目の前にあるスパゲティを見事に平らげる二人の少女の姿に
クラビも少々苦笑いを浮かべていた。
「女の子の胃袋を舐めないでくださいね、クラビさん!」
「私もまだまだ行けますよ〜!ダイエットは食べなくても失敗しますしね♪」
二人のパワーに圧倒されながらも
クラビの隣にいるラベイカもスパゲティをすすっていた。
「ラベイカ君はそれでいいのか?」
「あっ、俺は少食だからこれでいいんですよ…」
苦笑いを浮かべながら彼が答えるとそれに対して、
ヴィオリーネとクラリオンの二人組は、
「ダメですよラベイカさん、男の子なのに食べないとー…」
「そうですよ、このままだと午後の修行で息切れしちゃいますよ!」
「ははは…」
二人の女性に言われてそれならばと皿に盛られているスパゲティに
手を出そうとしたその瞬間―
ひゅ〜るるるるるるる…すぽっ!!
ラベイカの首に何かがかかったのが見え、
一体何事だろうと3人は彼の首元に注目する。
するとそこには…さっきまでシンフォニーがかけていたあの首飾りの姿が…
「なっなんですか、これ…」
「さっさあ…?俺にもさっぱり。」
「でも、こういうのって…アレですよねクラビさん。」
「あっああ…まあな…」
そんな四者四様の推測は…見事に当たってしまったのである。
みるみるうちにラベイカの顔色は真っ青になり、
義父と同じくいきなり謎の高熱や謎の咳、謎の頭痛にうなされ始めたのだ。
血は繋がっていないというのに元から義父と同じく運に恵まれていないラベイカ。
不運にも、運命的に(?)親子2代で
この首飾りの苦労を味わうことになってしまったのだ。
「なっなんか…頭が凄いガンガンする…げほおぉぉっ!」
「きゃっきゃあああ!!ラベイカさん!口から血がぁ!」
更に不幸なことに、ラベイカのつけた首飾りは
シンフォニーの疲れをも吸い取っていて効力が更に上がっていたのだ。
「まっまるでサスペンスドラマの殺人事件ですね、クラビさん!」
「ラベイカ…お前ベタに不幸な奴だな…」
とりあえず誰か助けをよべよとか言いたくなりそうな場であるが、
更なる不幸がラベイカを襲うことになる。
彼の義母であるフォルに訳もわからぬまま
アンセムに引っ張り出されたクラーリィが戻ってきたのだ。
やっとこさ落ち着けると思ったら城の方から禍禍しい邪気を感じた彼は
急いで駆逐せねばという思いに狩られ、
テラスに向かって猛突進してきた。
「うぉぉぉっ!魔族めぇかくごぉ!!」
「ちっ違いますよ、クラーリィたいちょ…
げほげほ!俺です、ラベイカですってばー!!!!」
というわけでどんなわけで。
ラベイカは誤解が解けるまでクラーリィに
病人の身体で追い掛け回される羽目になり、
またしてもリーガルはこの一件で呪いの首飾りを見る羽目になるのだった。
めでたし、めでたし?
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