heterometer:異なる拍子が次々と演奏されること。



「お前達は何をしているんだ!」

爽やかな朝、スフォルツェンド郊外のある家に怒鳴り声が響いた。




いきなり寝室に響いた大声に部屋の主は至極不機嫌そうな顔をしつつ寝ていた身体を起こした。


「・・・いきなり何だ。常識を考えて声を出せ。」
「お前に常識を云々されたくない。一体この状況下は何だ。」
「寝ていた。」
「そんなもの見れば分かる!何故この様になっているか聞いているんだ!」


そう言ったクラーリィが指差す先にはリートがいた。
この騒ぎにも関わらずリートはノクターンの隣、
キングサイズのダブルベッドで気持ちよさそうに眠っている。
早い話が同衾していたのだ。
けれどもノクターンは全く動じない。

「俺が寝ている時に入ってきたんだろう。いつものことだ。」
「それはともかくとしてお前は犯罪に手を染めるつもりなのか?!」
「何故そうなる。」
「来たのが俺じゃなかったらどうするんだ!間違いなく誤解されるぞ!」


確かにクラーリィの言う通りではある。
三十路を超えたことで余計に色気を持ったノクターンと
童顔で男にしてはやたら可愛らしい顔立ちのリートの組み合わせはどう見ても怪しい。
おまけにノクターンに至ってはズボンは穿いているものの上半身は裸。
基本的には運動とは無縁そうな生活を送る割に
その身体はうっすら筋肉がついていい具合に引き締まっている。
こんな状態の色男と少年が同じベッドで寝ていたとあれば誰が見ても誤解しかねない。
そしてノクターンを余所にクラーリィはどんどんあらぬ方向に考えが進んでいるらしく
頭を抱えて何やら叫んでいる。

が、ノクターンはこれ以上何か言うのは面倒くさいと感じたのか
サイドテーブルのシガレットケースから煙草を一本取り出して口にくわえた。
火を付けそのまましばらく一服してから煙を吐くとようやく口を開く。

「で、俺に用事があったんじゃないのか。」

その言葉にクラーリィはようやく我に帰った。

「あ・・・ああ、そうだった。カデンツァがこの薬を頼むと言ってな。」


そう言ってクラーリィはポケットからメモ用紙を取り出しノクターンに渡す。
ノクターンは渡されたメモを受け取り、それにサッと目を通した。


「これなら保管室にある。ついて来い。」

薬品は全て把握しているらしくノクターンはメモをサイドテーブルに置いてから
またフッと煙を吐くと煙草を灰皿に押しつけた。
そしてベッドから下りて椅子にかけてある黒シャツを羽織ると
クラーリィを薬品保管室へ連れて行った。
所望の薬品を渡すとノクターンは寝直すと言ってまた寝室に戻り、
クラーリィは疲れたように溜め息をついた。

ちなみにリートはノクターンが起こすまで全く起きる気配を見せず眠り続けていたらしい。




「全く・・・あいつは何を考えているんだ。」
「あの人の考えていることが分かる人間なんてそうそういるわけないでしょう。」

私はあんまり分かりたくないですけど。と言ってカデンツァは紅茶に口を付けた。
クラーリィはこれまでの経緯を話してみたものの、その反応はあまりにもそっけない。
けれども客観的に言えばカデンツァの対応が
ノクターンと接する際に関して正しい姿勢と言える。

「しかしだな・・・!」
「何ですかクラーリィさん!新しいネタですか!?」
「・・・・・・毎回何処から湧いて出るんだお前は。」
「失礼な、今回は公式で来たんですよ。で、ネタがあるなら早いとこ白状して下さい。」

さあさあ!とメモとペンを片手に詰め寄るフォルに
クラーリィは本日最大と思われる溜め息をついた。