翌日。
「昨日お城で幽霊騒ぎがあったそうですね!早速真相を報道させていただきますっ!」
新聞記者のフォルが、予想通りにやってきた。
「・・・」
元に戻ったクラーリィは、早く噂が消えて欲しいので
取材させるだけさせておいてマスコミが飽きるのを待つ作戦に出たのだ。
下手に隠すと怪しまれるだろう・・・と。
「クラーリィさんは幽霊見たんですか?
噂によるとその幽霊、クラーリィさんのお父さんだったんですよね!?」
メモ帳を手にクラーリィに訪ねるフォル。
中には生前のクラーリィの父親の似顔絵・・・
絵が下手なフォルではなく、専門家に描いてもらったものがあった。
彼女らはクラーリィの父親を見たことが無い世代なのだ。
「い、いや・・・見ていない」
クラーリィは視線を逸らし余計なことは言うまいと、
冷や汗を流しつつ取材を受ける。
人の噂も七十五日。
どうにか誤魔化し、はぐらかしきってやろう。
幸いにもミュゼットも、事件を大きくしないために黙ってくれている。
その上フォルたちはクラーリィの父親のことを伝聞でしか知らないのだから
うまい具合に誤魔化すのは簡単だと思われる。
「そうですかー・・・それは残念でしたね〜・・・
せっかくお孫さんのカノンちゃんに会いに現れたのですから・・・」
フォルはメモをとる。
「どうしますか、フォルさん」
パートナーのカメラマン・シンフォニーが心配そうに言った。
「よし、シンフォニーくん!カメラよ!」
「え?」
フォルにカメラを指差され、シンフォニーはきょとんとする。
「心霊写真を撮るのよ、何としてでも撮りなさい!気合を込めて!
すぐ見られるように今回ポラロイドにしたんだから!」
「ええっ、そんな理由で・・・!?」
「これ心霊スポットを訪ねるときのお約束!
あ、シャッター下りないとかいう怪奇現象発生したら言ってね!」
「そんな無茶なー!!」
無茶苦茶なフォルのお願いにシンフォニーは泣きそうになるが、
それでもフォルには逆らえない彼はカメラを構える。
(ああ、撮れなかったら文句言われるんだろうなぁ・・・
ううっ・・・誰か助けて・・・)
黒魔術が使えるコルネットがここに居れば本物を呼んでくれたかもしれないが
生憎とコルネットはトロンの居るダル・セーニョに行ってしまっているので
逃げ道はどうやら無いようだ・・・。
泣く泣くシャッターを切る、哀れなシンフォニー。
そして・・・完成した写真を、一同は覗き込んだ。
「別にいつもの、お城の光景ですね」
シンフォニーが言う。
確かに、写っているのは普段と変わらぬ城内の廊下であった。
「まったく下らん、そんな心霊現象というものはな、
精霊や魂を召還できる専門の術を使う者が居ない限りだな・・・」
クラーリィが溜息をついた。
そう、正体が自分である以上、写るはずがないのだ。
しかし。
フォルが写真をじーっと見た後、写真の隅っこを指差す。
「ねえ、これ何かしら」
そこにはお城の白い壁の、いくつかの染み。
実際にも染みはいくつかあるようだが・・・
「あー、これ人の顔に見えますね」
シンフォニーが言う。
確かにそれは、髭の中年男性の顔に見えた。
彼らの探すクラーリィの父親とは明らかに違う顔だが。
ここまではありがちなことだ。
「そんなの光の具合や染みの規則性の偶然だろう?
心霊写真というものはな、よくそういう勘違いを・・・」
クラーリィが言って、写真を覗きこむ。
しかし、フォルの指先の顔らしきものは、どこかで見たことがあった。
(あれ、この顔どこかで・・・)
そこに。
「何を騒いでおる、クラーリィ」
昨日の騒動で腰を痛めたパーカスが、
カデンツァのところに膏薬を貰いに行く途中で通りかかった。
「ああ、いえ・・・心霊写真らしきものが撮れたとこいつらが騒ぐので」
「何、心霊写真だと・・・!?」
昨日ああいうことになったので、パーカスはびびりつつ写真を見る。
すると。
「チェンバレン様ーーー!?」
パーカスが叫んだ。
「チェンバレン様・・・って、ああ、ホルン様の夫の・・・
ってああっ!!」
クラーリィも叫ぶ。
そう、それは確かに・・・ホルンの旦那でリュートとフルートの父親、
チェンバレンのあの顔に似ていた。
「クラーリィさんのお父さんじゃなくて先代国王が出たー!?」
「嘘、マジですか!?」
「シンフォニー君、お手柄!!」
「ええーっ!?」
そして、また城内は大混乱に陥るのであった。
・・・どうやらちーさんの幽霊は、本物っぽいようだ。
彼はやっぱり、色々未練があるようだ・・・
そして。
「なにやら城内は今幽霊騒動が起きているそうです、ノクターンさん」
「そうか」
全ての原因を作った二人・カデンツァとノクターンが、また何やら話していた。
「まあ冥法軍ってのが居るくらいですから幽霊は居るでしょうけど・・・
魔法で戦わないノクターンさんの迎撃方法は?」
カデンツァは幽霊騒動の原因になったことなんてどこ吹く風、
新しい興味をノクターンに抱かせることで
また何かを開発してもらおうとしているようだ。
するとノクターンは答える。
「・・・以前、そういう者を専門的に消す薬の研究を軍に頼まれたが」
「ああ、聖水ってやつですね」
スフォルツェンドに居る者なら、聖水くらい知っている。有名な魔法アイテムだ。
「実験台が見つけにくかったがな」
ノクターンは付け加える。
「ええ、ノクターンさんは前線で戦いませんからね・・・
しかしノクターンさんには、聖水って言葉が似合わないですね」
皮肉でも冗談でもなく本気でさらりと言ってのけたカデンツァに、
「そうだな」
とノクターンが答えた。
「ならばもう少し似合うアイテムでも開発したらどうですか?」
「・・・」
「実験台なら、レプリーゼあたりがきっと見つけてきてくれますよ」
「・・・考えておこう」
カデンツァが笑い、ノクターンはそれ以上は答えない。
やはりこの二人は、常人にはわからない何らかの感性があるようで。
そして、不可能が無いというのも、この二人の場合は冗談には聞こえない。
・・・そんな二人の天才の被害者に、
またクラーリィが選ばれることは時間の問題なのだった。
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