「さあ行くわよシンフォニー君!
今日もはりきってノクターンさんに突撃取材!」
今日も今日とてやる気満々のフォルだが、
シンフォニーにがしっと腕を掴まれた。
「・・・何?」
「やっぱり止めた方がいいよ、フォルさん。・・・命は大事にしないと」
そう告げるシンフォニーの顔は真剣そのもの。
今までの経験から危険を感じる能力には磨きがかかっているらしい。
おまけに相手はあのノクターン。
自分の邪魔及び不都合なことをする相手には、
魔族だろうが王族だろうが一般人だろうが容赦は無い。
そんな人物が相手ならシンフォニーの言うことは至極もっともである。
が、それも記者根性の塊であり鑑であるフォルには通用しなかった。
「そんなことで新聞記者は務まらないのよ」
「・・・・・・死んだら新聞記者になれないって」
「余計なツッコミは不要よ、無用よ。いいから早く来なさい」
「はひ・・・」
ああ、やっぱり止められないのか。
そんなことを考えつつ、目と心から大量の涙を流しながら
シンフォニーはフォルに引きずられていった。
そうこうしているうちに二人はノクターンの家まで着いた。
「はぁ・・・いつ見ても凄い家だわ、相当稼いでるのね」
「フォルさん、その言い方って何かやらしいよ」
「ま、そんなことより取材よ取材」
そう言ってフォルがドアをコンコンと叩くとドアが開いた。
しかし出てきたのはノクターンではなく一人の少年。
その少年は柔らかそうな淡い緑色の髪に
緋色と紫紺のオッドアイという特徴的な外見だった。
これには二人も驚いて声が出なかった。
「・・・・・・」
「えーと・・・こちらはノクターン・ヴンダーリッヒさんのお宅ですよね?」
少年は無言でこくりと頷く。
「今、いらっしゃいます?」
「・・・・・・」
首を横に振るも少年は未だに無言。
フォルとシンフォニーは思わず顔を見合わせた。
何なんだろう、この子は。
二人が困惑していると、不意に少年が口を開いた。
「・・・入りますか?」
「あ、はい。おじゃまします・・・」
「どうぞ・・・」
少年は二人に家に入れてから紅茶を淹れ、
自分の分が入ったマグカップを持って日当たりのいい窓辺に座った。
そんな少年を見ながらフォルはこそっとシンフォニーに話しかけた。
「ねえシンフォニー君、あの子に思い当たるフシがない?
何か誰かに聞いたことある気がするのよね・・・」
「あ、そう言えば。・・・誰でしたっけ?」
「えーっと・・・」
するとフォルは思い出したというようにポンと手を打った。
「そうだ、リート君よ!ほら、前に
ヴァイラさんから聞いたことがあるじゃない!」
「確かに・・・話に聞いてた緑の髪とオッドアイの子ですよね」
「正にそうよ!リート君だわ!
はー・・・何であの胡散臭い占いオヤジと
こんな可愛い男の子が知り合いになれるのかしら」
世の中ってまだまだ不可思議なことが多いわ、と
フォルは腕組みをしながらうんうんと頷いた。
「フォルさん、それってヴァイラさんに物凄く失礼な発言じゃ・・・」
「いいんじゃないの?」
「・・・・・・。あ、リート君、写真撮っていいかな?」
「・・・?」
頭に疑問符を浮かべながらもリートはこくんと頷いた。
ありがとう。と言って、シンフォニーはシャッターを切った。
パシャっという音とフラッシュに少し驚いたのか、
リートは二、三度瞬きした後に目を軽くこすった。
「何か・・・可愛いわね」
「・・・うん」
そんな風に二人が紅茶を飲みつつ会話していた時、
ドアの開く音がして誰かの足音が近づいてきた。
「何をしている」
後ろから聞こえた低い声に二人は思わず背筋が伸びた。
振り向けばその家の主が腕組みをして
椅子に座っている二人を見下ろすように立っている。
「えぇとですね・・・ちょーっと取材させて頂きたいなあと思いまして」
「ほう」
「そしたら何と言いますか・・・」
「・・・・・・。」
冷や汗を流しそうな二人を
リートはマグカップを持ったまま不思議そうに眺めている。
「そ、それじゃ私たちはこれで!」
危険を察知したフォルは外に出たが、
シンフォニーは一旦踵を返してノクターンの方へと戻った。
「あ、あの!リート君の写真は現像してもいいですか?
記事とかには絶対に載せませんから!」
「俺には関係の無いことだろう。リート、お前はどうなんだ」
「ん?・・・んー・・・うん」
「・・・だそうだ、好きにしろ」
「あ、はい。ありがとうございます!」
そう言ってシンフォニーは律儀に頭を下げるとフォルの方へと走り、
二人は帰って行った。
その後、フォルはカデンツァの所で経緯報告を兼ねた談話をしていた。
「それにしてもリート君って可愛い子ですね」
「ああ、そうね。コンチェルトも可愛い可愛いって言ってたし」
「何であんな無愛想な人と一緒に居るんでしょう?」
「あの子はノクターンさんと似てる所があるのよ。
お互いに心地良いんでしょうね」
そこへグラスを乗せたトレーを持ったコンチェルトが入ってきた。
「カデンツァ、頼まれてたフルーツゼリーよ」
「ありがと。・・・全く、ノクターンさんは
ヘビースモーカーもいいところなんだから!」
「煙草を吸う人にビタミンは大事だからね」
「ええ。いくら言っても止めないなら、せめてこれ位はしておかないと」
「わ、美味しそう!」
「フォルちゃんたちの分もあるわよ。
リート君の分は五人分くらいで足りるかしら?」
「ご、五人分?!」
新たな事実にフォルは驚きつつ、
ここにシンフォニーがいたらもっと驚くんだろうなと思った。
「で、あの二人は何とかならないのかしら」
半ば諦めたような顔でカデンツァはある方向に目線を移動させた。
「クラのバカ!せっかく美味しいゼリー作ったのに!」
「甘いものばかり食べるなと言っているだろうが!」
「もうクラにはあげない!」
「なっ・・・!誰がいらないと言った!」
「クラーリィさんも、もう少し大人になってほしいもんだわ」
「いいんじゃないですか?ケンカするほど何とやらって言いますし」
「夫婦喧嘩は犬も食わないどころかバクテリアだって食わないわね・・・」
「私としてはいいネタが出来てありがたいですよ」
もぐもぐとフルーツゼリーを食べながらフォルがにこやかに言った。
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